局面のラストジョーカー 偽恋で学校崩壊
一応、キャラクターのイメージボイスも考えているので気になるという人はメッセージ送ってください。
ちなみにこれは試作ですので本編とはなんら関わりを持たない可能性があります。
設定の所でも変更が入るかもしれないので、こういう奴らがでるんだという程度の認識で読んでください。
「どうして・・・・こうなった」
相馬乃斗は自分の置かれている状況を考え直して呟いた。
中肉中背でどこにでもいるような髪型をしていて、顔立ちは悪くもなく良くもなくいわば中性的。
すべてが平均的だがボロボロの制服の隙間から覗く腕は無駄な筋肉が少ないことからある程度引き締まっている事が理解できる。けれどこの引き締まっている筋肉は本人の意思の結果こうなったというわけではない。いまどき平凡な高校生にはありえないが彼は何度か命がけの戦いに身を投じた事があった。
十三人の魔術師による最強を決めるバトルロイヤル―夜闇戦争をはじめとして闇の一族頭首との戦い。魔術師に狙われた歌手の護衛などなど平凡な高校生なら命がいくつあっても足りないような状況の中を潜り抜けられたのは彼が普通の男子というわけではないからだ。
相馬乃斗は世界に十二人しかいない最強の存在とされている魔法使い。
魔法使いは魔術師と違って一子相伝で力が受け継がれていくのではなくまるで突然変異みたいに力に目覚めてしまう。相馬は夜闇戦争の最後に魔法使いとしての力に目覚めて戦争を根本から覆すという荒業を成し遂げた。それからというものの彼は愛している平凡から程遠い場所で死の恐怖を味わうというありえない出来事に遭遇してばかり。
「ま」過去を振り返って相馬は小さくため息を吐いて「別に誰かに強制されたというわけじゃなくて自分で選んだ道なんだから後悔はしてないけどさ」
もう一度周囲を見渡してから。
「どうして・・こうなっちまったんだ・・」
彼が今いるのは通っている国友高校の既に使われていない旧校舎の一階にある小さな部屋。かなりの年季が入っていて昭和初期から使われているという話だが実際のところどうなっているのかはわからない。
用務員室の中で相馬はちらりと窓から外の景色を見る。
旧校舎を囲むようにして木の柱のようなものが等間隔に置かれていて抜け出す事が出来ない。
「本当に・・どうしてなんだ」
こうなる前、相馬は放課後が終わってすぐのときの事を思い返した。
「乃斗君~乃斗君~」
「そんな何度も名前呼ばなくていいって」
放課後、SHRが終わって掃除当番に割り振られていたクラスメイト達の様子を大変だなぁと眺めているとクラスメイトになった長宗我部鳴海が子どもみたいにはしゃぎながら立とうとしていた相馬のほうにやってくる。長宗我部は転校生としてこの学校にやってきて色々とあった末に。
「一緒に途中まで帰ろうよ。そして貴方の事が大好きです!」
惚れられてしまった。
「悪いけれどお友達で・・・てかキミ男だからね!」
「愛さえあれば性別の壁なんて関係ないのさ!」
「そこは歳の差という場面でしょ!?」と叫んで「ていうかクラスの視線がすっごいきついからやめて俺のライフがごりごり削られているから!」
「傷ついたハートを僕が癒してあげるよぉ」
「近づくな・・てか近い!」
近づいてくる長宗我部の顔をぐいぐいと押し戻しながら相馬はげんなりする。本当にここまで好かれてしまうってどうなんだろう。ただ俺は友達を助ける為に無茶をしたというのにこういう結末ってどうなんだろーと考えていると「あ、そうだ。乃斗君。この後暇だよね?」
「暇だけどいきなりなにさ」
警戒せよ。こういう場面は決まって何かを頼み込んでくるところだ。長宗我部と知り合って一年経過していないがなんとなくわかる。
「実は先生に頼まれて旧校舎にある世界の地図を取りに行かないといけないんだけど僕と一緒にいってくれない?」
「旧校舎?あんなところに世界の地図なんて置いてあったかな。そういうのって普通実験室とかそういうところに」
「僕は先生にいわれたんだよ。じゃあ、今から服を脱ぐから確認してよ」
