第三ー十七話:団体戦本選・第二試合Ⅱ(ルイナの怒り! バトル場の悲劇 )
この状況を見ていた全ての人は、自分の目を疑った。
「なん、でっ……!」
そんな人々の目に映ったのは、バトル場にいた仮面が外れた少女――ローリエを、仲間が後ろから襲うということだった。
「……何でっ、今は、ま、だ、試合ちゅ、う、でしょっ!」
彼女の言葉に冷たい目を向ける仮面軍団。
「我々のルールを忘れたか」
「それ、は……」
黙り込む少女に、刺した張本人は告げる。
「“仮面無き者に死を”」
そのまま、刃が再び振り上げられる。
「冗談じゃない」
その状況に怒気や殺気を放ちながらフィールドに上がっていきそうな勢いのルイナに、それを見たルイシアが腕を掴みながら忠告する。
「ルイナ。気持ちは分かるけど、今私たちが下手に手出しをすれば、こっちの反則負けになる」
「この状況下だと、反則でも何でもないでしょ!? 第一、あいつら人の命を何だと思ってるのよ!」
ルイナの怒りは尤もだった。
「うん、そうだね」
ルイシアは肯定しながらも、頼人に目を向ける。
「でも、この場での最良策は、我らが幼馴染に任せることなんじゃないのかな?」
ルイナが頼人に目を向ければ、彼が睨みつけるように、ローリエへ向けられていた刃を受け止め、守っていた。
「おい。今彼女も言ったが、今は試合中だぞ? 負けを言い渡される覚悟があるから、こんなことしたんだよな?」
睨みながらも確認するかのように問う頼人に、仮面の男は刃を下げ、肩を竦める。
「おやおや、何やら誤解しておられるようで。我々は我らがルールに則ったまでであり、第一、貴方には関係ないことでしょう?」
「確かにな。でも、そっちの勝手な都合で試合を中断されちゃあ、こっちとしては良い迷惑なんだよ」
あくまでも、ここは冷静に行きたい頼人だが、彼自身の怒りと背後からの怒気と殺気に、それどころではない。
「しかも、この場で一番優先されるのは、お前らのルールなんかよりも大会のルールだ。俺を含め、この場に居る奴らは誰一人、お前らのルールなんざ知らない。けどな――」
頼人は告げる。
「内輪揉めなら場外でやれ。無関係なこっちを巻き込むな」
「言ってくれますねぇ」
本当に嫌な話し方をする男である。
「じゃなきゃ、こっちは全力でそっちを潰しに行くぞ。次はもう、うちのリーダーも黙っていないだろうしな」
これは脅しなんかじゃない。宣戦布告だ。
ちらりとルイナに視線を向けた仮面の男は、剣を下げ、怒気を放つ彼女に肩を竦める。
「やれやれ……貴方がた協会の魔術師は随分とまあ、好戦的なようで」
「普段からこんなんだと思われても困る。今は目の前の理不尽が許せないのと、お前らが原因だってこと、理解しておけ」
とりあえず、言っておくべきことは言っておいたはずだ、と頼人は思うが、「ああ、そうだ」と仮面の男に目を向ける。
「次も同じことをやってみろ? お前はそれ以上の地獄を見ることになるぞ」
そう告げると、頼人は本来のスタートラインに立つ。
それを見て、ある程度溜飲を下げたらしいルイナは、ラハールに目を向ける。
「司会者。それで、この後の試合をどうなるんですか? 大会ルールでは違反行為により、彼らの負けとなりますが」
「そうだ!」
「どうするのー?」
『えーっとですね……』
ルイナだけではなく、観客からも同じような質問をされたラハールは返答に困りながらも、通信機器等で大会上層部に指示を仰ぐ。
「――まあ、こちらとしては、試合続行しても構いませんが」
ルイナはそう言うが、彼女の本心としては、正々堂々と彼らを叩けることと、このまま勝ち進んだ際に、この事とは関係の無い対戦相手に八つ当たりしたくはないからだ。
それが分かっているからこそ、ルイシアも玖蘭も止めることはしないし、現在進行形でフィールドに居る頼人も口出ししない。なお、断じて、ルイナが怖いからではない。
『仮面軍団の皆さんは?』
「こちらも構いませんよ」
『分かりました。では、大会上層部からも許可が下りましたので、この第二試合だけはこのまま行うということで』
そう全員に告げれば、観客たちから歓声が上がる。
『なお、再開するに辺り、先程とは別のメンバーからの再スタートとなりますので、ニチームには先程のお二人とは別の人物を選出していただきます』
