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魔術師と配達人  作者: 夕闇 夜桜
第三章、魔術師バトル
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第三ー四話:団体戦予選・第三試合Ⅱ(本気になるということは)


『し、『森林フィールド』が燃えた!?』


 驚きの声を上げるクロードだが、そこはプロらしく、すぐに切り替えて実況を続行する。


『かなり広範囲の魔法みたいでしたが、柊ルイシア選手は無事なのでしょうか……?』

「大丈夫に決まってる」

「ああ」

「大丈夫だろうな」


 クロードの心配を余所に、即座に問題ないと告げるルイナたち。


「この程度、あの子なら余裕で防げる」


 ニヤリと笑みを浮かべるルイナ。

 ルイナと対等であり、彼女がメインで扱う火属性と水属性の対処法が最初(もと)から頭に入っている上に、扱えもする。

 そんなルイシアが火属性の広範囲系魔法でやられるとは思えないのだ。


「それに、魔術師協会の制服も甘く見ない方がいい」


 あちらこちらへ仕事で出歩く魔術師協会の魔術師は、レターズの配達人と同様に、その制服には対魔術対魔法の効果を持つ付与がされてある。これだけで相手から与えられた魔術魔法系のダメージを弱められるのだから、いくら服といえど嘗められるほど(やわ)な作りはしていない。

 もちろん、頼人も玖蘭も全部をひっくるめて、ルイシアが大丈夫であろうと思っているので、そうクロードほど心配はしていない(逆に心配のしなさ過ぎもどうかと思うが)。

 一方で、ルイシアが相手をしている彼のチームメイトは、というとーー


「あの子はバカですか」

「本当だよねー。仮にも相手は協会の魔導師なんだから、最初から大技ぶっ飛ばすなんてさー」


 片や貶し、片やけらけらと笑っていた。

 メンバーは、髪の長い青年に茶髪の少年、二人より体格が良い男に口元を布で覆った黒髪の少女。


「ですが、彼女のメンバーはそう心配してないみたいですね」

「自信、あるのかね」


 今まで黙っていた一人が口を挟む。

 少なくとも、協会の魔導師(ルイナたち)が心配しているような素振りは見せてない。それどころか、問題ないという雰囲気が伝わってくる。


「それでもさー、無傷は無理っしょ」


 あれだけの火力である。避けられはしても、無傷なんて誰が見ていたとしても不可能なはずだ。


「だが、相手が対炎対火の技を持っていれば、話は別だろ?」

「ハッ、たとえあったとしても、あれは防げねーよ」


 鼻で笑う少年に、青年は呟くように言う。


「……向こうは、どんな魔法か知っているみたいですがね」


   ☆★☆   


「全く、何のために『届かない』っていったのか、分からないじゃない」


 ルイシアは一人そう呟く。

 いくら火属性の魔法とはいえ、広範囲系の魔法だったので、制服の効果だけでは心許なく、対火対炎の中級と上級の火炎系防御魔法で防いだのだ。


 火属性の広範囲系魔法“紅蓮爆炎波(ぐれんばくえんは)”。

 術者を中心に、指定された範囲を全て焼き尽くす上級魔法。元々は中級魔法に位置づけされていたが、その力があまりにも強いことから、上級魔法へと変更された。


「それでも、今みたいに防げちゃうんだから、火属性最強とは言えないんだけどね」


 ルイシアが知る範囲で火属性最強の魔法と魔術が使えそうなのは、ルイナと銀ぐらいだろう。

 それでも収得方法が独特なので、二人が得られるかどうか聞かれたら微妙なところだが。


「でも、相手がうちのリーダーじゃなくて良かったわね」


 火属性の精霊がいるルイナならノーダメージで平気な顔をしていそうだ。


「なんでっ……」


 何故無事なのかを尋ねる相手に、ルイシアは答える。


「今のを防げた理由? 単にうちのリーダーが得手しているからね。その対策として防御方法を知ってたから、そのまま利用させてもらいました」

「そんな、理由、で……」


 有り得ない、と言いたくなるのも理解できる。ルイシアだって、そう思っているのだから。


「それに、魔術師協会の人間でもあるからね。それぐらい対応できないとね」


 全国各地を動き回る魔術師協会の魔術師とレターズの配達人が求められるのは、その場で起こった非常事態などに対する臨機応変さである。

 所属年数が長ければ長いほど、それは癖のように慣れていき、気にもならなくなる。


(それでも、個人の欠点が無くなるわけじゃない)


