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魔術師と配達人  作者: 夕闇 夜桜
第三章、魔術師バトル
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第三ー十五話:本選へ


 予選最後の試合は、二戦ともルイナ側の勝利で終わり、ルイナたちは本選に進んだ。


 ーーと言われれば、聞こえは良いが、どうしたものか。最後の試合があんなぐだぐだな形で終わったために、ルイナとしては『勝った』『勝利した』という感覚がほとんど無い。

 アルフォードの方も、ようやく気が付いたようだが、チームの予選敗退が伝えられたようで、本選出場を決めたルイナたちに、次はリベンジしてやると宣言してきたぐらいだ。

 彼のチームメイトたちにも『勝ってくれ』『絶対に優勝しろよ』と言われては、負けるわけには行かないので、気合いを入れ直す。


「まあ、そう簡単に行かないのは重々承知だけど……」


 ルイナたちは改めて周囲を見渡し、本選へと勝ち抜いてきた面々を確認する。

 予選を勝ち抜いてきただけあり、錚々(そうそう)たる顔触れ……なのかどうかはともかく、苦戦することが多くなることは簡単に予想できた。


「さて、と……」

『皆様、大変長らくお待たせしました! 只今より、本選での試合形式の変更とルール説明をさせていただきます』


 これから本選が開始されるわけだが、本選出場者たちの前に立った総合司会者であるラハールにより、前口上からの試合方式がトーナメント方式になることが告げられる。


『そしてーーすでに、みなさんの目の前にある、このトーナメント表。こちらの空いている枠ーーつまりシード枠なのですが……』


 彼らの名前を告げるだけなのに、随分と勿体振(もったいぶ)るなぁ、とルイナたちは聞いていて思う。


『もちろん、知っている方はいらっしゃるとは思いますが……その気になるシード枠には何と、前回大会の優勝者である飛鳥選手率いるチームの皆さんに入っていただき、この本選の特別(シード)枠として、参加していただきます!』


 ラハールの隣に立つ飛鳥たちに、やっぱりなどとは思わない。

 ある意味呆れたようなルイナの視線に気づいたのか、飛鳥が満面の笑みを向けて返し、隣にいた上総(かずさ)に「何やってんだ」とばかりに(ひじ)小突(こつ)かれている。


(ああ、あの関係は代わってないのか)


 ご苦労様だこと、とルイナは上総に目を向けるが、そんな彼の視線が「お前のせいだよ」と言いたげなのは気のせいなのか。否か。

 そんなルイナの隣にいるルイシアが、こっそりと声を掛ける。


「ルイナ」

「ああ……うん」


 そして、前回大会優勝(チーム)である飛鳥たちを見ていたルイナとルイシアは、頼人と玖蘭に声を掛ける。


「二人とも、ちょっと」

「ん?」

「何だ?」

「分かり切っていることだし、改めて言うことでもないんだけど、このまま勝ち進んで行けば、決勝かその前辺りで彼らと戦うことになるのは、トーナメント表から一目瞭然なんだけど」

「ああ、そうだな」


 二人は、それがどうしたとばかりに不思議そうにする。


「だから、もし彼らと当たったりしたらさ」


 ーー本気で倒すぐらいの覚悟はしておいて。

 珍しく真面目な顔をして告げるルイナたちに、二人が顔を見合わせる。


「覚悟って……」

「大げさな」

「冗談抜きで、強いから」

「何で本部にいないのかが不思議なぐらいにね」


 二人がその身を(もっ)て、彼らの強さを経験しているからこそ、言えることだ。

 彼らが支部所属だからと(あなど)ること(なか)れ。下手をしたら、本部所属の魔術師たちを上回るのではないだろうか。


「そんなに、か?」

「玖蘭はともかく、頼人は見てたと思うんだけど……」

「見てた?」

「覚えてないなら良いよ」


 彼らに関して、忘れてしまったというのなら、無理に思い出す必要はない。

 頼人たちと話し終えた二人は前に向き直ると、ラハールが改めて本選でのルールを告げている途中であり、話は先程から目の前に表示されているトーナメント表へと移行する。


「あー、でもなぁ……やっぱりと言うべきか、何と言うべきか」


 さっきは推測で言ったわけだが、少なくとも準決勝か決勝で飛鳥たちと当たるのは間違いないと、トーナメント表からルイナたちは改めて推測する。


「お楽しみは、かなり後みたいだな」

「最初に当たらないのはありがたいけど、最後ってのもねぇ」


 飛鳥たちは飛鳥たちで、そう話し合う。


「にしても、本選の出場者の中に、協会所属の魔術師チームが二組。彼女たち、他の奴らから集中砲火されなきゃ良いけど」

「大丈夫だよ。決勝に来るだけの実力は、ちゃんと持ち合わせているはずだし、決勝(うえ)まで来てくれるはずだ」


 そんな飛鳥の台詞に、チームメイトたちの視線は同じことを物語っていた。


(その彼女に向ける無類の信頼を、少しで良いから自分たちに分けてほしい)


 そりゃあ、上総たちから見ても、飛鳥がずっとこの時を待ち望んでいたのだから、嬉しいのは分かるのだがーー


『それにしても、協会所属の魔術師チームが二チームも本選出場となっていますが、飛鳥選手たちとしては如何(いかが)ですか?』

『そうですね……何と言いましょうか。彼女たち(・・・・)はあくまでも本部所属の魔術師であり、僕たちは支部所属ではあるのですが、もし当たった際には全力で戦ってみたいですね』


 ラハールに意見を求められた飛鳥がそう返せば、鋭い視線を彼に向かって、ルイナが向けていた。


(ああもう、本部と支部の対立を表面化するような真似をして……!)


