第三ー三話:団体戦予選・第三試合Ⅰ(初陣)
開会式を終え、試合は開始した。
個人戦はブロックごとのトーナメント方式であり、各ブロックの通過者で決勝、優勝の座を賭けて争われる。
対する団体戦はブロックごとの総当たり方式であり、勝ち抜いて決勝がある本選に行けるのは、各ブロックにいる出場者チームの約半分。
現在の状況は、個人戦が先行して各ブロック三試合目まで終了し、団体戦に出場しているルイナたちのチームがあるブロックを含め、それぞれ一巡目の第一試合と第二試合が終了、今からルイナたちの初陣となる第三試合が始まろうとしていた。
「よし! それじゃ、行ってくる」
「うん、頑張って」
「初っ端から負けんじゃねーぞ?」
「後に俺たちもいるんだから、気楽に行け」
気合いを入れるのはルイナたちのトップバッター、柊ルイシアである。そんな彼女がフィールドに向かえば、三人はそれぞれ声援を送る。
「……」
応援席にいたルカは、フィールドに立ったルイシアを見ながら、数分前にあった連絡の内容を思い出していた。
『何もなければ良いんだがな』
協会の上層部は、面目や体裁のためにも、ルイナたちが負けることを許さないだろう。
(予選を突破したとしてもーー)
あの四人のためにも、もしかしたら、自分や銀たちはまた走り回らなくてはいけないのかもしれない。
そして、ついに第三試合が始まる。
☆★☆
チームの先陣を切ったルイシアにより、ルイナたちの『魔術師バトル・予選』は始まった。
『さて、ただいまより予選Cブロックの第三試合を開始したいと思います!』
ワァァァ!!!! と歓声が起こる。
ちなみに、予選Cブロックの司会者兼審判はラハールではなく、クロードという青年が務めている(ラハールは個人戦と団体戦・予選Aブロックの司会兼審判を務めている)。
歓声を聞く限りでは、彼も人気なのだろう。
『ここで注目するべきは今回の開催地となったこの地、魔術師協会本部より出場されている柊ルイナ選手率いる『魔術師協会チーム』でしょうか?』
チーム紹介アナウンスで協会本部の魔術師チームであることが告げられる。
なお、クロードが魔術師協会“本部”と告げた理由は、ツインとの関係性とかではなく、東西南北に位置する各支部の本拠地だからである。
『だがしかし、対する彼らも負けてはいない! 迎え撃つはこの三チーム!』
相手三チームについて紹介がされる。
見た目は研究者や探偵っぽい者たちが集まるどこか異彩なチーム。
冷静にルイナたちを見つめるチーム。
そして、ルイナがボールを拾って上げた少年のいるチーム。
「おいおい、俺たち纏めて紹介されたぞ」
「仕方ありません。彼女たちが注目を浴びるのは、開催地からの出場者なのですから」
各チームはそれぞれルイナたち魔術師協会チームに目を向けながら、そう話す。
一方でーー
「こりゃあ、集中砲火か?」
「開催地からの出場選手だからね。注目もされるでしょ」
観客の視線だけでなく、各チームからも向けられる視線にやや顔を引きつらせる男性陣に対し、ルイナは淡々と答える。
「というか、初戦から注目されるのもあれだな」
「そうなんだよねぇ」
あれだけ連絡掲示板に張り出しておいて、協会本部からの出場がまさか自分たちだけだとか、普通は思わない。
だから、視線が分散されることなく、ルイナたち『魔術師協会チーム』一点に向けられたのだ。
「ルイナ、お前大丈夫か?」
「ん?」
「精霊メインで注目されないか?」
「ああ……」
頼人の言葉でようやく理解する。
『持ちかけバトル』の時に対峙した銀の台詞からも分かる通り、ルイナのような精霊契約者は人数が人数なだけに、あまり見られることがない。
そのため、このような公の場で、精霊契約者として戦うのかを頼人は確認しておきたかった。注目されるのを覚悟して。
「大丈夫よ」
これまたあっさりとルイナは答えた。
「それに、本気の私よりも、精霊契約者という私の方が、まだ可愛い方だと思うけど?」
それについては二人とも否定できない。
精霊契約者としてのルイナの方が、まだ愛想もある。
「それに、協会の知名度上がるじゃない」
協会の知名度よりも、自分たちの知名度が上がるのではないのか、という疑問を二人は苦笑いで誤魔化した。
それでも、四人の目的は一つだ。
「予選突破して、目指せ優勝。それだけは変わらないわよ」
それに頷く男性陣に、聞こえていたのかフィールドにいたルイシアが同意したかのように小さく笑みを浮かべる。
「にしても、ルイシアじゃないから、どいつが前回までの優勝者か分からないな」
