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光のもとでⅠ 第十三章 紅葉祭  作者: 葉野りるは
本編
47/110

47話

「あ、いたいた。御園生さん、ありがとね」

 インターハイでツカサに勝ったという先輩に言われ、「いえ」と短く返した。

「ところで御園生さん」

「はい……?」

「インハイのとき、夜、藤宮くんに電話した?」

 え……?

「女の子から電話かかってきたんだよね。なんとなくなんだけど、それ、御園生さんなんじゃないかって思って」

「……たぶん、私です」

 確かに電話はかけたし、一度切ってから数分後にかけ直してきてくれた。

 きっと、そのときのことを言っているのだろう。

「そうだよね? さらにはさ、その黒い携帯、御園生さんのじゃなくて藤宮くんのじゃない?」

「っ……!?」

「あのとき使ってた携帯とは違うんだけど、携帯、代わってもらうときに表示されてた名前が『翠』ってなってた。それって御園生さんの下の名前なのかなと思って。あのとき、電話に出た藤宮くんも『スイ』って言ってたし」

 ただ事実を言い当てられただけなのに、顔が熱くなる。

 人の良さそうな先輩はにこにこと笑いながら話を進める。

「藤宮くんと付き合ってるの?」

「ちっ、違いますっっっ。ツカサには好きな人がいますしっ……」

「……力いっぱい否定、ね? ……で、藤宮くんには好きな人がいる、か。じゃぁさ、俺が付き合ってくださいって申し込んだら少しは考えてくれる?」

「えっ!?」

 突然のことにその場のみんなが驚いた顔をした。

 でも、誰よりも驚いたのは私だと思う。

「あのっ……」

「答えは今じゃなくてもいいんだけどな? 俺は一目惚れだけど、御園生さんは俺のこと何も知らないでしょう? 何度か一緒に遊んだりどこか行ったりして自分のことを知ってもらってから決めてもらえると嬉しい」

「あのっ……」

「ん?」

「ごめんなさいっ……」

 なんと言葉を続けたらいいのだろう。

 朝陽先輩に模範解答は教えてもらった。でも、それじゃだめな気がする。

 それは人が作ってくれた文言であり、私の言葉ではない。私の考えではないのだ。

「やっぱりここで返事されちゃうのかな?」

「あの……私にも好きな人がいます。片思いなんですけど……失恋決定なんですけど……。でも、今はまだその気持ちを大切にしたいから……」 

 人に好意を寄せられても、今の私にはその人を見る余裕はないと思う。それなら、気を持たせるようなことはしたくない。

「ま、ライバルがアレじゃ敵う気はしないんだけどさ」

 え……?

「アレ」と指された方を見ると、ツカサがいた。

 途端、全身に熱を持つ。

 なんでっ!? どうしてっ!? どうして私の好きな人がツカサだってわかっちゃうのっ!?