 おそらく、そういう意味(・・・・・・)でルイナも視線を向けてきたのだろうと、上総は推測する。


「ねぇ、ルイナ。彼、どういう意味なのか分かってて言ったみたいね」


 おそらく、彼の言葉の意味が分かったのは、魔術師協会所属の魔術師たちだろう。

 最近の(協会)本部から見れば、本部vsツインの方が色濃かったわけだが、本部vs支部の問題が無いわけではない。

 本部の魔術師が支部の魔術師を見下すこともあれば、支部に左遷(とば)された魔術師が「自分はエリートなんだ!」とばかりに左遷先(そこ)で好き放題し、元から支部所属の魔術師をパシリにしたりすることもあったりと、それなりの(・・・・・)溝は存在している。


「あえて言った可能性も高いけど、今ここで煽る必要なんて無かったでしょうに」


 そう告げながらも、ルイナは改めて自分たちの対戦順と対戦者を確認する。


(対戦順は……第二試合、ね)


 それにしても、と首を傾げる。


「仮面て……」


 『我々としても、是非見てみたいですね』と飛鳥に返すラハールを余所に、ルイナはあえて目を向けないようにしていた、この場の誰よりも異彩を放つ存在たちに目を向ける。


「うわぁ、何か良い意味でも悪い意味でも目立ちそう」

「お前も、そう思うか」


 どうやら、同じことを思っていたらしい玖蘭の言葉に、ルイナは頷く。

 ただでさえ協会の魔術師ってだけで注目されてるのに、その注目度を飛鳥が跳ね上げ、さらに殊更(ことさら)目立つ装束を身に纏っている対戦相手である。しかも、ルイナが精霊術師であることから、目立つなという方が無理である。


「ああ、今更(いまさら)支部所属を見下す魔術師(ひと)たちのプレッシャーまで、乗っかってきたし……」

「本当に今更だな」


 そんなやり取りも終えたところで、ラハールの声が響き渡る。


『以上を持ちまして、本選のルール説明及びシード枠出場選手等の説明を終了させていただきます。選手の皆様、観客の皆様。どうか、ルールに(のっと)り、他の方々にご迷惑が掛からない(よう)、ご協力の程をよろしくお願い致します。それとーー』

『はい。会場の隣にある魔術師協会にて、本日より本部・支部関係なく『協会祭』が開催しております。様々な飲食店や遊技場などもありますので、良ければお立ち寄りください』


 ラハールの最後の口上と飛鳥の『協会祭』の宣伝が終われば、選手たちは各々で移動を始め、それを見たルイシアの「私たちも移動するよー」という声が、周囲を見ていた二人の耳へと届く。


「ん、今行くよ」


 そう告げ、ルイナが振り返るのと同時に、ふわりと黒混じりの紺色の髪が舞う。


 ーーこの時を(もっ)て、オリエンテーションは終わり、『魔術師バトル・本選』は開始されたのである。


   ☆★☆   


 それぞれの移動後、すぐに第一試合が始まり、その後に試合を控えているルイナたち選手はそれぞれチームごとに分けられ、用意された部屋ーー別室で試合を見ていた。


「……」


 フィールドで色とりどりの魔法陣から放たれる魔法に、剣などがぶつかり合う音が響いていくそんな中、ルイナは魔力を練ったり、集中力などをファイアたちと共に高めていた。


『ルイシア……っ!』

『ーールイナさん!』

『ぐ、あ……っ、!』

「……っ、」


 本選に入り、彼らと話してないとはいえ、その顔を改めて見て意識したためか、フィールドから聞こえてくる音のせいもあるのか。所々(ところどころ)で飛鳥たちとの試合が脳裏に甦り、集中力が途切れてしまう。


「……はぁ」


 どうやら、ルイシアも似たようなことを思い出していたのか、珍しくその顔を顰めている。

 どうにも、いつも通りに居られず、二人そろって溜め息も自然と増える。


「なぁ、ずっと気になっていたんだが」

「何?」


 そんな珍しく冷静さを欠いているような二人に、頼人が口を開く。

 それは、頼人だけではなく、玖蘭も気になっているのか、視線だけ向けてきている。


「その、あいつらーー飛鳥たちとは知り合いなのか?」

「ああ、それならーー」

『ーー試合終了ー! 一体、何が起こったんでしょうか!?』


 ルイシアが話そうとするのと同時に、司会者(ラハール)の実況や観客たちの歓声とともに、第一試合が終了する。


「……終わったみたいだね、最初の試合」

「……ああ」


 フィールドが見えるようにガラス張りになってるためか、状況はいやでも把握できる。


「どんな手を使ったのかという検証とかは後回し。さっさと行って、さっさと勝とう」

「……そうだね。私たちは出場者なわけだし、検証は大会運営の方に任せることにしますか」


 第二試合故に、四人は部屋を出て、フィールドに向かう。

 ルイナたちとしても気にならないといえば嘘になるし、その気になる点というのが、第一試合の進行の早さではあるのだが、その理由も自分たちが勝ち進み、次のーー二巡目に対戦してみれば分かることだ。

 だからこそ、今は目の前の試合に集中することにする。何かあったとしても、ルイシアたちだけではなく、側に居る精霊たちも気付くだろう。何より、大切な一巡目なのだから、こんな所で負けるわけにはいかない。


(大丈夫。今回こそはーー)


『おい、しっかりしろ! 柊!』


 今でも脳裏に浮かぶ光景。

 対戦相手なのに、どこか焦ったような、今にも泣き出しそうな様子の『彼』に、無事で良かったという意味と安心させようという意味を込めて笑みを浮かべてみたのだが、「笑っている場合か」と怒られた。


今回は(・・・)ちゃんと最後まで、決着を付けないと)


 願うべきは何事もなく、大会を無事に終えられることだ。



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