「さらりと全く関係のない事いってんじゃないよ。てか話しながら服を脱ごうとしてんじゃないよぉ!」
「いいじゃん。僕と乃斗君の関係なんだからさ」
「だから俺とお前は友達と言うだけで・・・・もういい。なんか疲れた」
脱力している相馬を尻目に長宗我部はにこにこと笑って彼の腕を掴む。
「さぁ、いこういこう!」
「おいおい腕を引っ張るななんか手が痛い!痛いから!!」
国友高校はこの街に住んでいる者なら知らないものはいないほどの進学校。
いくつもある進学校の中でこの学校が注目されているのは特待生制度が一つの理由としてあげられるだろう。特待生制度とは入試をはじめとしていくつかの定められた試験で上位の枠組みに入った者達は特進クラスという場所に振り分けられる。特進クラスに所属された者は他のクラスの生徒達とは一線を越していることをアピールさせるかのように様々な待遇が与えられる。
その一つが学費など学校に関する費用の負担が全額免除されてしまうこと。特進クラスになった者は食堂などをはじめとする施設における料金が全て無料になって使い放題となる。全てがタダということで親も金をほかの事にまわせるし生活が楽になることから国友に入学させて特進クラスを狙おうとする者が多い。
もう一つが有名大学への推薦状が手に入りやすいということだ。特進クラスは常に成績優秀者が集って構成されていてクラス内で順位にばらつきがあるが全員が頭は良い。優秀な人材を欲する大学に国友は推薦状を用意してもらっているという話がある。特進クラスに入れば全ての費用が実質免除されて良い大学に送れるという夢みたいな話に親は希望を託して国友を選ばせる。
そういう流れによって他の進学校と比べて国友の受験者数は地方の人もやってきていることから右肩上がりになっている。
しかし、何事もうまくいかないことがある。特進クラスは成績優秀者が集っているが一定の境界線といえるものがありそれを下回ったものは特進クラスから一般クラスへと戻されてしまい、学費を支払うようになるばかりか一般クラスにいる者達からいじめられるという話も少なくない。
相馬が入学する前にイジメがいやになって転校したという生徒の話も少なくない。酷く国友高校は不安定だ。
「進学校なのに旧校舎があるというのは今更ながら変な話だよな」
「元々は小さな学校だったらしいんだけど、理事長が変わったあたりから教育方針が変更されたって聞いたよ」
「上の人がかわると今までのものが変わって行くとか社会そのものを見ているような気がする」
「ある意味正しいかもね。一番上が変わればその次の人が扱いやすいものに変化する。どこの時代、世代でも起こりえることだ」
急に大人みたいな事言い出したなコイツと思いながら相馬と長宗我部は一階の渡り廊下を歩いて木製の扉の前まで辿り着く。木製の扉の少し変色している金色の丸いドアノブ。窓ガラスは埃をかぶっているのか中の様子が見えない。
「なぁ、長宗我部」
「鳴海って呼んでよ。長い付き合いなんだからさぁ」
「そこまでの付き合いになった覚えがないんだが」といおうとした相馬は動きを止める。
「おかしいなぁ。あの海外娘は名前で呼ばれているのにどうして僕だけ苗字なのかな?あれかな?相馬乃斗君は僕なんかよりあの外国産の娘がいいというのかな?どうなのかな?あれなんで目をそらしたの?僕の目をみて答えて欲しいなぁ~」
ヤバイ!ヤミースィッチが入ったと相馬は冷や汗を流す。ヤミースィッチとは命名したのは別のヤツだがヤンデレといわれる状態に長宗我部が入ったことをさす。本当に命名してくれたヤツは殴り飛ばしたい。この状況が苦手なのだからと思いながら相馬は対処法を思い出す。
「(目を見て真っ直ぐに話す!)」真っ直ぐに長宗我部を見つめて「そんなことあるわけないじゃないですかぁ、僕は長宗我部の事を誰よりも大事に思っているよ。世界が滅んだとしても僕はキミを選ぶさ」と対処法を言う。
途端に相馬の体を圧迫していたプレッシャーのようなものが少し弱くなってきた。ただしこれで終わったわけではない。全てはここからの反応によるのだから。
