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魔術師と配達人  作者: 夕闇 夜桜
第三章、魔術師バトル
30/49

第三ー五話:団体戦予選・第三試合Ⅲ(“選択”するのは)


「君は勝てない、ねぇ……」


 言ってくれるじゃねーか、とラッシュは呟く。


「“フリーズ・エッジ”!」

「“フレイム・エッジ”」


 再び放たれた氷属性の魔法に、慌てることなくルイシアは火属性の魔法で対処する。

 魔法同士がぶつかり合い、蒸気が発生し、その場を覆う。


「っ、」


 蒸気のせいで把握しにくいラッシュの位置を気配で探るルイシアだが、何故か見つからない。


(もしかして、気配を消した?)


 だが、彼が焼け野原にしたこのフィールドでは、隠れられる場所など限られている。


「……」


 そして、ルイシアは蒸気が晴れた全体を見渡し、ふむ、と呟く。


「あそこからあそこまでが、会場の中心にあったフィールドか」


 ルイシアが上がった円形のフィールド。

 ラッシュがどのように指定したのかは不明だが、ルイシアが見た円形フィールドは目の前に広がる焼け野原と同じくらいの大きさだったはずだ。

 もしそう仮定するなら、ラッシュは気配を消し、このフィールドのどこかにいるはずだ。


(姿が見えないことから、幻影や反射系の魔法も使っていることを考えると……)