 ルイナとて欠点が無いように見えて、弱点もあるのだ。ルイシアや頼人、玖蘭も無いわけではないし、無敵や最強に見える魔術師協会の魔術師や魔導師にも当然の如く、欠点や弱点はある。


「なら、その対応を上回るまで」

「……うん?」


 やろうと思えば不可能ではないのだろうが、彼には出来るのだろうか? と思うルイシア。

 すでにこの場は『森林フィールド』ではなく、焼け野原と化しているが、戦えないことはない。


「とにもかくにも、予選はまだ始まったばかりだし、お手並み拝見と行こうか」


 そんなルイシアの言葉を聞き、ニヤリと笑みを浮かべる相手。


「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はラッシュ。ラッシュ・ジャッカルだ」

「私は柊ルイシア。先程紹介があった通り、魔術師協会の魔術師をしてる」


 名を名乗ってなかったことに気づいた相手ーーラッシュが名乗り、ルイシアも名乗る。


「それじゃ、行くぜ?」

「どうぞ」


 構えるラッシュにルイシアが先攻を譲れば、一瞬にして姿が消える。


(消えた……いや、違う)


 次の瞬間、後ろに現れたラッシュに目を見開く。


「いつの間にーー」


 いや、聞くまででもない。これは、魔法や魔術で来ると安易に判断した自分の責任である。

 彼に吹っ飛ばされながらも、ルイシアは地面にぶつかった反動を利用して体勢を立て直す。

 魔術師だから、魔導師だから、と必ずしも魔術や魔法を使ってくるわけがないのだ。


(それを、私は一番近くで理解していたはずなのにーー)


 本気を出すことが出来ないから、精霊魔法という方法に変えた幼馴染兼親友。

 お陰で彼女は、世界でも希少とされる精霊魔法の使い手になってしまったのだが、そんな彼女ですら使ってくることもある手だ。


(今は、先入観は捨てよう)


 どうやら自分の邪魔にしかならないと判断しつつ、ルイシアは思う。


(それにしても、体術か)


 受けていて分かるその術に検討を付け、すぐさま受け身を取り、対応の構えを取りながら、ラッシュの攻撃を次々と()なしていくルイシアだが、一瞬、ラッシュの姿がルイナと(かぶ)るものの、それも先入観だと思い、すぐさま排除する。


「チッ、これも駄目かよ」


 舌打ちして、そう言いながらも、一発目は当たったんだけどなぁ、と思うラッシュ。


「いや、駄目じゃないよ。最初の一発、かなり痛かった」

「の割には、その後のを簡単に捌いてくれたじゃねーか」


 ラッシュには、ルイシアが痛そうには見えないほど、余裕で動き回っていたように見えた。


「捌けたのは今までの経験から。君より速い人、何人も相手したし見てもきた」


 だから、素早さで勝てると思わないで。

 ルイシアはそう告げる。


 なお、ルイシアの言う『速い人』は、主に三人である。

 まずは言うまでもなくルイナ。彼女とは対等である以上、最大で出される素早さもほぼ同じ。

 その次は、ルイナの兄であるルカ。戦闘場面が少ないため分かりにくいが、それなりに実力もある。

 そして、三人目は協会での世話をしてくれた銀。彼の場合は『持ちかけバトル』時からも分かる通り、攻撃と素早さがやや高め。


 ルイナには追いつけるルイシアだが、ルイナとともにルカや銀に追いつきーー追い越し始めたのはいつからだったのか。

 そのため、二人はルカや銀には劣るものの、一般的には残像すら残さない、有り得ない速さを出す者を目視ーー誰が走っているのか理解できるようになってしまった(もちろん、本人たちは自身の目を疑ったが、別に困ることもないのでそのままである)。


「だからって、勝てないわけじゃないだろ」

「方法次第では、ね」


 ラッシュの言葉に、肯定するルイシア。

 素早さというのは、速すぎても駄目、遅すぎても駄目なのだ。


「ああ、そうだ。だからーー“アイス・エッジ”!」

「ーーッツ!?」


 無数の氷の刃がルイシアに向かって放たれる。


(火属性の広範囲系上級攻撃魔法に、体術。そして、今の氷属性の魔法……)


 ルイシアはラッシュの氷の刃を避けながら思案する。


(となると、他属性が使えるのも考慮すれば……)


 ラッシュに目を向け、ルイシアが横に一閃すれば、その手にあるのはーー


(手元に武器があった方がやりやすい)