「・・・・欲しいな」
「え?」
「鳴海って呼んで欲しいなぁ」
「鳴海」
「なぁに?」
「・・・呼んだだけです。はい」
「うふふふ、嬉しいな~」
さっきまで黒一色(相馬から見たイメージ)だった瞳に光がともって長宗我部はにこにこと笑い出す。
「もう~乃斗君はお茶目さんなんだから~」
「あ・・・・あはははは」
乾いた笑みを浮かべながら相馬は目をそらす。もうどうとでもなれとヤケクソ気味になっていたところであることに気づいた。
「なぁ、鳴海」
「なにかな?乃斗君」
「旧校舎の周りに突き刺さっているあの木の棒みたいなものって前からあったか?」
相馬が指差した方向には等間隔に地面に突き刺さっている木の柱が見える。それも一つや二つではなく旧校舎を囲むようにして存在していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁ?」
相馬が尋ねると長宗我部は大きく首をかしげる。明らかにぎこちない動きをしていたけれど特に気にしなかった。コイツの行動を逐一気にしていたらキリがないからだ。それに気にしていたら自分が地雷を踏む可能性がある。ここでは無視するのが正解。
「ま。ちゃっちゃっ終わらせて帰るか」
「うん・・そうだね!」
無視をするのが正解、そう思っていた。
あんな状況になるまで。
「なんというか旧校舎の構造見ていると昔の映画思い出すな」
「映画ってどんなの?」
「小さい頃にみた子供向け?のホラー映画だったんだけどさ。小学生たちが旧校舎に入ったらでられなくなっちゃってお化けに襲われるって話」
「あーそれなら僕もみたことがあるよピンク色のお猿みたいなのがでてきたりスパイダーマンみたいなのがでてくるやつでしょ?」
「そうそれ、最初に見たとき怖かったんだよなぁ・・・子どもだったからか」
「うーん、子どもが怖がるようにって監督とかが考えたんじゃないかな?気になるならみてみたらどう・・・っは!そうかそういうことだね!?」
「いきなりなんだ」
「今度タツヤでレンタルしてくるから僕の部屋か乃斗君の部屋で一緒に鑑賞会をしようじゃないか!」
「そ、そうだな」
「ぐふふふふ」
あ、コイツ何か企んでるということに気づいたがあえて追求しない。したら確実に逃げ道を潰されてしまうと考えて無口を貫く。木造の廊下は何年も利用している人がいないのか歩いているだけで埃が地面から舞う。鼻に入り込まないように手で押さえながら目的の部屋に向かう。
「あ、ここだよ~」
「埃ばっかりだからさっさと終わらせよう」
「うん!」
にこりと笑顔の長宗我部と一緒に相馬は横引きのドアを開けて中に入る。
がたがたと少し錆び付いた音を鳴らしながら開いた。ドアが開いて中に風が入ると埃がぶわぁと舞い上がった。
うえぇと相馬は顔を歪めながら室内に入る。部屋の中は大小さまざまなダンボールが並んでいる。
世界地図というものもここにあるんだろうと考えてダンボールの中を開けようと一つに手を伸ばす。
「アーアレジャナイカナ~」
「ん・・・あれか?」
長宗我部が指差している方に近づいた途端、音を立ててドアが閉まった。ドアが閉まった事に気になって振り返ろうとすると背後から衝撃が襲う。
「おっ・・」
衝撃を受けてバランスを崩した相馬はそのまま床に倒れる。大きな音を立てて倒れるとさらに埃が舞い上がる。咳き込みながら襲い掛かってきた相手を見る。
「はぁ・・・はぁ・・」
襲撃者は荒い呼吸を吐きながら相馬の上に乗りかかっている。もし乗っている相手が覆面をして包丁を持っている強盗だったり履いていない変態さんだったら全力で暴れて抵抗していただろう。しかし、相手は顔見知りでそこそこ親しい為に暴れる事ができない。
「もう・・我慢できないよ」
わかったかもしれないが相馬の上に乗っていたのは長宗我部鳴海。長宗我部は顔を赤らめて不規則な呼吸をしながら潤んだ瞳を向けている。
危険だ。
大変に危険だ。
