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光のもとでⅠ 第十三章 紅葉祭  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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05~08 Side Kaito 01話

 全体ミーティングが終わったあと、司に呼び止められた。

「佐野にインカムの使い方を教えるとき、翠のフォローも頼む」

「え?」

「使い方に不安があるみたいだから」

「わかった」

「それと、秋兄たちが対応できないものがひとつだけある」

 切れ長の目を見たとき、司の言わんとすることを察することができた。

 秋兄たちが対応できないもの――それはつまり、「学園警備が対応しきれないもの」だ。

「今朝気づいた……」

 司はまるで自分の失態のように話す。

 俺なんて、今言われて気づいたくらいなのに……。

「翠には話しておいたほうがいい」

 ただし、人の前で言えるものでもない、か。

 ザワリ、と心が揺れる。

 感情のコントロールが狂いそうな前兆。でも――。

「俺から話す」

 司を見ると、司は視線を合わせては緩く首を振った。

「いや、いい。俺が話す」

「なんでっ!?」

「そんな顔で言われるくらいなら俺が言ったほうがいい」

「っ――」

「俺は言うか言わないかで悩んだけど、海斗ほどナーバスにはならない」

 くそっ、悔しい――。

 けど、司の言葉を呑み込めるほど自分の現状を素直に認めることもできない。

「……何言ってんの? 誰がナーバス? 全然そんなことないし。いーよ、俺がタイミング見計らって言うから」

 笑みを添えてみたものの、

「無理しなくていいけど?」

 心の奥底まで見透かすような視線を向けられた。

「別に無理してないしっ」

 俺、何やってるんだろ……。これじゃ、肯定してるのと変わらない。

 居たたまれなくなり、俺は司に背を向け先を歩く翠葉たちを追った。


 教室で佐野にインカムを渡し、使い方の説明をしつつも頭を占めるのは司との会話。

 いつ……? いつ翠葉に話す?

 桃華や飛鳥は幼稚部からの付き合いだから知っているし、佐野もうちへ泊りにきたときにそれっぽい話はした。

 翠葉にはその方面の話をしたことがない。

 恐らく、司も秋兄も言っていないのだろう。

 言わなくていいならそれに越したことはない。

 自分のこととして話す分にはまだいいんだけどな……。

 それを翠葉にも強要させるとなると話は別で――。

 胸がモヤモヤする。

 でも、こんな役ばかりを司にさせたくはなかった。

 俺の気遣いなんて、あいつ、絶対気づいてねぇし……。

 そもそも、司に言われた時点で「言いたくない」って気持ちが顔に出た俺の分が悪い。

 司はこれを言うことに抵抗はなかったのかな……。

「言うか言わないか」――そこに悩んだとは言っていたけど、それは「言うか言わないか」だけの話で、俺が感じている「抵抗」とは別物な気がする。

 俺は司や秋兄みたいになりたいと思っている部分もあれば、ああはなりたくない、と思っている部分もある。

 それが何かというのなら、「人付き合いの狭さ」なわけだけど、これは性格的なものとは別に理由がある。

 藤宮の人間の多くは交友関係が広くない。もしくは、広いけれどもどひどく浅い。

 それは表面上のものとしかいえないような関係が多い。

 仕事上の伝手や人脈といったものとは全くの別物。

 うちは「友人」というものが極端に少ない一族だと思う。

 でも、それはある意味仕方のないことなんだ。

 藤宮とつながりの強い人間は、囮の対象にされることがある。

 事件が公にされたことはないけれど、過去には一族の人間ではなく、それと親しい付き合いをしていた人間が誘拐された実例もある。

 そんな理由もあることから、周りの人間を守る意味合いも含め、「必要以上に深い付き合いはするな」と幼少の頃から言われて育っている。

 早い話、「弱みを作るな」だ。

 もし、作るのであれば、その対象を守れるだけの力を持て――。

 藤宮の人間が異性に対して、「付き合うイコール結婚」という考えに至るのには、こういうことが理由に挙がるのかもしれない。

 さらに、「敵」は外部の人間とは限らない。

 身内における足の引っ張り合いはそこら中でやっている。

 年に一度開催される藤の会に子どもの頃から出ていれば、嫌でも目にする。

 身内でより上位にいる人間に媚び諂う人間や、こき下ろそうとしている人間。失脚させるさせない、そんなことは日常的に行われている。

 もっと言うなら、将来企業のトップに立ちそうな人間は命を脅かされることもある。

 だから、会長職や企業のトップに立つ人間の血縁者にはボディーガードがつくし、自分の身を自分で守れるように護身術の類を習わされる。

 こういう行事のとき、何が厄介かというならば、外部の人間でも内部の人間でも犯行が可能だということだろう。

 一族の人間が外部の人間に依頼することもある。

 身内客として入ろうと思えば藤宮に関わる名前なら入れないことはない。

 その一点に置いては警備サイドではじきようがない。

 だからこそのボディーガードであり、自身での警戒が必要になる。

 そんな一族の中で、俺は交友関係が広いほうだと思う。

 それでも、藤宮の人間に変わりはない。

 広くても、それが深いものかと問われたら、答えは否。「分け隔てなく」という部類だと思う。

 俺がこれから翠葉に言うことは、「翠葉は違う」と断言するようなもの。

 翠葉を「対象」に入れたことを認めたことになる。

 俺が話しても司が話しても、誰が話したところで結果は変わらないけど、「言わなくちゃいけないこと」と認識しても、俺は躊躇する。

 こういうところ、弱いと思う。全然潔くない。

 でも、時間もない――。

 司があのタイミングで俺に声をかけたのは、自分で言うタイミングがもうないから。

 つまり、俺がラストチャンス。

 全く要領の得ないことをインカム越しに言われるのと、目の前にいる人間から言われるの。

 たったそれだけの差だけれど、相手に与える不安がどれほど変わるのかくらいは察しがつく。

 ふと翠葉に目をやると、飲みかけのペットボトルの蓋に手をかけたところだった。

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