 ーー彼女の相棒。


「どうした? 避けてばかりだと意味ないぞ?」

「……」


 ラッシュの言葉に、ルイシアは一言も発しない。

 ただ、その後も無言でラッシュの攻撃を避けたり、捌いたりするだけだった。


   ☆★☆   


「ルイシアのスイッチが切り替わったか」


 ふむ、と無言でラッシュの相手をするルイシアを見たルイナがそう告げる。

 彼女が戦闘中に黙り込む理由としては、『相手の能力を分析する』か『本気になった』かのどちらかだ。


(でも、大丈夫かな)


 魔術師バトルのルール上、死ぬことは無いだろうし、情報収集や分析が得意なルイシアである。

 これは予選だが、もしかしたら彼女が本気を出して、勝ちに行くかもしれない。


 ーーだからこそ、私もあの子が怖い。


 ルイシアや頼人はルイナが強い、怖いと言うが、ルイシアは人のことを言えない気がする、とルイナは思う。


 自身の本気も精霊魔法も効かない、神の加護しか受けていない彼女に対し、ほとんど手を抜いている状態の自分に何が言えようか。


(それでも、あの子は大切なーー)


 大切な幼馴染であり、大切な仲間であり、大切な親友だ。


   ☆★☆   


「……」

「何か、言ったらどうだ?」


 無言で攻撃を捌いていたためか、不審に思っていたらしいラッシュが攻撃の手を止め、そう告げる。


(……もう、いいか)


 まだ隠している可能性もあるが、大体は把握できた。


「そうだね。うん、そうしようか」

「は? 何一人で納得してやがる」

「いや、こちらの話だから気にしなくていいよ」


 あくまで関係ないというルイシアに、ラッシュはそうか、と返す。


「でも何か、話し方変わってないか?」

「そう?」


 ラッシュに指摘され、ルイシアは首を傾げる。

 ただ、変わった点といえば、口数が減ったというぐらいだろう。

 だが、今のルイシアにとってはどうでもいい。


「でも、そうね。勝つための、知りたいという気持ちからは、逃げられないから」


 ルイシアが相棒を横に振ると、無数の小さな光が彼女を中心に現れる。


「君が何してこようと、私は仲間のためにも、勝たせてもらう」


 だから、と続ける。


「君にばかり、攻撃はさせられない。次は私の番だ」


 ルイシアが縦に相棒を振れば、無数の小さな光はラッシュへと向かっていく。


「ーーッツ!!」


 何とか避けるラッシュだが、避けきれなかった光が、彼の腕を掠る。

 まるで切り傷のような傷を見て、目を見開くラッシュだが、すぐさま立て直すと、飛んできた光を次々と避けていく。


「まだまだ行くよ」


 次にラッシュへ向かってきたのは赤い小さな光。

 避けた後、地にぶつかった光を見てみればーー


「嘘だろ!?」


 冗談であってほしいと思ったラッシュだが、ルイシアは答えない。

 そして、次々とカラフルな光がラッシュに向かって放たれる。


(赤い光は当たれば、火傷を引き起こす)


 青い光は窒息状態、緑は眠り。紫は毒。


「そしてーー」


 黄色は、麻痺。


「くっ……!」

「うん、よく避けられたね」


 よくできました、と言いたげに、ルイシアは拍手する。


「……何のつもりだ。まさか、手加減のつもりか?」

「……だとしたら?」

「冗談じゃねぇ! 協会だか何だか知らねえが、俺はそういうことされるのが一番嫌いなんだよ!」


 ラッシュは気づかない。

 自分が言葉を口にしている間に、ルイシアの気が少しずつ変わっていることを。


「なら、君も本気できなよ。私を本気にさせたければ、ね」

「ーーっ、!」


 自分も本気出してないくせに、私にそれを要求するのか?


 ラッシュはそう言われているような気がした。


「まあ、たとえ君が本気を出して、私が捌いたとしても、君は勝てない」


 だが、ルイシアには本気を出すつもりがない。確かに本気を出せば勝てなくはないが、それでも、技の選択次第ではルール違反にもなる。

 それに、考えようによっては賭けにも等しい。


(時と場合によるけど、今回はその時じゃない)


 今回の場合、危ない橋を渡るのは、予選の最終戦と本選だけでいいと、ルイシアは考えていた。


(それにーー)


 ルイシアが思い浮かべるのは、ただ一人。


(ルイナの力は、切り札だから)


 様々な属性に対応できるルイナの精霊魔法。それでも、限界はある。


(だからこそ、私が頑張らないと)


 これ以上、彼女や仲間たちが傷つかなくてもいいようにーー



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



(能力面を)簡単に言うのなら、ルイナはチートでルイシアは努力家



それでは、また次回



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