プロローグ
世の中は仕事であふれている。会社には仕事があり、店には仕事があり、家にも仕事がある。
自分が着ている服は仕事によってできたものだし、住んでる家も仕事で作られている。
人が生きるのに仕事は必須。だがどんな仕事に就けばよいのか。どんな仕事が自分に向いているのかわからない人も多くいる。そんな人を導くのが俺の仕事。俺の仕事は占い師だ。
とある町。とある路地に古い店がひとつ。
見せの名は「扉」。店主は自らを八卦と名乗り、周りからもそう呼ばれていた。
八卦は手相占いも、正座占いも、何でもこなしたが、彼は人に仕事を紹介するのが得意だ。
仕事を紹介するのはハローワークでもできるが、ハローワークは人の特技などを元にその人に合った職業を紹介するが、八卦は違う。八卦は「見抜ける」のだ。その人が一番向いている職業。心のそこでやりたがっている職業。それを読み取り、伝える。それが八卦の仕事なのである。
今日も、仕事に迷っている人が一人。
「あの・・・扉という店はこちらでよろしいのでしょうか?」
「どうも、いらっしゃい。」
入ってきたのは見るからに大学卒業前の男性。八卦はすぐに職業を悩んでいると感じ取った。
「まぁまぁ、座ってください。今日はどんなご用件で?」
「今日は、仕事を占ってほしくて来ました。なりたい職業は見つからないし、どうしたらいいかわからなくて」
「わかりました。では利き手を出してください。」
男は右手を差し出した。
男の手は大きく、指が長く、指先が硬い。おそらくギターとピアノか何かをやっていたのだろう。手先も器用そうに見える。
それと同時に八卦は男の顔を見る。目を見る。体つきを見る。ちょっとしたところからでも情報を得る。
「では次に目を閉じ、下を向いてください。」
男が下を向き目を閉じると八卦は頭に手を置く。占い師としての勘、洞察力、そして見抜く力。それをいかして合った仕事を見つけ出す。
「わかりました。顔を上げてください。あなたは以前楽器で何かをしていましたね?」
「はい、ギターを少し。ミュージシャンになろうと思いましたが無理かと思って・・・」
「いいえ、決して無理ではありません。あなたはミュージシャン、音楽関係の仕事に向いています。」
「本当ですか!?」
「ええ、あなたは人を楽しませることが好きな目を見ている。ギターもしっかりやっているし、ギターで友達に喜ばれたことがあるのではないかな?」
男には覚えがあった。友達の誕生日パーティで友達に曲を作ってプレゼントしたのだ。あれからギターを極めようとしたのだった。男はそれを見抜かれた。
「あなたは一度その夢をあきらめたみたいですがもう一度やってみるといい。あなたなら大丈夫です」
男は感激したように目を輝かせた。自分ならできる。そういう自信を八卦に与えられた。男は立ち上がりお礼を言った。金を払って最後までお礼を行って店を出て行った。八卦は彼の心の扉を開けた。店の名前はそこから取られている。また一人、仕事を見つけ、また一人店にやってくる。次に来るのはいったい誰なのか。
「こんにちは!」
入ってきたのは元気のよいめがねをかけた女性。とても元気そうだ。
「どうもいらっしゃい。こちらへどうぞ。」
この女性も仕事を探している。バイトをしながら仕事を考えているようだった。八卦は女性の目を見る。女性も八卦の目を見る。そして八卦は
ギョッとする。