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悪役令嬢に転生したけど、何故か攻略対象者にジョブチェンジしました

作者: 紫苑

調子に乗って続きを書いちゃいました。

 昼休み。

 私は引きずられるようにして、中庭に来た。


「うふふ。詩音しおんちゃんと一緒にお昼ご飯なんて、嬉しいなぁ」


 ヒロインが共通ルートから個別ルートに入ると、そのルートの攻略対象者と一緒に昼食を食べるというイベントが起こるのだが――――




 何故私は今、ヒロインと昼食を共にしているんだ!?



 これはアレか。


 先日の壁ドンにて、ヒロインは共通ルートから個別ルートに入ったのか。『悪役令嬢 八重山やえやま詩音ルート』に。


 ――いや、意味分かんないし!!

 そんなルートは原作にはなかった。というか、現実でもあってたまるか!


 頭を抱えて唸っていると、横から能天気な声が。


「詩音ちゃん。早くお弁当食べないと、お昼休み、終わっちゃうよぉ」


 ……ちょっとコイツ、ヤってもいいかな? もちろん、漢字は『犯』ではなく『殺』で。


 くそ。こういうことがあるなら、取り巻きや友達の一人や二人つくるんだった。

 そしたら、ヒロインと昼食することもなかったのに。「一人だったら、私が一緒でも良いよね!」とか、言われないのに。


 私には取り巻き、もとい友達がいない。理由は簡単、前世の記憶のせいだ。

 ザ・庶民の記憶がある私は、いくら今世が令嬢でも、令嬢や令息の方々の思想や価値観が理解出来ない。

 そんな人達と会話してても、全く楽しくない。

 だから、私は只今“一匹狼”状態だ。

 ぼっちじゃないもん! 私は一人が好きなんだもん!


 ……お弁当食べよ。

 虚しい気持ちになりながら、私はお弁当箱の蓋を開けた。


「わぁ。詩音ちゃんのお弁当、美味しそーう!」


 さっきからうるさいな、ヒロイン。

 私は無言で横に座るヒロインを睨む。


 そこには、ひろげられたお弁当を美味しそうに頬張る美少女。

 しかし、騙されてはいけない。

 いくら喋り方が女子だって、顔が中性的だって、声変わりしてなくたって、身長が男子の平均より小さくたって、コイツは男だ。変態女装野郎だ。

 その証拠にコイツのお弁当箱は私のお弁当箱より二周りくらい大きい。見た目は美少女でも、胃袋の大きさは男子高校生らしい。


「やーん。そんなに見詰められたら、私、困っちゃう!」


 なんかヒロインがほざいてるが、スルーしてお弁当を黙々と食べる。

 だって、腹が減っては戦は出来ぬって、前世でも今世でも言うし。

 ヒロインがいつ襲ってくるか分からないから、常に臨戦態勢にしとかないと。


 ていうか、さっきから思ってたんだけど。


「その喋り方、やめて下さらないかしら。鳥肌がたつくらい、気持ち悪いわ」


 思いっ切り顔をしかめて言ってやった。

 いくら見た目美少女でも、正体を知っている身にとって、その喋り方は気持ち悪いの一言しかない。


「今は中庭に私達以外いないのだから、その喋り方じゃなくてもよろしいのでは?」

「んー。じゃあ、詩音ちゃんが私を名前で呼んでくれたら良いよっ!」


 今、ヒロインの名前を呼ぶ意味が理解出来ない。しかし、この喋り方は気持ち悪い。


「……白石しらいし栞奈かんなさん」

「何でフルネーム! 栞奈って呼んでよ!!」

「……カンナ」

「スッゴい棒読みだけど、ま、OKにしてあげるっ!」


 私の目は多分死んでる。

 ヒロインはニッコリと満足気に微笑むと、私の耳元に顔を近付けた。


「んじゃ、今度は俺を名前で呼んで」


 この野郎。私が耳弱いって知りながら、わざと耳元で囁きやがって。


「ち、近いわ」

「呼んでくれたら離れてあげる」

「か、栞奈」

「違うって。それは『私』の名前。『俺』の名前を呼んで」

「ひゃあっ」


 私の耳のふちをヒロインの舌がなぞった。


 何故いきなりのR-15展開!?


