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魔術師と配達人  作者: 夕闇 夜桜
第三章、魔術師バトル
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第三ー二十四話:団体戦本選・第二試合Ⅷ(武器精製vs速さ)


 頼人(よりと)の相手は、速さの能力を持つ仮面の男である。

 圧倒的な素早さで相手を翻弄し、攻撃していくというのが、彼の基本パターンなのだろう。


「ほらほら、どうした?」


 故に、多くの武器を作り出すという手数の多さで勝負するタイプの頼人とは、相性が悪いとも言える。

 そして、今一番の問題というのは――彼の能力が、頼人の武器生成・精製という能力速度まで超えようとしていたことである。


「馬鹿にされて、怒ったんじゃないの?」

「……っ、」


 明らかに挑発だと分かってはいるし、怒っていないと言えば嘘にはなるが、何故かイライラしないし、変に頭は冷静だった。

 それでも、相手の素早さ攻略が最優先だと判断した頼人は、攻撃を受けることとなっても、きちんと彼を見て、その動きを捉えようとしていた。


「――ああ、ここか」


 そして、今だと判断して、そのままノールックで振り抜けば――


「……ッツ!?」


 まさか当たるとは思いもしなかったのだろう、その手には先程まで無かったはずの刃によって出来た傷に、彼は息を飲んだ。


「お前は当てることすら(・・)できないと言ったが――どうだ、当たったぞ?」


 頼人の言葉に、素早さの彼の顔が歪む。


「たった一度……たった一度当てたぐらいで、随分と余裕じゃないか」

「顔が引きつってるぞ?」

「っ、」


 きっと、あの素早さには、彼のプライドのようなものだったのだろう。

 けれど、頼人の刃は彼に届き、そのプライドに(ひび)が入った上に、先程までの余裕そうな声や態度――そして、頼人たちには分からないが、表情までもがすでに崩れ始めていた。


(これぐらいであの動揺レベルなら、あと何回か当たったら、プライド崩壊しそうだな)


 頼人のその推測もそう遠くないのだが、仮面の彼の中では、『あの刃が何故避けられなかったのか』だとか『あの速度レベルなら、次は回避できるはずだ』とか、ぐるぐるとその事ばかり考えていた。

 自身の素早さに対する、絶対の自信――それは、彼の中では『崩れてはいけないもの』であるために、仮面越しに頼人を睨み付けていた。


「……これ、相手を本気にしちゃった系かな?」

「さぁ、どうだろうね」


 ルイシアの感想のような呟きに、ルイナは淡々と返す。


「けど、相手がどれだけ本気になったとしても、頼人の武器が届き、当たったのは事実」


 その事実だけは変わらない。


「能力の相性が悪くても、もう一つの(・・・・・)相性的なもの(・・・・・・)は、頼人の得意分野だから大丈夫だろうし」

「それもそっか」


 そんな頼人の幼馴染組の言葉に、玖蘭(くらん)は一人、『何言ってるのか、分からない』とでも言いたげな、どこか納得出来なさそうな表情を浮かべながらも、試合を見守るのだった。


   ☆★☆   


「あいつ、勝てると思うか?」

「いや、無理じゃない? そもそも能力面で相性が悪く見えるし」


 別室――選手用の控え室で、現在行われている試合を見ていた他の選手たちは、仮面の男の速さなどから頼人に勝ち目が無いと判断していた。


「でも、当てましたよ? 一回だけだけど」

「何回かならともかく、一回ならマグレでしょ」


 けれど、頼人が一度当てたことに『もしかして?』と思う面々がいないわけでもないが、やはりその一回のみでは、『頼人が勝てる』と言う根拠には足りなさすぎた。

 そして、魔術師協会・飛鳥(あすか)チームも、というと、現在の試合について話し合っており――


「それにしても、面白い能力だよな。片や武器を作り出し、片やスピード特化って」

「だよねぇ」


 そう話す兄妹の横で、チームメイトの琉夏(るか)が問いかける。


「そういえば、飛鳥はどこに行ったの?」





 一方の飛鳥は、というと、単独で部屋を出て観客席の出入り口に来ていた。


「お、お前も来たのか」

「……」


 頼人が動けなくなるほどの速さが、実際どのくらいのものかを見るためであるのだが、それは飛鳥だけではなく、他のチームのリーダーたちも同じ考えだった。


「画面越しでも構わないが、実際に見るのとでは、また違うからな」

「……」


 飛鳥が返事をしなくても構わないとばかりに、他のチームリーダーたちは会話を続けていく。


「それにしても、協会本部のリーダーさんは静かだな」


 特に何らかの声を掛けるわけでもなく、ただじっと目の前の試合を見つめるルイナに、それぞれのリーダーたちも一瞥する。


「ここからどうすると思う?」

「まあ、協会側としては、もう一発与えたいところだろうな。リーダーとしても、そうして欲しいところではあるんだろうが……」


 だが、協会本部側のチームリーダーであるルイナが同じことを思ったり、考えているのかどうかは不明である。


「あのリーダー、どうすると思う?」

「さてなぁ……」

「もし……」


 そして、会話はルイナの動き方の推測に移行する。


(そう簡単に推測できれば、こっちだって苦労しないんだがな)