それにはルイナも同意だった。
いくら予選とはいえ、前情報として中には前回までの優勝者もいると聞いていたルイナたちだが、その大半は情報収集を得意とするルイシアか大会上層関係者ぐらいしか今のところ知らないのだろう。
しかも、前回の優勝者に至っては、本選以降から参加するというシード権での参加らしいが、それに関しても前情報としてルイシアが得ていたのと、そのような噂が出ていることも話が広がる原因となっていた。
「でも、これはチャンス。もし勝てばーー」
ツインの扱いが少しは変わるかもしれない。
ルイナとしては、美波との約束もあるが、やはり理不尽な理由で仲間が協会の協会に来るのは許せないのだ。
(それに、噂や情報が本当なら、本選からあいつも来るはずだ)
ルイナとしては、目的の人物に会いたいわけではないのだが、会えたらいいな程度だ。
だからこそ、予選は何としても突破する必要がある。ブロックごとの総当たり戦とはいえ、出来れば全勝してストレートで本選に進みたい。
ルイシアの前に立つ対戦相手に対し、目を向ける。
『さて、両者出揃いましたね? それでは気になるフィールドですが……』
クロードが高らかに告げると、各チームと観客たちがフィールドを決めるコンピューター画面へと目を向けると、フィールドの名前を記したコンピューターがランダムに次々とその名を変えていく。
(何としても予選を突破しないと……)
今の目標は、それだけだ。
☆★☆
鳥の囀りが聞こえる。
風が吹けば木々の葉が揺れ、まるで別世界のように思わせる。
ランダムに選ばれたフィールドは『森林フィールド』。
木々が覆い茂るこのフィールドの特徴は、先の見えないーー相手の姿も見えないこと。
どこにいるのか不明なのだが、こちらの現在地も不明である。
(普通に行けば、あまり動かない方が得策だけど……さて、これからどうするべきか)
対戦相手の居場所が分からなければ、向かいようも対策の仕様もない。
ルイシアとしてもこのままじっとしているわけにもいかないので、“索敵魔法”を発動しつつ歩き出す。こうすれば、不意打ちにもすぐに対処できる。
「見つからねぇ……」
が、歩き始めてどのぐらい経ったのだろうか。
ルイシアは思わずそう口にする。
会場のフィールドスペースより『森林フィールド』の森林スペースが広く感じるのは気のせいだろうか。
「……」
そこで一度、立ち止まる。
広げていた“索敵魔法”に反応があったのだ。
「見つけたぞ!」
「ーーっ、」
言うや否やすぐに攻撃を仕掛けてくる相手。
“索敵魔法”で来るのは分かっていたので、ルイシアは余裕を持って避ける。
「こんのっ……避けんじゃねぇ!」
「いや、避けないと危ないし、負けるじゃん」
そう言いながら次々と繰り出される相手の攻撃を避けたり、相殺しながらルイシアはそう返す。
だが、相手の言い分を聞いていれば、相手も相手で同様にこちらを捜していたのではないか、と判断できるが、それでも相手が、ルイナのような裏を読むタイプか桜のようなほぼ直情タイプなら、ルイシアにとってどんなに楽なことか、と思いつつ。
「っ、と」
背後にあった木の枝に飛び上がり、攻撃を避ける。
「降りてこいやぁぁぁああ!」
そう叫びながら、何故かイライラしているらしい相手を見下ろしつつ、
(予想していたとはいえ、何というか……)
小さく溜め息を吐く。
前回大会までの情報を元に相手の能力を知っていたルイシアだが、どうにも厄介そうな相手である。
(それでも、勝つだけだけど)
「このっ、無視かよ……!」
ルイシアの思案もつゆ知らず、相手は違うらしい。イライラしながらも、次に相手が行ったのはある攻撃の構え。
「あの構え……!」
フィールドの外で見ていたルイナが、思わず立ち上がる。
「ルイナ?」
「何かあるのか?」
頼人と玖蘭は分からなそうにしていたが、ルイナに答える暇がなかった。
(ルイシア……!)
ともに見たことのある構えである。ルイナとしては、ルイシアが気づいていることを願いたい。
「ふうん。その魔法、知ってる上に扱えるんだ」
もちろん、ルイナの思った通り、ルイシアは気づいていた。
それは、相手次第で一撃必殺にもなる魔法。本来中級レベルの魔法だったが、威力と周辺に及ぼす影響から、上級に引き上げられたほどである。
「でもーー」
「焼き尽くせーー」
ルイシアが言葉を発するのと同時に、相手は魔法を発動する。
「ーー私には届かない」
「ーー“紅蓮爆炎波”!!」
『森林フィールド』の辺り一面が炎に覆われた。