 一度溜め息を吐き、ルイシアは自身の眼鏡を付け、再びフィールド全体を見渡す。


「これは、少しばかり厄介だなぁ」


 さて、どうするべきか。


「でもーー」


 これは、魔術師協会所属の魔術師としての腕の見せ所だろう。


   ☆★☆   


「彼さぁ、微妙にミスったね」


 状況を見ていたルイナが呟く。


「蒸気を発生させてから気配を消し、魔法で姿を消すのは良い手なんだけど……」

「相手がルイシアだからなぁ」


 ラッシュがいるであろう場所を哀れみの目で見るルイナと実感の籠もったような言い方をする頼人。

 ルイナに関しては、他人(ひと)のことを言えないかもしれないが、今の状況からすれば、そう言いたくなるのも無理はない。


「でさ、私は決まったようなものだけど、二人は三チームの誰と戦うつもりなの?」


 ルイナの話題転換に、三つの相手チームに目を向ける頼人と玖蘭。ルイナは、といえば、本人の言う通り、各チームのリーダーが相手である。


「特に決まってないが……何でだ?」

「別に理由は無いよ。ただ、二人が戦ってみたい相手なら、一任するからさ」


 ただ、今回のルイシアの場合は、先に彼女がフィールド上にいた上に、ルイシアがトップバッターというのも最初決めていたため、誰と対戦したいかなど聞かなかったのだが。

 もし、ルイシアが誰と戦いたいのかを言ってくれば、ルイナは彼女の意志を尊重し、送り出すつもりではいる。


「ただし、負けても、責めることはしないからね」


 その辺は意志を尊重し、送り出したリーダーであるルイナの責任のようなものだから、ルイナとしては責められない。


「まあ、何だ。今の話、頭の片隅にでも置いておくよ」


 だから今は、ルイシアを応援しよう。

 彼女が勝つのを信じてーー


   ☆★☆   


「さて、どうしてくるんでしょうね。協会の魔術師殿は」

「どうするもこうするもねぇんじゃね? あっちだって、使える魔法とか限られているわけだし」


 確かにそれもあるが、自分たちと協会の魔術師たちがやってきたことの違いや経験の差が、この大会で出るのではないのか。


「それでも、勝つのは俺たちだ」

「ああ。たとえ相手が協会の魔術師だって、負けるつもりはねぇ」


 体格の良い男の言葉に、茶髪の少年が同意する。


「おや、花梨(かりん)。どうしました?」


 一ヶ所を見続ける口元を布で覆った少女ーー花梨と呼ばれた彼女は、長髪の青年の問いに、目で一度返し、再び同じ場所に目を向け、口を開く。


「ラッシュ、勝つの難しいよ」


 そう、彼女が言葉を発した瞬間だった。


「っ、!?」


 試合を見ていた玖蘭が何かを感じ、急に周囲を見渡し始める。


「玖蘭?」

「どうした?」


 そのことに驚いたルイナと頼人が尋ねるが、


「……いや、気のせいだったらしい」


 玖蘭はそのまま視線をフィールドに戻す。


「え? って、いやいやいや、確かに相手は協会の魔術師だが、最終的にどうなるかは分からんぞ?」


 一方で、花梨の言葉を聞いた茶髪の少年がそう返すも、花梨は首を横に振る。


「確かにそうだけど、今回はスムーズには行かない」

「……」


 花梨の言葉に、思わず沈黙する面々。


「特にリーダー戦。協会の魔術師の彼女、強いよ」

「そうですか……」


 花梨に言われ、思案し始める長髪の青年。

 このチームでは、花梨の言ったことが当たる確率が高いため、生死が関わる場合やこのような負けられない戦いの場合、彼女の言葉を信じることにしていた。

 なので、彼女が試合が進みにくいといえば進みにくいのだろうし、強いというのなら強いのだろう。


「せめて、相手の情報さえあればなぁ」

「情報ならあるぞ? 協会の魔術師たちは、個人情報の中でも好物とか公にしても問題ないやつはされてるし、大会本部からは一部の出場者の情報提示がされているし」


 茶髪の少年に言われ、体格の良い男がそう返す。


「何だよ、それ……」


 今知りましたと肩を落とす茶髪の少年に、


「勝ち進めば問題ないんですから、今更気にしても意味ありませんよ」


 と長髪の青年が返す。


「せめてここは、ラッシュに勝ってもらって、勢いをつけたいところだな」


 そんな体格の良い男の言葉に、今は頷くしかない面々だった。


   ☆★☆   


「これは、魔術師協会所属の魔術師としての腕の見せ所よね」


 ニヤリと笑みを浮かべ、ルイシアは言う。


「頼人や玖蘭ならともかく、相手が私なんだ。それで隠れたつもりなんて、かなり嘗められたもんだね」


 愛用の眼鏡から、改めてフィールド全体を見渡す。

 そしてーー


「見ーつけた」


 気配を消し、その場に立つラッシュに目を向け、ルイシアはそう告げた。


「ーーっ、」


 ラッシュは息を呑んだ。

 単に眼鏡を掛けただけで、何で見つかったのか。


(あの眼鏡に何かあるのか……?)


 だが、そんな機能があるようには見えない。


(だがーー)


 考えてるだけでは駄目だ。考えるなら、動きながらでないとーー……


 そう思ったラッシュを余所に、それを見たルイシアとフィールド外から見ていたルイナは笑みを浮かべる。

 そして、


「「とりあえず、第一段階はこれで終了」」


 と告げた。


   ☆★☆   


 ルイナたちの言う第一段階こと能力の見極めを終え、第二段階が始まった途端に、ラッシュは劣勢になった。


「どうしたの? 仕掛けてこないの?」

「っ、」


 ラッシュは仕掛けない。いや、仕掛けられなかった。

 今手を出せば、自分がやられるのは目に見えているのだから。


「……、」


 さて、どうするか。

 こちらの姿が見えないのだから、それを利用すればいいのだが、相手にはこちらが見えているような気がして、気が気じゃない。

 それでもーー


(それでも、やるしかないんだよな)


 ラッシュには、勝つためにやるしかないのだ。


「唐突だけど、さて問題。彼がこの後、取った方がいい行動はなんでしょう?」

「本当に唐突だな……」


 試合を見ていたルイナからいきなり出された問題に、やや呆れつつ考え始める二人。

 相手はあのルイシアである。

 だが、それはルイシアを知るルイナたちだからこそ言えることであり、何も知らない赤の他人なら、どうするのか。


「……俺なら、ルイシアが実は見えてないことに賭ける。あいつ、“見つけた”とは言ったが、“見えた”とか“見えてる”なんて言ってないからな」

「玖蘭は?」

「俺は遠距離攻撃。あいつが見えるにしろ見えないにしろ、自分の姿は見えないんだから、遠距離攻撃で様子見にした方がいいだろ。それに、俺があの場にいるのをイメージすると、いやでも遠距離になるしな」


