表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白星の聖剣♚黒星の瞳  作者: 東雲 滉那
二章 ウォンサナ
7/25

王都

 王都の賑わい様は初めて見るものだった。大路は壁に沿って小間物屋が並んでいるにも関わらず、多くの人が行き来している。

 ウォンサナは長靴を鳴らしながら人の波の合間を縫っていった。笹傘は雨風に打たれ、ぼろぼろになっている。麻絹の上着は軽くて使いやすいため捨てないが、笹傘はさすがに使えないだろう。

 村長からの餞別は1500カラン、すなわち銀貨15枚。パンは1斤5カランだ。

 北部に比べて中部は暑く感じる。まだ夏が抜けきっていないようだ。

 ドンと誰かと肩がぶつかった。

「すみません」

 ウォンサナはそのまま立ち去ろうとした。だが、その前に肩を掴まれ、進行を阻まれた。

「小僧。ぶつかっておいてその謝り方はなんだ」

 ウォンサナは振り返った。屈強そうな大男で、肩には長剣を担いでいる。

「すみません。先を急いでいるもので」

 ウォンサナはしおらしく謝った。しかし、大男は放してくれそうにない。

 宿取りしないといけないのに…。

とウォンサナは心の中で眉間を寄せた。

 いつの間にか、二人の周りには輪ができていた。取り巻き達は皆事の行く末を見守っている。

 傘を目深に被ったままのウォンサナに、大男は苛立ちを感じた。そして背負った長剣を振り上げた。ウォンサナは小さくため息を漏らし、ジャケットのポケットからアーミーナイフを取り出した。

 ウォンサナは長剣を振り上げた男の懐に飛び込むとアーミーナイフを男の喉に突きつけた。

「俺が引いたら死ぬよ」

 実際は死なない。たかがアーミーナイフでは傷つけることさえできないが、彼の本気の瞳は相手を怯ませるには十分だった。男は構えたまま動かない。

「じゃあ」

 ウォンサナはさっさとその場から立ち去った。

 宿取れるかな…。

 心配になって宿に行くと、厩なら泊められると言われた。部屋はすべて貸し出されるというのだ。

 ウォンサナには初耳だったが、来月から皇帝の60歳の誕生祭が始まる。そのとき、武道好きの皇帝の為に催されるのが武術大会だ。それにエントリーしなければ、部屋には泊めてもらえないらしい。ウォンサナは女将に言った。

「女将さん、俺エントリーします」

「私に言っても…。中央局に言ってこなけりゃ。あんた武器は?」

「武器…ですか」

「武器がないと戦えないだろ。格闘技ができりゃいいが、あんたは見た目からしてできなさそうだしねぇ」「剣はどこに売ってるんです」

「どこって…うちの斜向かいさ。ヤンザじいさんの店だよ」

 ウォンサナはその『ヤンザじいさんの店』へ足早に向かった。傘を取って店に入る。

「すみません」

「どうかしたかね」と声をかけたのは眼光の鋭い老人だった。

「剣を下さい。武術大会にでるんです」

 老人は目を細めた。シワが刻また顔で見つめられると、品定めされている気分である。

「坊主、名はなんという」「ウォンサナです」

「剣を使ったことは?」

「全然。ラソック村から上京してきました」

老人は目を見開いた。

「ラソック村からよくもまぁ…どうしてだね」

「"ツィラ"です」

 "ツィラ"とは白導師の隠れ名で鍛冶屋に名乗ったとされる。村長は鍛冶屋に行くときはそれを言えとウォンサナに教えた。

「なるほどな…証はどうたてる」

 証は腕の痣しかない。醜いため、他人には見せたくないが、ウォンサナはジャケットとシャツを脱いだ。 左腕には赤くひきつった十字架のような剣が刻まれている。

「確かにな…」

 老人はそう言うと奥に戻り一振りの剣を持ってきた。雪のように白い剣だ。

「これは俺が文献を参考にして打った剣だ。切れ味は悪くねぇが、幻の剣の模造品だからな、価値が高いか低いかはわからねぇ。てめえにやるよ」

 ウォンサナは目を見開いた。見るからに高そうな剣なのに。

「金はとらねぇ」

 ウォンサナは差し出された剣を見た。神々しいまでに白い。

「有り難くいただきます。…あの…また来てもいいですか」

 老人はにやっと笑った。白い歯が赤茶けた肌によく映えた。

「いつでも来な」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