 ルイナと戦闘経験のある飛鳥から言わせてもらえば、他の選手たちに推測できるのであれば、もうすでに彼女から勝利をもぎ取っていると言っても良いぐらいである。

 しかも、ルイナの契約精霊は多種多様な上、さらには彼女自身が思いもよらない手を使うこともあるため、容易に攻略することなど出来るはずもない。


(それに……)


 ルイナの所持魔力は、以前戦った時と比べると、増えていることだろう。

 しかも、彼女のサポート役とも言えるルイシアの存在も、厄介さに拍車を掛けている。


「……」


 だが、あれから新しい能力や戦力などを手に入れたのだ。こちらがいつまでも同じと思ってもらっても困る。


(とりあえず、今は――)


 彼女たちの戦い方を見ておくことにしよう。

 そして、いつかぶつかるときの参考にすればいい。


 そう思いつつ、飛鳥もまた、他のチームと同様に試合を見続けていく。





「……へぇ」


 そして、フィールド外で何かに気付いたのか、頼人たちの試合を見ていたルイナが感心したような声を洩らす。


「どうかした?」

「いや、ちょっとね」


 くすくすと笑うルイナに、玖蘭が急かす。


「何かあるなら言えよ」

「いやぁ。ただ、一度気づいて、物事をそう見ちゃうと、その先はそういう風にしか見えないんだな、って思って」


 ――全く、残念だ。


 ルイナは内心、そう付け加える。


「つまり、中で戦ってる頼人よりも、外から見てる私たちの方が分かりやすいし、気付きやすい」

「……うん?」


 納得できたような、できて無いような。

 そんな雰囲気を滲ませる二人に、ルイナは告げる。


「ああ、ちょうどいいタイミングだね。あれ、よーく見ておきなよ。見てれば分かるから」


 ルイナは笑みを浮かべる。

 ただ、よく見るためにも、あの速さに目が慣れるのが前提条件だが、今この場にいる面々にはそんなことを言う必要はないので、彼女は口にしない。

 ルイシアと玖蘭が文字通りじっと試合に目を向けていることに苦笑しつつ、ルイナは告げる。


「相手の攻撃時――というか、頼人へ攻撃を始めようとしたのと同時に、少しばかりあの速さが落ちている。つまり、そこに気づいて攻略さえ出来れば、頼人の勝利はほぼ確定だ」


 出来る・出来ないではない。

 きっと彼なら、自分の言った『全て』を可能にする――ルイナの直感がそう告げているのだから仕方がない。

 あくまでも『直感』なので、外れるかもしれないが、それでも――


(それは、無駄にはならない)


 戦闘能力が無かったり、応用できる力が無いわけではない。

 たとえ、今この場で役立てなくても、きっといつかは役に立つはずだ。


   ☆★☆   


「……」


 頼人は、速さの仮面の攻撃を防いだり、回避できるようになっていた。


 ――まあ、そうなるわな。


 どれだけ相手が速かろうと、その素早さに目が慣れてしまえば、これから何をしようとしているのかなど、視認可能である。


「っ、少しぐらい攻撃を避けられるようになったからって、いい気にならないでください!」

「……そうだな」


 速さの仮面の攻撃を、頼人は盾を出現させて防ぐ。


(これ、本人は気づいてるのか?)


 実はルイナが気づいたことを、頼人も何となくで気づいていた。

 でも、確証が無かった。

 外から見ていれば『これだ』と確証を得られたのだろうが、対戦相手であるが故に、その点に関して、自信が持てずにいた。


(でも、あいつが自分で気付いていないのであれば、俺にも勝ち目はある)


 あとは、こちらから攻撃する機会(チャンス)見出(みいだ)すだけである。


「――ッツ!!」


 早さの仮面の攻撃を弾き返せず、その余波が顔を掠るが、その痛みに顔を顰めるだけで、頼人も特に動じることなく、息を吐くことで落ち着かせる。





「ねぇ、ルイシア」

「何?」

「ちゃんと仮面の奴らを倒し、上に進もう」


 諦めない頼人を見たルイナは、ルイシアにそう告げる。


 「彼女(ローズ)のためにも」

 「……そうだね」


 その言葉で小さく笑みを浮かべたルイシアは、頼人の方へと振り向くと声を掛ける。


「頼人ー! 絶対に勝ちなさいよー!!」


 彼女にしては珍しく大声での叫びに、何事かと振り返る頼人だが――


最初(はな)からそのつもりだよ」


 そう返しつつ、真面目な顔で速さの仮面へと目を向けるのだった。



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