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光のもとでⅠ 第十三章 紅葉祭  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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09~10 Side Soju 02話

 翠葉にオーダーをすると数分後には桃華がトレイを持ってやってきた。

「お待たせいたしました。チョイスセットです」

 桃華は迷わずシュガースティック四本を唯に差し出し、俺にはブラックのコーヒーを用意した。

「へぇ、俺が砂糖つきであんちゃんが砂糖なしってところまできっちりオーダーシートに書かれてるんだね?」

「そういうわけではないのですが……」

 桃華は言葉を濁して俺を見た。

「唯、彼女、簾条桃華さん。翠葉のクラスメイトで俺の彼女」

「は? ……え? ああああっ!?」

 奇怪な反応をする唯を見て桃華が笑う。

「以後、お見知りおきを」

「いえ、こちらこそ……あんちゃんとリィがいつもお世話になっています」

 急にかしこまる唯がおかしかった。

「うーわっ……あんちゃん、超面食いっ」

「桃華のいいところはそれだけじゃないよ」

「何? 彼女自慢っ!?」

「そう。桃華となら翠葉争奪戦を繰り広げられる自信がある」

「……なんですかそれ」

 桃華がクスクスと笑いながら補足する。

「つまりですね、それくらい翠葉が好きってことです」

「そういうこと」

「……推測なんだけど、もしかしてあんちゃん、今までリィがネックで彼女さんとうまくやってこれなかった人?」

「否定はしない」

「なるほど納得……」

 そのあと、手短に桃華の予定を訊くと、十時から校内の見回りという情報を得た。

 桃華は申し訳なさそうな顔をして、

「今日、生徒会メンバーはフリータイム返上なんです」

「……ま、それもそっか。午後が全部ライブっていうんじゃそんな時間もないよな」

「すみません……。では、ごゆっくり」

 彼女は新たなる客のもとへとオーダーを取りに行った。

 フリータイムにデートができなくなった、ということを今の会話で伝えたかったのだろうけれど、俺的にはあまり問題視することでもなかった。

「……ねぇ、あんちゃん。ベールがかかってたから顔ははっきりとわからなかったけど、パンフの写真に写ってるのって、間違いなく今の簾条さんだよね?」

 唯が言うパンフレットとは、ウィステリアホテルの挙式場のパンフレットのこと。

「そう。静さんに相手役は俺が決めていいって言われたとき、彼女しか思い浮かばなくてさ。それをきっかけに告って付き合い始めた」

 それ以外にも色々あったけど、それは今ここで話すことでもないだろう。

「あんちゃんが意外と抜け目ない人間であること発覚。俺のデータベースに追加追加」

 これは抜け目がないということになるのだろうか。

 でも、妹のクラスメイトに目をつけた、という部分だけを見ればそうなのかもしれない。

 ただ、それだけで恋愛対象に入ったわけじゃないんだけど――。


 翠葉のクラスを出ると司のクラスのラテアートへ行き、コーヒーを飲んだあとに写真部の展示を見にいった。

「唯、俺は桃華のところに戻るけど、おまえはどうする?」

「そんなそんな、おふたりのお邪魔なんてしませんよ。馬に蹴られて死にたくないしっ!」

 イヒヒ、と笑っては後ろ向きに歩き始める。

「碧さんたちもそろそろ来るころだろうし、そっちと合流するから気にしないで」

 そう言うと携帯を取り出し、手を上げて俺とは別方向へ向かって歩きだした。

 片手に携帯、もう片方の手はフードつきジャケットのポケットの中。

 少し猫背気味の姿勢で歩く唯を振り返る人間は少なくない。

 そんな唯を見て思う。

 唯はこの先誰かを好きになることがあるのだろうか……。

 芹香ちゃんのことは一生忘れられないだろう。

 でも、いつか――と唯の未来に幸せな恋の形を願ってしまうのは、

「俺の傲慢かな……」

 唯の姿がすっかり見えなくなると、俺は翠葉の教室へ戻った。

 正確には教室の斜め前。

 しばらく待てば桃華たちが出てくるだろう。