 ルイシアが防ぐにしろ防がないにしろ、相手の行動を予測することぐらいは出来る。


「二人みたいに、彼がそこまで気づけばいいんだけど……まぁ、ルイシアだから何とかすると思うし」

「は?」


 ルイナの言葉に、頼人が何言ってんだ、と声を上げる。


「まさか、ルイナが言いたいのって……自滅覚悟で攻撃、か?」

「うん。ルイシアが見えてる見えてないっていう賭けより、自滅覚悟での賭けの方が何をやらかしてくるか、分かったもんじゃない」


 こればかりは、ルイシアだからとは言ってられない。


「だから、出来れば自滅以外の方法を取ってくれればいいんだけど……」


 そんな空気を感じ取ったのか否か、ルイシアは苦笑いする。

 そもそも、この元『森林フィールド』は、元々あった円形のフィールドに覆い被さるようにして展開されている。

 そのため、会場全体の歓声や応援する声は、ルイシアたちの元にも聞こえてはいた。


(さて、どんな方法で攻撃してくるのかね)


 ルイシアもラッシュが攻撃してくるのを待つ。


(せっかくだから、展開しようかと思ってたんだけどなぁ)


 ルイシアがメインで使う魔法は、ルイナがメインで使う精霊魔法と同様に珍しいものだが、『持ちかけバトル』の時に使わなかったのは、単に状況から使う必要がないと判断したためである。


「……っ、」


 一人静かに耳を澄ましていたルイシアが、(つば)を飲み込むような音を捉える。


「仕方ないなぁ」


 いつまで経っても向こうが仕掛けてこないのならーー……


「こっちから先に攻撃させてもらうよ」


 ーーこちらから仕掛けるしかない。


 そう告げ、ルイシアは魔法を発動する。


「検索範囲指定、範囲拡大」


 ルイシアは魔法を発動し、探すものを指定し、少しずつ範囲を広げていく。


「周辺把握、対象物確認ーー」


 障害物など周辺を把握していき、そして、確信したかのように笑みを浮かべる。


「出るよ、ルイシアの固有魔法」


 それは、今のところ柊ルイシアにのみ扱える、唯一の魔法。


「“選択(セレクト)”」


 ルイシアを中心に、魔力波が広がっていく。


「っ、」


 それは、対戦相手としてその場にいたラッシュだけではなく、遙か後方にある幻影の木々にもぶつかる。


(何だったんだ、今の……)


 ラッシュだけではなく、見ていた者たちの疑問は尤もだった。


「いつだ?」

「うん?」

「扱えるようになったの」


 少なくとも、本部側にいたときに頼人が見た覚えはない。

 つまりそれは、ツインに行ってから得たもの。


「基本的には、誰にでも得られる『検索魔法』だったんだけどね」


 ルイナは言う。


「ルイシアが、その場においての必要と不必要を分けるために、『検索魔法』を最速発動を繰り返してね」


 気がつけば、ルイシアはあの魔法を得ていた。


「必要と不必要、情報を選択し選別する。情報を主に扱うルイシアだから、得られた魔法」


 それが、“選択(セレクト)”という魔法。


「まあ、本人曰く、術者の情報許容量に対し、脳内に大量の情報が流れ込んでくるみたいで、情報処理能力が早くないと、許容量(キャパシティー・)超過(オーバー)で病院送り確実だって」

「……ルイシアは大丈夫だったのか?」

「聞いたときは私も驚いたんだけど、抜かりなく対策済みだった」


 その対策の一つが、ルイシアの口にした「検索範囲指定」や「周辺把握」という言葉。それだけで、余分な情報が流れ込まずに済み、必要最低限の情報のみがルイシアへと流れていく。

 ただ、流れ込んでくる情報は魔法の使用時のみなので、ルイシアにとってはありがたく、日常生活にも支障はなかった。


(さて、これで彼の居場所は完全に把握できたけど、これからどうするべきか)


 ルイシアは思案する。


(フィールド系魔法を展開する?)