まあ、仮面軍団に関してはローリエを出してきたところで無理だろうが、とラハールは思いつつ、救護班により運ばれていくローリエに心配そうな視線を向けつつ、切り替える。
出来れば、先程のようなことが起こらないでほしいと願いながら――
☆★☆
とりあえず、バトル第二試合だけは行うことになったのだが、ルイナたちは頼人ではないが誰かに――対戦の順番を変える必要があり、そのトップバッターとしてルイシアがバトル場に立っていた。
出場順を再編成するために、双方に与えられた時間は十分。
一度フィールドから降りてきた頼人に、ルイナは一瞥するだけに留め、ルイシアと玖蘭は肩を竦める。
「それで、どうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、要請通りに頼人の出場順を後回しにするしかないでしょ」
「しかも相手は、仲間だろうと容赦なく切り捨てるタイプみたいだからな。頼人が忠告したとはいえ、ちゃんと聞くかどうかはあいつら次第だろうし」
ルイシアと玖蘭が仮面軍団に目を向ける。
「そもそも、さっきのは頼人の攻撃の余波で仮面が外れ、壊れたのが原因。しかも、あいつらの言い分だと、『仮面が外れたら処罰』があちら側のルールみたいだし」
「となると、だ。さっきの二の舞にさせないためには、あいつらの仮面を外させないように戦うか、こっちが負けるかの二択か」
悩ましい上に面倒だと言いたげに、頼人が溜め息を吐く。
「要請に応じ、且つ私、ルイシア、玖蘭の誰かが出る必要がある」
「そうだね」
再度確認するかのような言い方をするルイナに、ルイシアが頷く。
「まあ、個人的には、私が出て行っても良いんだけどね」
どこか悪どい笑みを浮かべながらそう言うルイナに、他の三人がぎょっとし、慌てて制止する。
「いやいやいや!」
「もうちょっと待て!」
「二度目があったら、それこそルイナの出番でしょ。たった一回で出ていったら、それこそ何を言われるか分からないよ? ただでさえ、好戦的だとか言われたばかりなのに」
落ち着けと言わんばかりの男性陣に対し、ルイシアがある意味正論の言葉で宥める。
「それに、ルイナはリーダーなんだから、最後はきちんと決めてくれないと」
「だな。つーわけで、この後の再開初戦は俺かルイシアのどっちかが行くってことで」
「ま、それが一番無難そうだけど、私が先に出るよ。その間に頼人と玖蘭は二戦目と三戦目、どっちが戦うか決めておいて」
「いいのか?」
「私は構わない。それで良いよね?」
確認するかのように問い掛けるルイシアに、ルイナは「良いよ」とあっさり返す。
そんな彼女に「え」と驚いた表情を向ける男性陣に対し、「じゃあ、私が一番手ってことで」とルイシアが告げ、軽く身形を整える。
頼人には少しとはいえ、体力を戻し、二人目か三人目として再度バトルをしてもらうというのが、ルイナの考えでもあったから、その代わりにルイシアが行こうが玖蘭が行こうが、特に反対するつもりはなかった。出場順を変えただけなので、何も問題は無いはずだ。
「大丈夫。ちゃんと勝ってくるから」
そう言って、フィールドに向かうルイシアに、
「ああ、任せた」
「行ってこい」
「また何か起こっても、私たちがどうにかしてあげるから、好きなだけ暴れて構わないからね」
それぞれがそう告げる。
――自らの仲間を、何の躊躇いもなく、公衆の面前で犠牲にした仮面軍団たちを倒す。
その意志を持ったルイナたちは、仮面軍団を前に、絶対に負けるわけにはいかない。
ローリエとは違う、フィールドに上がってきた仮面の少女を見つつ、ルイシアはそっと息を吐く。
(さて、やるか)
彼女の仮面を壊さないようにしつつ、勝利を得る。
彼女を、ローリエの二の舞にさせないためにも――
『それでは、仕切り直して、本選・第二試合――』
観客たちにしてみれば、先程のこともあるために、協会側に勝ってほしい所だろうが、完全アウェーとなった仮面軍団がどうしてくるのかが気になる所でもある。
正直、ラハール自身も気にならない訳ではないし、協会側を応援したいところだが、総合司会である彼は公平に審判を下さなくてはならない。
たからこそ、彼は告げる。
『――試合開始』
こうして、バトルは再開された。