相馬の頭の中で非常警鐘ががんがんがん打ち鳴らされていた。すぐにここから逃げた方がいいと訴えている。
「あー、長宗我部さん・・どいてもらえると嬉しいなぁ・・・って」
「鳴海って呼んでよ・・・」
「いや、そういうことじゃなくて」
「も・・・もう、乃斗君ってどうしてそう女心をくすぐるのが上手いのかなぁわざとやっているんだとしたら才能だ・・よねぇ」と言って制服のボタンを一つ外して「ねぇ、乃斗君は僕のこと好きかな?」
「そりゃ・・・好きだけど」
「嬉しい!相思相愛なんだね!じゃあ今すぐ市役所にいかなくちゃぁ」
「質問なんだけど・・なんで市役所?」
「婚姻届を受理してもらわないと!」
「あれ!?かなり話がぶっ飛んでいるような気がするんですけど間違いですかね!ねぇ!」
「そうだね・・まずは色々とすませちゃわないとねぇ」といいながらボタンをまた一つ外していく。
「ち、ちょっと待ってぇ!なんで脱いでいるの!?」
顔を赤くしながら相馬は脱ごうとしている長宗我部の手を止める。ボタンが二つも外れて見えそうで見えなかった部分までみえてきているから心臓がばくばくと音を立てている。
「そっかそっか~僕が脱ぐよりも自分で脱がしたいわけだね!いいよいいよ少し恥ずかしいけれど乃斗君にす・すべてを任せる」
だぁああああああああああああああと相馬は叫びながら必死にこの状況から脱出する為の手段を考える。少しして。
「何も思いつかねぇえええええええええええええええええええええ」という絶望的状況の中うふふと笑いながら長宗我部はゆっくりと相馬に近づこうとしてそのまま意識を手放した。
「うわー・・・ギリギリのところだったみたいだな」
「・・・・城戸さん・・どうして」
「いや・・変なタレコミがあったからさ確認する為にきたんだけど」
「た、助かりました・・・あの、こいつに何したんですか」
くかーと寝息をかいている長宗我部をみながら相馬は尋ねる。
「最新の睡眠薬で眠ってもらっているだけだから大丈夫、あぁこうしている場合じゃないんだ!とにかく外に出よう!」
「へ、あ、はい」
城戸に頷いて教室から出る。眠っている長宗我部のことが少し心配になったがあまりにせかされるため放置する事にした。
「そういえばタレコミってなんですか?」
廊下を早歩きしながら気になっていた事を尋ねる。城戸はある事件をきっかけで知り合ったのだがおっちょこちょいのところはあるが信頼できる人間。
「うん、ある国で問題が起こって全て処分されたはずの薬がこの学校で見つかったとかいう情報でね。その真意を確かめようと思ったんだ」
「処分されたはずの薬?」
「愛の妙薬っていう惚れ薬っていう薬でね。一滴飲むだけで奥手で意中の相手に告白できない子が積極的になるというもの」
「・・・・惚れ薬って存在していたんすね。漫画の中だけだと思っていました」
「魔法って言う非現実的なものが存在しているのに惚れ薬を信じられないってどうなの?というかキミも一般人の俺からすれば非現実の塊なんだけど」
「そうですけど・・・やっぱ目の当たりにしないと信じられないじゃないですか・・・・あの、なんでその薬は危険ってなったんです?」
話を聞いている限りだとそんな危険な物とは考えられなかった。相手に飲ませて好きにさせるというのならばたまったものではないが自分のやる気を引き起こす為というものならば残っていてもいいものだと思う。
「意中の相手に告白させるっていうところは問題がなかったんだけど、副作用があったんだよ」
「まさか・・・病気になるとか?」
「ううん」
「じゃあ命を落とすか」
「暴走しちゃうんだよ」
「・・・・・・・はい?」
「だから意中の相手に気づいてもらう為ならどんな手段をとらなくなって周囲の目をはばからなくなっちゃうから道徳的に問題になって政府の偉いさん達は処分する事を決定したそうなんだ・・・てか、話によるとその国の偉い人も被害受けたとか言う話なんだけど」
「へぇ・・・ん?」
話を聞いているとそういう感じの暴走をみたことを思い出す。というかついさっきそうなっていたんじゃ?