 これなら彼にも攻撃できるが、“選択(セレクト)”を使った今、大規模魔法は避けたい。


(元の魔力量が多くて助かった。助かったけどーー)


 常人の魔力量なら、確実に枯渇寸前だったのだろう。

 ルイシアやルイナ並みの魔力量だから、若干余裕があるのだ。

 つまり、何が言いたいのかというとーー


(今の私に、攻撃に割けるほどの魔力はない)


 今、ラッシュから攻撃されれば、避けられはしても反撃や防御は難しい。

 そのことに、ルイシアは思わず舌打ちしたくなった。

 一方で、ラッシュは戸惑っていた。


(今のが、攻撃……?)


 攻撃系魔法か大規模魔法系辺りが来るかと思い、防壁を張り、身構えていたのだが、来たのは魔力波であり、何だか拍子抜けである。


(攻撃、するべきか?)


 様子を見る限りだと、今がチャンスなのだろう。

 だが、それが罠だとすればーー……


「っ、」


 賭けに出るべきか、出ないべきか。

 攻撃するべきか、しないべきか。


(チャンスは……)


「チャンスは、手繰り寄せ、呼び込むもの」

「花梨?」


 ぽつりと呟いた花梨に、青年が不思議そうな顔をする。

 何でもない、という花梨は、ラッシュに目を向ける。


(大丈夫。自分を信じて、ラッシュ)


 花梨はそう思い、ラッシュを見つめるのだった。


「このままじゃ、時間の無駄だ」


 ラッシュは小さく呟き、ルイシアを見る。


(このチャンスを、利用しない手はない)


「っつ!?」


 ラッシュの魔法発動を感じ取り、ルイシアは身構える。


(居場所が分かっているとはいえ、これは意外とキツいな)


 魔法は実力に応じて、術者からある程度離れたところからでも放たれることがある。

 そのため、彼が魔法の発動を自身の距離から離し、行えるとすればーーどこから飛んでくるか分からない。

 とりあえず、深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。


(大丈夫。冷静になれば、私は躱せる)


 集中して感覚を研ぎ澄まし、少しの変化も見逃さないように注意する。


「ーーッツ!!」


 だから、近づいてくる魔法に気づけば、間一髪で避ける。


「珍しいな。ルイシアがギリギリで避けたぞ」

「そういうときもある、って言いたいところだけど……」


 ルイシアがとった行動は、反撃ではなく回避。

 ルイシアも対戦相手である彼も、それなりの賭けに出たらしい。


「っ、まだだ!」


 ラッシュが次々と攻撃を仕掛けていく。


「このままだとーー」


 次々とルイシアは攻撃を回避していくが、未だに姿の見えないラッシュに、舌打ちする。

 せっかく彼の居場所を把握したのに、移動されていては意味がない。


「なら、これはどうだ?」

「っ、ヤバっ……!!」


 手を緩めないラッシュに、ルイシアは隙を付かれて、本格的にピンチに陥る。


『おーっと? 柊選手、先程までの余裕が嘘かのように、ラッシュ選手に追いつめられております!』


 クロードの声に、観客たちから歓声が上がる。

 観客たちには魔術師協会の魔術師が勝つなら当たり前、という思いや考えがあるため、協会の魔術師ではないラッシュに協会の魔術師であるルイシアが負けそうになっているのなら、彼女の逆転劇が見られるかもしれない。観客たちにとって、これ以上盛り上がる展開はないのだ。


「っつ……やってくれたわね」


 頭を手で支え、軽く左右に振る。


「こうでもしないと、俺が勝てないからな」


 姿は見えないが声は聞こえるという、奇妙な感覚を覚えながらも、ルイシアは小さく笑みを浮かべる。


「うん、ストップが入ったり、ルール違反にならなければ、失格にはならないからね」


 だからこそ、ルイシアはどうするべきかを“選択”する。


「……うん、そうしてみようか」


 そして一人、そう呟き頷く。


「ピンチとチャンスは表裏一体。次は私の番だよ」


 どこからか取り出したペンを、顔をと同じ高さまで上げて見せ、ルイシアはそう口にした。



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