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ジャガイモの狂気と溢れるもの

 入学初日の出来事が一通り終わり、放課後を迎えた。

 僕は、とりあえず家に帰ることにした。周りの同級生に声をかけようかとも思ったけれど、多分これからいっぱい話す機会はあるだろうし、特に話したいことも思いつかなかった。(悪い意味ではなく)


 僕は、下駄箱で上履きからニューバランスのスニーカーに履き替えた。

「あれ、もうお帰り?」

 後ろを振り返ると、桜坂が真新しい学生カバンを肩にかけて立っていた。彼女は、右手をあげて「よッ」と小さな声をだした。

「うん。まぁ、帰ろうかなって」

「一緒に帰ろうよ」

 桜坂は、僕の下の下あたりにある下駄箱を開けて、ローファを取り出した。

 桜坂は同じクラスだった。しかし、僕は特に話はかけなかった。なぜなら、特に話したいことが……

「何か、考え事でもしてんの?」

 僕が、自分語りに必死になっている空間中に突如として彼女は入ってきた。

「いや、別に」

 僕は、肩に学生カバンをかけてスタスタと歩いた。その後ろを桜坂はスタスタとついてきた。

「あ、ちょっと近所の図書館に寄りたいから一緒にきてよ」

 僕の家は、正門から出た方が早かったが、図書館は裏門から出た方が早かったため、彼女は僕のブレザーの袖を引っ張って、裏門まで連行した。裏門にはちょっと長い階段があった。僕らは一段一段ゆっくりと降りていった。

「染谷くんは本とか読まないの?」

 階段を下りながら彼女は僕に質問をしてきた。

「そうだねぇ。あんまり読まないかな。でも、小学校の時はファーブル昆虫記が好きだったよ」

「なんか、あったねそんな本」

「内容も昆虫の生態の話とか載ってておもしろかったけどさ、なにより名前の響きが僕は好きだった。ファーブルってなんかカッコよくない?語感が秀逸だよね」 

 僕は、あまり感情の起伏のある話し方はしない。しかし口調的には興奮状態となっていた。ファーブル昆虫記は本当に中身というよりその語感が秀逸だと思っていた。

「染谷くんて、最初の印象だと結構ぼーっとしてそうだったし、なんかボソボソしゃべるし。口調に起伏がないし。でも『語感が秀逸とか』言ったり、私のわがまま聞いてくれたり。もしかして、染谷くんっておっさん?」

「よく、老け顔って言われる」

「老け顔は、将来童顔て言われるんだってお母さんがよく言ってたよ。」

「本当かよ」

「本当だよ」

 桜坂は、なぜか笑っていた。僕はあまり、女の子のことをよく知らないようだった。どのあたりに面白ポイントがあったのだろうか。


 しばらくして、目の前に図書館が見えてきた。図書館と言っても、大きい県立図書館のようなものではなく、スポーツセンターに併設してある小規模な図書コーナーであった。

 彼女は、スポーツセンターの自動ドアが開いたらすぐに中に入っていって図書コーナーのほうへと歩いていった。僕は、ひさしぶりに来たスポーツセンター来た。小学校5年生くらいの時はよく来ていたけど、6年生になってからはなぜだかあまり来ていなかった。

 気がつけば、僕はスポーツセンターを一周していた。これはいけない。僕は、カビ臭図書コーナーに消えた桜坂を探すことにした。

 しかし、別に急ぐ必要もないかと思った僕は、探しがてらに、図書コーナーの本棚を物色していった。本のジャンルというのは本当に色々あるもんだ、と僕は大人顔負けな感想を抱いた。そして、僕は気になるタイトルの本を見つけた。

「キャッシュフロー計算書」

 無理やりではあるものの、なんだかファーブル昆虫記に通ずるような語感であった。ただ、「計算」とかっていう言葉が入っていたか難しい本なのだろうと僕は想像した。そして、となりに面白そうな本があった。

「ポテトチップスはどうして一袋150円なのか(低学年バージョン)」

と背表紙に書かれたタイトルの本を僕は、手に取ってみた。低学年というのは多分小学生を対象としているものだろうと思った。表示の絵は、アニメのようなキャラクターのじゃがいもが縦横無尽に飛び回っていた(ちょっとした狂気である)。

 ぱらぱらとめくると、農家のおじいさんが、じゃがいもの「じゃが吉」と「じゃが丸」を引っこ抜くとこから始まり、いつかの感動のエピソードを経て、最後は笑顔でポテトチップスになるという話であるということがわかった。(ラストは農家のおじいさんがポテトチップスを食べながらプロ野球を見ているというシーンで終わっていた)

「何を、読んでるの?んんん?じゃがいも?」

 僕は、あまりにも不思議な本であったため、桜坂を探すのを忘れてしまっていた。

「染谷くんは、会計とか経営に興味あるの?」

 彼女はそういうと、本棚に記載されているジャンルを指差した。そこには、「会計、経営」と書かれていたのだった。

 

 


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