「あの・・・もしかしたら俺、その薬を飲んだかもしれないやつを見たかも」
「本当か!?よし詳しいことをききたいからここから出たら話を」
城戸が驚きながら旧校舎のドアを開けた途端、異変が起きる。入口に等間隔に埋まっていた棒が震えたと思うと蛇に姿を変えて二人に襲い掛かってくる。
「な、なんだこれ!?」
「城戸さんこっち」
相馬は襲い掛かってくる蛇から逃げる為に城戸を引き寄せて旧校舎のドアを閉める。ドアの隙間はかなり小さくて普通のサイズの蛇では通り抜ける事はできない。
「どうなってんだ・・・棒が蛇って・・」
城戸が冷や汗を流している横で相馬は携帯を開いてある人物に連絡を取る。こういう現象についてそこそこ詳しそうな知り合い。
「あ、安倍か?」
『んだよ』
「お前に聞きたい事がある」
『なんだ?こっちや忙しいんだ。早く用件をいえ』
「魔術の類で棒が蛇になるっていうものはあるか?」
『あるぞ』
「どんなものだ!?」
『いきなりなんだよ』
「いいから!それの対処法が知りたいんだ」
『まず聞くが棒は等間隔に一つの建物を囲むように埋められていなかったか?』
「あぁ・・その通りだ」
相馬が説明すると電話の向こうでなるほどと納得した声を漏らす。
『おそらくアフリカの魔術だ。アフリカ人の中には魔術の不断の恐怖のなかに生きているっていう話がある。彼らは魔術を危険な存在とみなしツワナ人のように身を守る為の術としていくつかの術を用いている。その中に新しく家や小屋、畜舎を建てる時にくさびや他のもんを用いて強化するという方法がある。家を強化する方法の一つで呪薬を塗りつけた長い棒を玄関に埋めることによって魔術師や悪事をなす者が玄関を踏み越えようとするなら棒は蛇になって相手にかみついて殺すという方法だ』
「待てよ。外からの襲撃だろ?なんで内側から外にでようとして襲われないといけないんだよ矛盾するぞ」
安倍の話が確かなら旧校舎の外にある魔術は外敵からの侵入を防ぐ為のものだ。ならば自分達が襲われたことに理解が出来ない。悪意を持っていないし内側にいたというのに。
『そんなの簡単だ』
「・・簡単?」
『術式を組み込むんだ。呪薬の設定は切り替えることはできないが術式を上書きする事と玄関だけでなく周囲に展開させることで本来の機能とは異なる発動方法にする事ができる』
「へぇ・・・・なぁなんでそんなこと詳しいんだ?」
相馬は話を聞いていておかしいと疑っていた。
安倍は確かに魔術のことなどに詳しい。だが詳しすぎる。一つの事を教えて十が帰ってくるようなことはいままでになかった。
故に相馬はストレートに聞いてみることにした。
『あ?んなの決まっているだろ』
相馬のすぐ傍の窓ガラスが開いて。
「お前の人生が終わる瞬間がみてぇからだよ」
「てめぇの仕業だったわけかぁ!!」
窓の枠にもたれて悪人みたいな笑みを浮かべている安倍彦馬に向かって相馬は叫んで殴りかかろうとするが手を前に出して制す。
髪を赤色に染めて国友のブレーザータイプの制服を着ている。
「おっと、俺がいる場所は術の範囲内だ。無闇に近づいたら蛇にガブっだ?」
「なんでこんなことしてんだよ!?金にならないことはしないんじゃなかったのかぁ!」
安倍彦馬、日本に存在する学会という組織に所属している陰陽師でありこの学園の生徒、さらに付け加えると守銭奴。金のためならどんなことだろうと協力する信用ならない人物だ。相馬の不幸の半分以上に安倍が加担していることが多い。