「かまっちゃーん! 本当、この子かわいいね? 容姿はもちろんなんだけど、反応がいちいちかわいくて困っちゃうよ」

 その言葉にさらに体温が上昇する。

「でも、彼氏が無理でも友達ならどう? 俺ね、人と真っ直ぐ向き合おうとする人は男女問わず好きなんだ。だから、これ。もらってね」

 手に握らされたメモ用紙には名前と携帯番号、メールアドレスが書かれていた。

「俺の名前は滝口隼人。メモに書いておいたから、忘れたらメモ見て思い出して?」

 あまりにも邪気のない笑顔だったからか、私は「はい」と答えていた。

 ノリは違うのだけど、海斗くんや空太くんに似たような人だと思った。

 三年生だからなのかこの人の持つ本来の気質なのか、落ち着いてはいるのだけど、周りを明るく穏やかにする術を持っている――そんな人だった。

「青木、助かった。巡回戻って。翠は巡回に出なくていいから会計作業に戻れ」

 さっきインカムで話したときはここまで機嫌悪くなかったのに、今目の前にいるツカサは明らかに機嫌が悪い。

 仕事で何かあったのだろうか。でも、生徒会の仕事関連でツカサの機嫌が悪くなるところは見たことがないし――。

 どうしたのかな……。

 返事をするでもなくツカサを見ていたら再度「戻れ」と言われ、慌ててその場の人にお辞儀をして図書棟に足を向けた。

「御園生ちょっと待ってっ」

 鎌田くんの声に振り返ったけれど、そこにはツカサの背があった。

「翠に何か?」

 私は慌ててツカサの前へ回り込む。と、絶対零度と呼ばれる笑顔を貼り付けていた。

「ツカサっ? あのね、鎌田くんは友達なの」

 誤解をしていると思ったからこその言葉だった。

 だって、そうでもしなかったら、ツカサが第二の蛇になってしまい、鎌田くんが本日二回目の蛙になってしまいそうだったから……。

 きっと、ツカサは鎌田くんを中学の同級生だと察したのだろう。だから、こんな対応なのだ。

 何も悪くないのに機嫌の悪いツカサに睨まれるのは申し訳なさ過ぎる。

 だから、早くに誤解を解こうと思った。

 本当のところは、鎌田くんを友達と言っていいのかはわからない。

 とくに親しかったわけでもないし、時々掃除時間に話す程度の関係。

 ただの同級生でクラスメイト――それだけの関係かもしれない。

 それでも、会って怖くないと思える同級生は鎌田くんのほかにはいないのだ。だから、ほかの同級生と一緒にはされたくなかった。

「御園生、クラス教えて? これ、投票するから」

 鎌田くんはにこりと笑ってバーコードを指差した。

「あ、一年B組のクラシカルカフェ。私、午後の二時間はクラスに戻るから、もし時間があったら寄ってね」

 そう言って、ペコリとお辞儀をして図書棟に戻った。


 図書室に足を踏み入れると、私に気づいた桃華さんが手を止めた。

「翠葉……? 今、巡回の時間じゃなかった?」

「うん、そうなんだけど……。なんだかあまり役には立てないみたいで戻されちゃった」

「何かあったの?」

「ううん、何かがあったわけではないの」

 上手に説明はできそうになくて、ごまかすようにノートパソコンの前に座り作業を始めてしまう。

 桃華さんもそれ以上訊こうとはせず、すぐに自分の作業へ戻った。

 パソコンに向かいつつ、ここにもすてきな女の子がたくさんいるな、と改めて思う。

 私の側にいる女の子はみんな魅力的だ。でも、私とツカサの両方に接点がある人は限られる。

 もしツカサの好きな人が桃華さんだとしたら……?

 桃華さんは蒼兄と付き合っているから苦しいことになるよね。だから、あの歌だったのかな……。

「翠葉ー? なんか表情暗いけど?」

 嵐子先輩に顔を覗きこまれてびっくりした。

 猫目が印象的な嵐子先輩もすてきな先輩だと思う。

 いつも元気で、ちょっと躓いたくらいじゃめげない強さを持っている。

 ……嵐子先輩が相手だったとしても、嵐子先輩は優太先輩とお付き合いしているし……。

 それをいうなら茜先輩も……?

「翠葉?」

「わわっ、すみませんっ」

「別にいいけどさ、会計とちったら司がおっかないから気をつけたほうがいいよ? もうちょっとしたら優太も戻ってくるから、そしたら翠葉はお昼休憩ね」

「ありがとうございます……」

「ところで、そのメモ……」

「え?」

 嵐子先輩がテーブルを指差す。

 そこには、さっき海新の先輩に手渡された小さなメモ用紙があった。

 折りたたむこともしていなかったそれは、書かれたほうが上になって置かれていた。

「滝口隼人って……海新の?」

「嵐子先輩、ご存知なんですか?」

「ご存知も何も、弓道のインハイで優勝したのってこの人だよ?」

「え……? あ、そうだったんですね」

 確かに、ツカサに勝ったというのならそうなのだろう。

「で、何がどうしてその人の連絡先がここに?」

「ツカサの招待客らしいです。たまたま巡回途中に会って、さっき図書棟まで案内してきたんです。今はツカサと話していると思います。図書棟の入り口にいませんでしたか?」

「あー……私、一階から搬入物と一緒にエレベーターで上がってきちゃったから会わなかったわ。でも、それでなんで翠葉がこれを持ってるの?」

「……かくかくしかじか、です」

「なーるほど。ナンパされたか」

「…………」

 あれはナンパっていうのかな。それとも告白、なのかな……。どっちなんだろう……。

「わー、ごめんごめん。頭抱えさせるつもりはなかったんだけどっ!?」

 気づけば、私は頭を両手で抱えていた。

「でもね、アレがもっと大きな低気圧になりそうだから、これはしまったほうがいいよ」

 嵐子先輩の視線の先には図書室に戻ってきたツカサがいた。

 そちらに気を取られているうちに、嵐子先輩がメモ用紙を折りたたんでポケットへと入れてくれた。

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