 三階へ続く階段近くの壁に寄りかかり携帯からクラス投票をしていると、知らない子たちに声をかけられた。

「あのっ! うちのクラス、迷宮お化け屋敷をやっているのですがお時間ありましたら……」

 あぁ、勧誘か。

「ごめんね、今人を待ってるんだ。時間があったら寄らせてもらうね」

 やんわりと断ると、タイミングよく教室から桃華や翠葉たちが出てきた。

「……蒼兄?」

 翠葉は首を傾げて足を止めてしまった。

 周りにいた女の子たちに再度「ごめんね」と断り翠葉に声をかける。

「お疲れさん。桃華と海斗くんはこれから校内循環なんだろ? それ、俺も一緒させてもらっていい?」

 桃華ではなく海斗くんに尋ねると、

「もっちろんっ! っていうか、俺さぼっていい?」

 海斗くんの問いかけに桃華は一瞬言葉に詰まったものの、小さく「いいわよ」と口にした。

「御園生さんっ、これっっっ。ありがとうございました」

 佐野くんがカードケースを手に、若干カチコチとした動作で言う。

「気に入ってもらえて良かった。それ、あると便利だからさ」

 佐野くんは、再度「ありがとうございます」と腰を直角に折った。

 こんなところはもろに体育会系……なんて思いつつ、その後ろにいた葵の弟、空太くんにも声をかける。

「空太くんともうひとりは……香乃子ちゃんかな?」

「あ、はい。初めまして、七倉香乃子です」

 赤いフレームのメガネをかけた子はペコリとお辞儀をする。

 翠葉からカフェのスタート時のメンバーの名前は聞いていたし、ライブのときにはクラスの実行委員ふたりがついてくれるとも聞いていた。

 そのうちのひとりがクラスで唯一のメガネ女子であることも。

「翠葉の兄で、蒼樹といいます。妹が今日は――いや、今日も、かな? お世話になると思うけどよろしくね」

 ふたり揃って「はい」と答える。

 それを見てから、

「じゃ、翠葉。午後のライブステージ楽しみにしてる。桃華、行こう」

 俺は桃華の背に手を添えて歩きだした。


 彼女の隣に並び校内を歩く。

 そんなことを新鮮に思い嬉しいと感じる。

 不満があるとすれば、彼女の首にカードケースがかけられていないこと。

 そして、どうしたことか一言も喋らない。

「カードケース、気に入らなかった?」

 今朝、ランニングのときに渡した感じだと喜んでもらえたと思ったんだけど……。

「いえ、あの……とても嬉しかったです」

「で、今それを使ってくれてないのはどうしてかな?」

「え、あ――ウェイトレスのときには学生証必要なかったので……」

 桃華らしくない歯切れ悪い答えが返ってくる。

「でも、すぐに必要になるんじゃない?」

 俺は十数メートル前方にあるゲートを指差す。と、彼女が歩くペースを少し緩めた。

「……やっぱり、こういうのは嫌だった?」

 表情をうかがい見ると、その瞬間に無線が入ったのか右手を耳に添えてきぱきと受け答えを始める。

 さらに、廊下で声をかけてきた人間に対しても、時間をかけずに的確な指示を出していた。

 そんな彼女を見て思う。

 俺はちょっと浮かれていたのかもしれない。

 以前、桃華はフリータイムのデートを快諾してくれたけど、やっぱり人目が気になるのだろうか……。

 舞いこんだ仕事を終えた桃華は、「すみません」と謝る。

「謝る必要はないんだけど……。桃華、今困っているなら困ってるって言ってほしい」

 クラスのカフェへ行ったとき、彼女はフリータイム返上と言っていた。

 それは校内デートをする時間がないと言いたかっただけだと思っていたけれど、実のところは校内デート自体をキャンセルしたかったのかもしれない。

 なんで今の今まで気づかなかったかな……。

 少し考えればわかりそうなものを。

 そこで改めて思うんだ。

 俺、やっぱり浮かれてたんだ、って。

 桃華はインカムに対応していたときに機敏さを失った状態で俯いたまま。

「……悪い、困らせるつもりはなかったんだけど。桃華はこのまま巡回を続けて? 俺は海斗くんに連絡を入れたらほかの展示を見にいくから」

 配慮が欠けていた。

 そんな自分の至らなさを情けなく思い、彼女の返事は待たずに来た道を引き返すことにした。

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