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白星の聖剣♚黒星の瞳  作者: 東雲 滉那
五章 国廻 -柳華丘-
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国廻の始まり

銀の首飾りが胸元で揺れ、涼しげな音をたてる。ウォンサナは物憂げにそれを見つめた。

「…なんですか」

ティルカはその視線に気づくと不審そうに訊いた。だが、返事はない。いつものことだ。

国廻を命じられたのは一昨日のことだ。国廻とは、国の要所にある10個の神殿を参ることで、全てを廻ると御利益があるのだという。10神殿にはそれぞれに10人の神が祀られている。

―私が魔力を封じた珠を置いてきてほしい。

リーはそうティルカに頼んだが、それはただの口実だった。神がおられる神殿に、大巫女の魔力など必要ない。それを理由にしてまで、二人を王都から遠ざけるたかった。それほどまでに王都は危険だった。皇帝とスジュンがてぐすね引いて待ち構えている。国中を動けば、見つけるのは遅くなるだろう。

そんな考えが含まれていたとはいざ知らず、ティルカはウォンサナと共に王都を出た。

 出発前夜、ウォンサナはティルカにある条件を出した。

『一緒に旅をする以上、遠慮はしないでくれ。敬語じゃなくていいし、名前も呼び捨てで。それが嫌なら自分は行かない』

ティルカは迷ったが、結局頷いた。言い方は少し雑だが、初めて会った時のような親切心も持っているだろう。いつかあの時のようになってくれるかもしれない。ティルカは唇の端を緩めた。

馬に揺られていると風が気持ちいい。柔らかな髪が頬に張りついて指で退ける。

「少し休むもう」

ウォンサナが手綱を引き締め、近くにあった大木の下で馬を止めた。ティルカも続いて止める。

彼は馬から降りると寝転がった。安息したようで、微かな笑みを浮かべている。ティルカは馬から降りると背伸びをした。

「…気持ちいい」

いつの間にか晴れやかな笑みが溢れている。そして木にもたれて座り込んだ。

王都にいる時はなんだか息苦しかった気がするな。 ティルカは目を閉じた。少し疲れていたのか、気付かぬうちに眠りこんでしまった。

ウォンサナは彼女が目を閉じると、そちらを見た。薄桃色の唇が緩められ、幸せそうに眠っている。

綺麗だ…。

彼女を見ていると胸の奥がじんわりと温かくなる。最近はポーカーフェイスを通すのにも無理が出てきた。どうしても口角が上がってしまう。躊躇いがちに名を呼ばれるのは嬉しい。

だが、ここまでチェーサに似ているのは何故?…そして何故自分はこの少女が気になるのだろう。いつも気付かぬうちに、彼女を追っている。

今、彼女は眠っている。今、何をしても赦されるのだろうか。例えば…キス。夢で感じたチェーサの唇の感触は今でも鮮明に残っている。あれと同じなら、もはや偶然とは言えないだろう。

ウォンサナは慌てて頭を振った。睡眠中の女性にキスをしていいはずがない。だが…、少し触れるくらいなら。

彼は足音をたてずにティルカに近づくと、木に手をついた。ほんのりと色付いた唇に吸い寄せられる。全てが欲しい…その思いが心を掠めた瞬間、瞳が美しい緑になった。

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