「城戸さんに垂れ込みをしたのもお前か!」
「あ?んなことするわけねぇだろそもそもお前の味方を増やすなんてデメリットをこの俺様がすると思うか?」
「・・・いわれてみれば」
「それに俺は今回は協力者であって実行者は他にいるしな」
「おい、それはどういう」
「そ、相馬君!」
尋ねようとした相馬に城戸がやけに怯えた声をだす。なんだ?と思って彼のほうを向いて体が文字通り硬直する。そこには信じられないものがいた。
「あーみつけたよ~うふふふふなかなかみつからないからあの女狐に先を越されたかととてもとても心配したんだぁよかったよかったこれでゆっくりとナイトを自分だけのものにできるんだねぇー、あぁ楽しみだな楽しみだなぁ」
「「・・・・・・・・」」
あまりに信じられない光景に相馬を含め城戸も言葉を失っていた。そこにいたのは○ェイ○ンみたいにチェーンソーを片手に構えてホッケーマスクを装着、さらに全身を黒い外套で覆っている人が立っていた。付け加えると外套をすっぽりと覆っているために性別が判断できない。
「うぉおおい!安倍あれはどういうことだ?俺はあんなホラー映画にでてくるような殺人鬼に狙われるような事をした覚えがこれっぽっちもないんですけどぉ!」
「・・・俺もあんな姿をしてくるとは思わなかった・・・ま、まぁせいぜい苦しめばいい!というかリア充野郎になっちまえ!そうすれば俺の目的もかなうんだからよぉ」
「って、この状況で逃げるのか!羨ましいから術式解いていってからにしやがれって・・逃げ足はやい・・」
さて、と息を吐いて相馬はゆっくりとこちらに近づいてくる黒ずくめの存在に目を向ける。さっきからぶつぶつと同じ事を繰り返しているがなにやら右へふらふら左へふらふらと足元がおぼつかない。
これは案外なんとかできるんじゃないのだろうか?
予想だが相手は疲労しているように見える。なんでかはわからないがこれは走って逃げるという選択肢を使えばなんとかなるんじゃないかと思う。
「城戸さん、逃げますよ」
「お、おう」
黒ずくめの放つ空気に圧されていた城戸は立ち上がろうとして急に床に倒れこんだ。
「城戸さん?」
「・・・・ぐー」
城戸はどういうわけかイビキをかいて眠っていた。あまりの恐怖に思考回路が考える事を放棄して眠るという選択肢をとってしまったのかと心配したが彼の首を見て違うことに気づく。首に赤い吹き矢みたいなものが突き刺さっていて首筋から液体のようなものが床に垂れていた。
「麻酔薬・・?」
眠らされたのか?と思っているとすぐ背後に威圧感がやってきた。
「うふふふふふふふふ!とうとう・・とうとうこの日がきたんだねぇ!楽しみだ楽しみだ。さぁナイト・・・」
「さ、さらばぁあああああああ!」
城戸を見捨てる事に心が痛んだが今まで培った経験から“ここで逃げないと自分はとんでもないことになってしまう”という恐怖が勝り全力で逃げる。
「逃げーーーーーるーーーーーなーーーー」
「お、追ってきた・・けど」
意外と遅いな。
持っているチェーンソーが重いのか床に引きずりながらこっちに向かってきている。どうやらあれが重りになっていて体力を削ってくれる役目も買ってくれているようだ。これなら。
「逃げられると思った?」
「っ!」
真横から聞こえた声に振り向かずに近くの教室に飛び込む。
相馬が転がりながら教室の中に飛び込んだことでドアが地面に倒れてガラスの破片が飛び散ると同時に大量の木片が降り注いできた。
