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白星の聖剣♚黒星の瞳  作者: 東雲 滉那
三章 武術大会
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王家の思惑

「まだ見つからんのか!?」と皇帝ダランは老体を怒らせ、宰相と神官長に怒鳴り散らした。

 彼の怒りを沈めるべく、神官長は柔和な顔を崩さずに言う。

「"白導師"は見つかりました。ザッカに向かわせたのことです。"黒星の瞳"は…今回の武術大会で会い見えることでしょう」

「500年前の文献を見ますと"黒星の瞳"はよほどの手練れとわかります。それほどの者の生まれ変わりが武術大会に出ないとは思いませぬ」

 次ぐ若い宰相の言葉に、皇帝は逆に問いかける。

「ならば"蒼の皇子"は?あの反逆者の生まれ変わりも出ると大巫女様の予言にあったのでだろう!?」

 大巫女の予言は"白導師"と"黒星の瞳"の生まれ変わりが見つかるというものであった。

「陛下。大巫女様の予言には"蒼の皇子"は見つからぬと…」

「"黒星の瞳"と"蒼の皇子"は恋慕しあっておったのだぞ。見つかるに決まっておる」

 皇帝は神官長に言葉を吐き捨てた。

「…武術大会が楽しみですな」と宰相はにこやかに笑いかけた。


「父上も酔狂なことだな」 宰相は王の執務室から出ると、暗がりから声をかけられた。

「皇太子殿下、盗み聞きはよくありませんよ」

 皇太子、と呼ばれたその人は暗がりから姿を表す。長い黒髪を緩く結わえ背に垂らしている。リカスタン王家特有の碧眼からは秘めた輝きがうかがえた。

「盗み聞きはしていない。耳に勝手に入ってくるだけだ。ところで宰相…いや、友人ラファンに訊きたいことがある」

 宰相…ラファンは目を細めた。

「では、私の友人スジュンの話を聞きましょう。…行きますか」

 皇太子スジュンはラファンと共に歩き始めた。

「…"黒星の瞳"の生まれ変わりは女なのか」

「どうでしょうね…ただ、オルシャの剣は女剣だから生まれ変わりは女である確率が高くなりますね。"白導師"と"黒星の瞳"は共に剣豪ですが、生まれ変わりが剣豪かどうかはわかりません。彼らが優勝するかもわからないのです」

「…"黒星の瞳"が無知な女ならば興味はないが、気にいれば後添いにする」

 ラファンはそれなりに驚いたようである。

「ラショーカ姫一筋のあなたが?」

「今は亡きラショーカの幻影を見つめていても子は生まれないだろう。妾もいないしな」

 ラファンは年下の友人をじっくりと見る。

 従妹姫のラショーカにお熱だった彼がこんなことを言うなんて、当時では考えられないことだった。

「…少女だといいですね」とスジュンに呟きかけた。



 その頃、当のティルカは王都に着いていた。

「ティルカ、武術大会に出てみないか?」

 ゼンの誘いにティルカは驚いた。

「武術大会ですか…」

「そう。戦闘部門と剣舞部門に別れているんだが、ティルカは太刀筋がいいし、俺たちと一緒に戦闘部門に出ないか」

 その申し出にティルカは困ってしまった。太刀筋が良いと言われるのはここ最近多くなったが、自身は武術大会に出られるほどの力はないと感じている。

「ゼンさん。そんなに上手くはありませんよ…」

「座長も賛成してたけれどね」

と隣からラフィが口を出した。

「そうそう。武術大会って実戦的で力がつくわよ」

 ラフィの後ろからアジェンダが顔を出す。それなりに顔が整っている二人に比べて、アジェンダは美女顔負けの美人であり、"おねえ"である。

「シェーラも見たいって言ってたし…」

「あら。昨日の夜、アナタ達いなかったものねぇ。どこの宿に泊まったの?」

 ラフィが顔を赤らめ、にやにやとしているアジェンダに言った。

「後で教えますよ。…ティルカ、どうする?」

ティルカは笑って言った。「シェーラが楽しみにしてるなら出ようかな」


 男三人がなにやら宿の話で盛り上がり始めたため、ティルカは女たちの話に加わった。

「夜のラフィはいつもと違うかっこよさがあるのよ」とシェーラがうっとりと呟く。

「まぁ……あの眼鏡を取るだけで一皮剥けそうだからな」

 ルルーは靴紐を結びながらぼそりと言った。それを聞いて、テスターはルルーに言う。

「ゼンだって夜になると変わるんでしょ」

「そうだけど……って、アジェンダだってあの口調ではいないだろ」

「あら。そんなことないわ。あのままよ。『テスターちゃん』って、ね」

 途中参入のため、話の筋が見えず、ティルカは始終笑ってる。

「おーい、買い出しお願いしてもいいか」

とゼンが叫んでいる。

「仕方ないわね」

 四人は苦笑いをして動き始めた。

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