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プロローグ

 小学校の卒業式は特に泣くつもりはなかった。

 なぜならば、ほとんどの同級生が小学校から徒歩3分のとなりの中学校に進学するから。確かに、一部の友達は中学受験というものをして、私立の中高一貫校に進学していった。でも、僕のようなのっぱらを走り回ったり、校舎の屋根がある場所で放課後カードゲームをするような子供は、そういう「できる」児童とは一線を画しているから特別仲はよくなかったと思う。

 でも、僕は不思議と泣いてしまった。小学生なりに何かを感じてしまったんだと思う。というか、この場所にみんなで揃うことはないという特別感が、僕を泣かせてくれたんだと思う。優しかった担任の先生、冷凍みかんだけは大好きだった学校の給食、決してきれいではなかったトイレ。今思うと、独特な匂いと雰囲気ではなく、単なるカビくさかった図書館。僕は、一気にそういう思い出の感情が溢れてないてしまった。友達にはいつでも会える。でも小学校6年間はもうやってこないのだ。


 僕は、一輪のバラの花を卒業式の日に先生からもらった。先生は、大人なのに人目をはばからず泣いていた。先生は、僕たちのことをどう思っていたのだろうか。先生とはいえ「仕事」であり「職業」である。小学校の先生として担任を持つ期間が20年あるとしたら(学校長とかの管理職になる可能性もあるから)、僕らはそのうちの4分の1にしか過ぎない。でも、先生は泣いていた。僕にはその気持ちを理解するにはもう少し「人生」というものは理解する必要があるのかもしれない。

 卒業式の日は、家族みんなでお寿司を食べに行った。僕は、回転寿しが大好きだった。好きなものを自由にとれるし、お寿司がぐるぐると回っているのを見るのが好きだった。ボタンひとつで、注文すると別のルートでお寿司が運ばれてくるシステムもとても面白かった。

 僕は、大好きな玉子のお寿司を3皿食べた。お母さんは「せっかくなんだから、他のお寿司もたべなさいよ」と言ったが、僕は「僕は、玉子が好きなの」と言って食べ続けた。お母さんは、呆れたような表情をしたが、なんだか嬉しそうだった。12年間、成長すると「こだわり」というものが芽生えたことをお母さんは実感したんだと後で気づいた。子供は知らない間に成長していくし、その知らない間に成長しているのを気付いた瞬間はとても喜ばしいのだろう。

 お父さんは、ビールを飲みながらひたすらガリを食べてた。僕はガリはあまり好きではない。なんか、にがいというかすっぱいというか。あれは大人の味だと思う。でもいつかは、ぼくもガリをがりがりと食べる日がくるのだろうか。


 帰りは、お母さんが車を運転して帰った。助手席にはお父さんが乗っているが、酔っ払いすぎたのか既に寝ていた。後ろの席には、妹と僕が乗った。妹はまだ卒業はしていないし、小学4年生だから卒業はまだ先である。きっと、妹が卒業する時もまたお寿司が食べれると思った。でも、その頃には僕は高校生の進学の時期である。高校生になっても回転寿しを僕は好きなのだろうか。たぶんきっと好きだ。何歳になっても、僕は回転寿しを好きでいる自信がある。そして、玉子を3皿といわず5皿、10皿と食べてやるんだ。


 あと数週間もしたら、僕は中学生になる。

 中学生はどういうものなのか。制服を着るくらいしか思いつかない。でも、きっと楽しいのだろうと僕は思いながら、走る車の外を見ていたのだった。






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