「な、な、何をなさってるのっ!?」

「はーやーくー」

「しゅっ、修哉しゅうやっ」

「ん。良くできました」

「っ!」


 ヒロインは私の耳朶を甘噛みしてから、離れた。

 それはもう満面の笑みだった。


 もう嫌だ。

 コイツなんか、バッドエンドして攻略対象者に殺されれば良いのに。

 いや、原作にそんなエンドなかったわ。

 エロ的な意味でも残酷的な意味でも、安心安全な全年齢対象版だったわ。


 はぁ。なんかもう、疲れた。

 さっさとお弁当食べて、教室に帰ろう……。


「そういえば、さっきから気になってたんだけど……」


 黙々とお弁当を食べ進める私の持つ箸を、ヒロインは指差す。


「何で割り箸?」

「……」


 話題の展開についていけない。

 いや、ついていく必要がないのか。


「私が割り箸使ってたら、おかしいかしら?」

「そりゃあ、詩音も“一応”令嬢だし……」


 一応ってなんだ。一応って!


「……今日は箸を持って来るのを忘れたから、食堂の割り箸を貰ったのよ」

「なんだぁ。箸忘れたんだったら、私が食べさせてあげるのにぃ」

「食べさせるもなにも、割り箸ありますし」

「あーんっ」

「割り箸があるので結構です」

「照れなくてもいいよぉ」


 どこに私が照れていると感じる要素があるんだ。

 無言でヒロインを睨むとヒロインは「あ!」と声をあげて、ニッコリ笑った。


「もしかして、口移しが良かった?」

「ああ゛?」


 あら嫌だ。つい素が出てしまったわ。

 というか、さっきからヒロインの喋り方が戻ってるんだけど。あのR-15展開を耐えた私の労力は何だったんだ。


「とにかく! 私は割り箸があるので、あーんも、口移しも結構です!」

「んもう! 強情なんだから! そんな子には――こうだっ!!」


 そう言って、ヒロインは私の手から、割り箸を奪い取った。


「ちょっ、何しますのっ!!」


 ヒロインは私の抗議の言葉をガン無視し、割り箸を――――




 ペロッと舐めて




 バキッと折った




 ……なあぁぁあにしてんだてめえぇぇぇええっっ!!


 何故折った!! 何故折る前に舐めた!?

 唖然とする私の目の前で、まだヒロインはバキバキと割り箸を折っている。そして、割り箸がどう頑張っても使えないくらい短くなると「はいっ」と私に渡してきた。

 呆然とその割り箸だった物を見つめる。

 そして、ヒロインに視線を戻すと、ヒロインはにーっと微笑んだ。


「箸忘れちゃうなんて、詩音ちゃん、ドジだなぁ。仕方ないから、私が食べさせてあげるね! はいっ、あーんっ」


 ……何なのコイツ。バカなの? 死ぬの? ていうか死ね。

 私の脳内には瞬時に3つの選択肢が浮かぶ。



『ヒロインに食べさせてもらう』


『無視して弁当箱を片付けて教室に帰る』


『ヒロインをボコる』



 ――そして私は、『無視して弁当箱を片付けて教室に帰る』を選択した。

 一番上はまずありえない。

 本当は一番下を選びたかったけど、私だって令嬢だ。……悪役だけど。

 八重山という名前を背負っている以上、その名前に泥を塗ることは出来ない。他人に暴力をふるうなんて、もってのほか。


 お弁当はまだ半分も残っているが、疲れやら何やらで、もう入りそうにない。

 玉子焼きを箸で挟んで私に差し出しているヒロインを無視して、弁当箱を片付け始める。


「――無視すんなよ」

「あなた、私の意思は無視するくせに、自分が無視されるのは嫌なのね」

「……」

「まるで、子どっ――」


 『まるで、子供だわ』と言おうとしたら、途中で遮られた。口を口で塞がれる。


「ふっ、んぅ」

「――俺はガキじゃねぇ」


 腕を急に引っ張られて体勢を崩して、地面に倒れ込む。その私の上にヒロインが馬乗りになる。


「ガキじゃねぇってことを身体で分からせてやるよ」


 そう言って、ヒロインは私の両手首をヒロインの制服のリボンで縛る。そして、私の制服のボタンに手をかける。


 ――あれ? 選択肢間違えた?


 R-15展開再び!? いや、これは次の選択肢次第ではR-18展開突入!?

 誰だ! このゲームはエロ的な意味でも、残酷的な意味でも、安心安全な全年齢対象版って言った奴!! ……いや、私だけど。

 絶対コレ年齢制限つけたほうが良いって!! エロ的な意味で!