「あーもう動かないでよ。一撃で意識を刈り取るつもりだったんだからぁ」
「・・・その声・・狩夜さん」
素顔は隠れて見えないが声は間違えるはずがない。狩夜だ。
狩夜は壁にめり込んでいるチェーンソーを引き抜いてゆっくりと近づいてくる。
「ど、どうして狩夜さんまでこんなことを!」
「決まっているじゃないか。ナイトが欲しいんだよ。欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲し過ぎて堪らないから参加したんだ。俺はどうしてもナイトが欲しいんだ」
「欲しいって・・・殺すの間違いじゃ」
「そんなことは些細な違いなんだ。欲しいものを手に入れるためなら殺すなんていう考えのヤツもいるだろう?だから選んでもらうナイト。私の手によって永遠となるか一緒に居続けるか」
それって命を落とすか落とさないかの違いじゃないんですかーと口から叫びたかったけれど眼前につきつけられたチェーンソーに恐怖して黙秘を貫く。
「黙秘は肯定ととらえていいのか?」
「えっと・・・ごめん」
最後まで言い終わる前に相馬のすぐ横にチェーンソーが床にめり込む。のめりこんだチェーンソーが起動してがりがりがりと床を削り取っていく。
「なんでなんでなんでなんでなんで拒否するんだよ。こんなこんなにもお前の事を想っているというのにどうして拒否するんだよどうしてどうして」
「・・・だってさ」
チェーンソーががりがりとすぐ傍の床を削っているが相馬は真っ直ぐに黒ずくめの狩夜を見る。
震えている声で尋ねてくる彼女の威圧に臆すことなく見据える。
「そんなウソいわれても断るに決まってるだろ」
「ウソなんて・・」
「ウソだ」
「違う違う違う違う違う!俺はウソなんて」
「だったら・・・」
手を伸ばして外套を脱ぎ捨てる。
外套が地面に落ちた。
「なんで泣いてんだよ!!」
狩夜の肩を掴んで真剣な顔で相馬は言う。
「俺は偽りの気持ちで伝えられても嬉しくなんかない!あんたは薬のせいで偽りの言葉を俺に向けたくないから泣いてんだよな!」
「そんなことない俺は俺は」
地面から引き抜いてチェーンソーを相馬に向かって振り下ろそうとする。
このまま下ろされたらチェーンソーの刃が彼の脳天に直撃してザクロのように飛び散るだろう。
だが。
直撃するはずだったチェーンソーが赤い粒子に遮られて止まる。
「俺はアンタに泣いて欲しくなんかないんだ!」
激昂すると同時に赤い粒子が増してチェーンソーを砕いた。
「だから・・・」
拳を握り締めると覆うように赤い粒子が纏わりつく。
「少し痛いけれど我慢してくれ」
大地が揺れるほどの衝撃が旧校舎の中で巻き起こって狩夜は壁をぶつけてそのまま窓ガラスから外に落ちそうになる。
だが、相馬が手を伸ばして彼女の体を抱きしめた。
「毎度毎度思うが俺の力ってなんとか制限つかねぇのかな・・ちょっと暴れただけでここまで壊すってどうかと思う」
狩夜を抱きかかえて被害が少ない場所に寝かせる。
相馬の後ろでは原型をとどめていない教室のなれの果て。
赤い粒子はどういうわけか相馬が魔法を使うと現れて拳の威力を増したりと力の底上げをしてくれる。
「さーてと・・こんなくだらない薬を俺の知り合いにばら撒いたヤツを見つけ出して・・ぶっ飛ばしてやる」
拳を握り締めて相馬乃斗は校舎の中にいるかもしれない犯人を捜す。
久しぶりに彼は本気で怒っていた。