花の天職
八卦は呆然としていた。店に戻ってからも桜が、占い師の才能を持った少女を逃したこと、もうこないんじゃないかということ、それらを含めて八卦は呆然としていた。公園から桜が走って帰った後、札師に少しからかわれた。
「逃げられちゃったね~。彼女はこのままだと教師の道まっしぐらじゃないかな?まぁ君が向いてるって言ったんだし大丈夫だろうけどさ。もう会えないのが悲しいのかい?なに、惚れたの?」
「そんなんじゃねーよ。ただ一度故郷の里に連れて行きたかっただけさ。」
「ああ、僕らの生まれ故郷の里ねぇ。あそこに行ったら確かに占い師とかに興味を持ちそうではあるな。そういえばあんまり僕も里帰りしてないなぁ。」
「これを期に帰ったらどうだ。」
「う~ん、やめとく。いまさら帰りづらいからねぇ。またその辺をふらついているよ。」
「お前の言うその辺は日本中だろうが。」
「まぁね。そんなわけでちょっと日本中をふらついてくる。じゃあまったね~」
あっという間に札師は歩いて去っていった。歩いていたのにいつの間にかいなくなっていたのである。まぁ、いつも通りであった。
店に戻るとちょうど桜と同じぐらいの年齢の女の子がいた。俺が外にいる間に来ていたようだ。
「はじめまして!桜の友達の花です。桜来てませんか?」
「あぁ、さっき帰ってったよ。ちょうど入れ違いになっちゃったね。」
「そうですか・・まぁいいです。ちゃんと帰ってると思いますし。」
「心配しないんだね。俺も平気だとは思うけど。」
「あの子昔から事故に巻き込まれそうになったりしても大体無事なんです。そんなことより、私に合った仕事を教えてもらえませんか?」
花は桜がここで占い師に向いていると言われたのを聞いて事故に巻き込まれそうでも平気だったことを思い出し、それも関係しているのではないか、そしてそれをこの人は見抜いたのではないかと。
「わかった。どれどれ・・・」
八卦は花の手を見て、目を見て、頭を見て花の才能を見る。見つめる。そして―――
「・・・なんだ・・これ・・・こんなこと初めてだ。」
「どうしたんですか?」
「いや・・・見えない。」
「え?」
「君にとって一番の職業、それを・・・見れない。ちょっと待っててくれ。」
八卦は立ち上がると棚から紙を取り出す。その紙を花の頭に載せ、手を載せる。
「何をしているんです?」
「君の精神を写し取っている。今日はもう遅いから帰ったほうがいい。俺はこれを元に君の仕事をもう少しがんばって見てみる。できたら連絡するよ。」
八卦は花のメアド、ついでに桜のメアドを教えてもらった。
「じゃあまた。おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
花が帰っていった後早速ケータイを取り出し、桜にメールを打つ。
『話しておきたいことがある。明日来てくれないか?』