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白星の聖剣♚黒星の瞳  作者: 東雲 滉那
三章 武術大会
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出逢い②

ウォンサナは隣を歩く少女をちらちらと見た。今でも驚きが隠せない。

なんで夢の中のチェーサに瓜二つの女の子がいるんだよ。

声をかけられた時は思わず「チェーサ」と呼びそうになった。だが、よく眺めてみると肌の色は違うし、髪もこちらの方が柔らかそうだ。

「王都の方なんですか?」と少女が話しかけてきて、ウォンサナは慌てて笑顔を繕った。

「いえ。つい先日北部から上京しました。服を新調したからそう見えるだけですよ」

鍛冶屋のヤンザ老人から服装が田舎者だと言われ、麻絹の上着と下着以外はすべて買いかえた。出費は多いが、村長が餞別に持たせてくれた分はまだある。それに加えて、自分が今まで稼いできたお金や好意ある村人がくれた餞別もあった。「…ここですよ」

 タグサ屋に着いた。少し屋根が傾いているが、ヤンザ老人に紹介してもらった店だ。この店の飾り紐は王候貴族達もお忍びで買いに来るほどのものだそうだ。 他の店とは違い、店先に品物を出していないため、客の出入りは少なく、店内に入りにくい。

少女は躊躇っているのだろう。足が一歩踏み出しては引いている。

「一緒に入りましょうか」優しく語りかければ、少女は少し顔を赤らめた。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。…あの、明後日からうちの一座が広場で見世物をするので是非いらしてください」

少女は一度礼をすると、そのまま店の中に入ろうとした。

ウォンサナはたまたま、少女が手に持つ細身の剣に目がいった。どこかで見たことはなかったか。昔、大きな部屋の真ん中で…。

少女はもう店の中に入っていた。

明後日、広場に行ってみよう。あの少女に会える。


店の中に入ると、ティルカは数々の飾り紐に目を輝かせ、先程の親切な少年のことはすっかり忘れてしまっていた。

「お嬢さん、何が入り用かしら」

奥からこざっぱりとした女が顔を出した。

「私は四代目店主のファルよ。ファルって呼んでちょうだい」

「こんにちは、ファルさん。この剣に合う飾り紐とベルトをください」

女店主ファルは「わかったわ。ベルトは女の子用の細いもので、…剣はそれかしら」とさばさばした口調で話を進める。

「椅子に座って」

ファルに言われ、ティルカは近くにある革の長椅子に座る。

「剣を拝見しましょう」

ティルカは目の前の机に抜き身の剣を置いた。ファルは向かいの椅子に座ると剣を見て唸った。

「女用の剣なんて、幼い頃に一度見たきりだわ。しかも年季が入ってる。大切に使われたようね。…ただ」ファルは言葉を濁した。そしてティルカの方を見る。「言ってしまうとね、…大分血を吸ってるのよ。他国の戦争にでも巻き込まれたのかな」

ティルカが首を傾げるのを見て、ファルが言った。

「まぁ、切れ味も悪くないし、歯こぼれもしてないから、まだまだ使えるわ。前の持ち主はどんな人?」

「…わかりません。ただ、知り合いが"オルシャの剣"だって…」

ファルはそれを聞くと、微かに息を吐いた。

「なるほどね。これ、王族の前で見せるのはやめた方がいいわ。今の生活のままがいいなら…。飾り紐を選びましょう。黒い刀身に黒い鞘だから、銀糸が入ったものが映えるわよ」

なぜ王族の前で見せたらいけないのかを訊きたかったのだが、ファルは立ち上がり、飾り紐を選ぶのに忙しい。

「剣と一緒にこちらに来て」

 呼ばれて行けば、美しい飾り紐の台を見せられた。 どれも銀糸を編み込んであり、光に反射して綺麗である。様々な色がある中で異彩を放っているものがあった。銀色なのに角度を変えるとまた色が変わる。手に取ると、他より軽く柔らかい。

「それ気に入った?…それだけ製作者不明なのよ」

「…これにします」

 剣に合わせたらしっくりときた。派手ではないが、存在感がある。

「ベルトの色はベージュでいい?自分の名前の焼き印できるけど」

「あ、はい。お願いします…ティルカです」

ファルは奥に入り、しばらくして戻ってきた。

「つけていくかな?」

「はい!」

 ファルはティルカの腰にベルトを着けた。そして、剣の鞘に飾り紐を結いつける。

「よし。まいどあり。ベルトは85カラン、紐は95カラン。計180カランね」

予想通りの高さだった。品物を見る限り、その値段に相当する技巧が凝らされている。商業都市に生まれ育ったためか、目利きなのだ。

ティルカは買い物を済ませた満足感から、帰り道ずっと笑っていた。

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