 にしても、かなり頑張って抵抗しているのだが身体が全く動かない。見た目美少女でも男なんだなぁと、場違いなことを思ってしまった。


「退いて下さらないかしら」

「嫌だ」

「退きなさい」

「無理」

「ここは学校ですわ」

「背徳感がたまんないよね」

「しかも、外なんですが」

「中だったらいいの?」


 ダメだ。埒があかない。


 そんなやりとりをしている最中もヒロインは着々と私の制服のボタンを外している。

 ヤバいよ。R-18展開突入しちゃうよ。この前の壁ドンよりもたち悪いよ。

 どうすればいいんだ!? 今世はもちろん前世でもこんなシチュエーションになったことないから、対処の仕方が分からない。


 すると、そこで救世主の声が。


「うるせぇなー。せっかく寝てたのに、目が覚め――!!」


 木陰の隙間から文句を言いながら出て来た攻略対象者は、私達を見て絶句した。

 そういえば、中庭はコイツとのイベントがよく起きる場所だった。


「し、白石!? おまっ、こ、んな所で、なにやってんだ!?」

「チッ。邪魔が入った」


 ヒロインはそう吐き捨てると、私の制服から手を離す。


「退いて、ほどいて、消えて」

「詩音ちゃん、辛辣過ぎっ!」「『詩音ちゃん』って……。まさかそいつ、“あの”八重山詩音!?」


 あのってなんだ、あのって! ヒロインにしろコイツにしろ、私のことなんだと思っているんだ!

 攻略対象者が正体を探るように私を見る。


 ……救世主は救世主なんだけど、ある意味ヤバくないか? 端から見たら、私、女子に襲われかけてるよね。

 これは私が社会的にヤバい。

 いや別に、同性愛者が悪いって訳じゃないけど、当の本人がそっちじゃないのにそうだと思われるのはちょっといただけない。


 なんだかんだと考えていたら、いつの間にかヒロインが私の上から退いていた。

 おい。退くなら手も解放しろ。

 制服が結構乱れてるので早く直したい。そして、その姿をそれほど接点のない攻略対象者に見られている現状を早くどうにかしたい。


「早くほどいて」


 思いっきりヒロインを睨んで言うと、何故か攻略対象者の方が近づいて来た。


「うわっ――!!」


 攻略対象者は、来る途中で躓き、私の方に倒れかかってきた。そして、攻略対象者は私の上に倒れた。


北条ほうじょう、てめぇ、何してるっ!!」


 ヒロインがヒロインらしからぬ発言をしているが、今はそれどころではない。

 攻略対象者は何とか手で体を支えて、私の上に直接倒れ込むようなことはしなかった。だが、端から見れば私が押し倒されているようにしか見えない。

 二度あることは三度あるってことわざがあるけど、R-15展開はもういいよ。もう飽和状態だよ。


 ……早く退いてくれないかな。

 私は役で攻略対象者達に好意を持ったふりはしているけど、本当は全く持って興味がない。だから、この状況はただただ迷惑だ。


 ふと視線を感じて目線を自分の制服からずらす。そしたら、攻略対象者が私のことをガン見していた。


 え、なんか怖い。


 ついこの前、ヒロインに感じた恐怖と同等のものを感じ、私は恐怖のあまり視線を逸らせない。

 すると何を思ったのか、攻略対象者がニヤリと笑った。


「やっと……見てくれたな。お前のその瞳に、俺が映るのをずっと待ってた」


 攻略対象者の台詞の意味が分からない。いや、分かりたくない。


「こんな、変態女装野郎より、俺がお前のこと守ってやるから――これから仲良くしようぜ、詩音」


 なんかもう、意味分かんない。意味分からなすぎて、精神が病んじゃいそう。

 ……いや、いっそのこと病んじゃおう! そして、私がこのゲームを『年齢制限あり』にしてやる! もちろん、残酷的な意味で。



・攻略対象者その1

ゲーム:中庭でよく寝ており、授業はサボりがち。見た目は不良だが女子供に弱いという、ゲームなどでよくある性格。ツンデレ。ヒロインと付き合うようになるとびっくりするぐらいの独占欲をみせる。

現実:中庭でよく寝てるが、授業には真面目に出席しているらしい。ヒロインが男だと知っている。詩音には並々ならぬ思いがあるようだ。

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[一言] 続きを下さい! とゆうか連載して下さい
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