彼の名は札師
「ドーモ=ハッケサン。フダシデス」
「ドーモ=フダシサン。ハッケデス」
「あの・・・」
出会った男は札師と名乗った。胸ポケットに確かにカードのようなものが入っているがそれが関係あるのだろうか。
「八卦君久しぶりだね~。なにやらかわいい娘を連れているじゃないか。なになに彼女?僕にも紹介してよ~」
「私は彼女じゃありません!連れてこられただけです!」
「そうそう、桜は占いの才能を持った俺の助手だ。」
「助手でもないです!」
無理やり助手ということにされた。どうやらこの人がかの悪霊を数式で追い払ったという男とてもそうは見えない。なんかチャラチャラしてるし、お調子者の雰囲気がある。いや、数式で悪霊を払う変な考えを思いつくようなやつには見える。
「桜は教師を目指しているみたいで勉強をがんばってるんだけど、占いは勉強は活かされないからいやだって言うんだよ。」
「相変わらず占いのことになるとまっすぐだねえ。それで、勉強と占いが密接な関係にあるのを教えればいいんだね?」
「ああ、よろしく頼む。」
私が話しに介入暇すらなく話は進んだ。そんなことは証明できないだろうと思いつつ大きい公園の東屋にて札師さんの占いが始まる。
「聞いてると思うけど僕は占い師兼霊媒師。僕の専門は悪霊を見つけ出して、それを退治することにある。悪霊と言っても人に取り付いているやつばかりじゃない。そこいらにさまよってる幽霊なんかもそういう類だと思ってる。ほらほら、こっちおいで。」
札師さんが空中に手招きする。私には何も見えない。八卦さんは上の空を見ている。八卦さんにも見えていないようだ。札師さんが手招きを終えるとライターで日をつけ、そして胸ポケットから札を取り出し、火をつけた。すでに周りは暗くなり始め夜になろうとしている。
「これから少し不思議なものを見ることになる。多分君が思っているような幽霊は出てこない。それでもこの幽霊君はしばらくここをうろついてるみたいで成仏したいようだ。見ていてくれるかい?」
札師は出会って一番の真剣な目で私に問いかけた。私はうなずくしかなかった。
火をつけた札を地面に置き、再び手招きをする。そしてさっきの札とは違う札を数枚つかみ、空へと投げた。投げられた札は火の煙に触れ、さらに煙、わずかな光を出す。そして火がついた札の上に何かが浮かび上がる。そこに現れたのは一つ目の緑色の大きなスライムがさらにドロドロとしたようなグロテスクな物体。これが今目の前にいる幽霊の正体。本当に自分が思っているような幽霊ではない。幽霊と言うよりは化け物に近かった。私はその光景を目の前にして驚き、怯え、恐れた。体が震えた。だがこの幽霊は成仏したがっている。ずっとここをさまよっていた。怖いのは見た目だけなのだろう。静かに深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「冷静だねぇ。初めてこれを見たのに。それも才能の内なのかな?少し話をしてみるかい?」
話?言葉を交わすことができるのか?確かに聞いてみたいと思うことはある。少し挨拶をしてみよう。
「こ、こん・・にちは。」
「キシュゥゥァァ」
「挨拶を返しているよ。聞きたいことがあれば何か聞いてみると良いよ。」
「・・・どうしてここでさまよっていたの?」
「キュシュィ・・・キィィシュェィァアァァ」
「わからない・・・ここにいるのはもう疲れた。だそうだ。」
「この人が成仏させてくれるそうですよ?」
「キュァァシィィ。シュュャィィキゥィシュゥ。」
「わかっている。よろしくお願いしたい。か。律儀な人だね。この子はそうだな・・・これかな。」
そう言って札師さんはまた札を取り出す。その札を握りつぶして煙に当てる。札は手の中でトラックのミニカーへと姿を変えた。ミニカーを手のひらに乗せて息を吹きかけるとミニカーは走り出し、幽霊の周りを走り始める。ミニカーは線香の煙のようなわずかな煙を上げてスピードを上げる。
「ミニカーで幽霊を成仏させるなんて初めて見るだろう?」
漫画やアニメでも見たことはない。だがこれのどこが勉強と結びつくのだろう。この幽霊と車。この幽霊は交通事故にあったのか?いやそれならむしろ車は嫌がるものだろう。なぜこれで成仏できるのか。疑問でいっぱいであった。
「君はもう安心していい。気にすることはないんだ。ゆっくりと眠ってくれ。」
ミニカーからの煙が一気に増える。幽霊の姿は煙に隠れすっかり見えなくなった。そんな光景をひたすら呆然と眺めていた。これがこの人の力。この人の才能。この幽霊のためにできる仕事。
「キュァシィュィ」
最後に幽霊が言った言葉は私にも理解できた。それはきっと「ありがとう」と言ったのだろう。
「どうしてミニカーなんかで成仏させたれたんですか?」
「どうしてだと思う?ヒントはこの辺の地理に関係しているんだよ。地理というか何があるかとかそういう感じ。」
このあたりに何があるのか?
ゆっくりとまわりを見渡し何があるかを探す。この公園。住宅地。それ以外には見あたらない。さらに周りにあるものを思い出す。住宅地、住宅地、公園、コンビニ・・・運送業者。そうだ、運送会社の倉庫があったはずだ。そしてトラックのミニカーということは・・・
「気づいたようだね。そう、あの幽霊は元トラックの運転手。あの運送会社のトラックの運転手だったんだ。以前この近くで交通事故があってね、多分それに巻き込まれた人だ。そういう顔をしてた。」
(あの顔でわかるのか?)
「そこで僕は考えた。もしかしたら運んでいた荷物を気にしてるんじゃないかって。トラック運転手がまさに天職だったんだろうな。死んでも気にかけているなんてね。それはさておき、このあたりのことを知っておいたことでこうして俺の仕事に役に立っている。」
「でもそんなのここの事をたまたま知っていただけじゃ」
「いいや、俺は日本中のあらゆるそういう施設を頭に入れている。この近くに運送会社の倉庫、コンビニが4軒、もう少しいけばケーキ屋、魚屋、写真屋、食べ物屋が合計して5軒、スーパーが2軒、ついでに言うとここから東に243キロ行くとちょうど八卦君の好物のチョコレートをつめ放題で300円で売っている。」
「え!マジで!?桜ちゃん!すぐに行こう!」
「あ、やっとしゃべった。というか甘いもの好きなんですね。」
「そんなことより!僕があらゆる知識を使って仕事してるってわかったでしょ?どう桜ちゃん?」
「それはわかりましたけど・・・八卦さん。ほんとに占い師じゃないと私はダメなんでしょうか?」
「そうだなぁ・・・教師も向いてると思うけどでm」
「ほんとですか!?ありがとうございます!教師目指してがんばります!では暗いので私はこれで!!」
教師が向いている、そう聞いた瞬間桜は一気に嬉しくなった。ここ少しの間占い師になるべきだど言い寄られ諦めるべきなのかと悲しくなっていたが大丈夫だと、あれだけの事を見せられた後に、八卦の力が本物だと思い始めたときにそう言われた。あまりの嬉しさに桜は走り出していた。
「うぅ・・・うぐ・・・」
「八卦君、そう泣くなって。かわいい助手を逃したのが悔しいのはわかるけどさ」
「・・・まだお金もらってないのに・・」
「そっちなの!?」