第三ー一話:『魔術師バトル』というもの
第三章、魔術師バトル
物語中最長の章、開始!
魔術師協会・協会祭。
魔術師協会が開催する祭でありーー言わば文化祭のようなものである。
さて、そんな魔術師協会が行う協会祭を、今年はとある大会と同時に行うことになった。
『魔術師バトル』。
魔術師協会の魔術師だけでなく、世界中の魔術師が大会に参加する。
では何故、協会祭と一緒にやるのか。
それは、試合会場として、魔術師協会が選ばれたためだ。
現在、魔術師協会本部では、その試合会場を建設中である。
☆★☆
「あの、銀先輩?」
「何だ」
ある紙を見ながら、ルイナは目の前にいる銀に尋ねる。
「何故、本部所属である貴方がたの名前が一つも入ってないんですか?」
反対に見知った字体で協会の協会の面々の名前がはっきりと出場申請書に書かれている。
そもそもルイナが見ていた紙は『魔術師バトル 出場申請書』というものであり、バトル参加者は名前を書き、上司に提出すれば、魔術師バトルに出場できる。
「しかも、勝手にメンバー決められてるし……」
確かに出場するとは言ったが、ルイナたちが出るとは一言も言ってない。
だが、出場申請書に自分たちの名前があるということは、すでに決定事項なのだろう。
そもそも、何故ルイナが銀といるのか。
簡単に説明すると、銀が『魔術師バトル 出場申請書』をツインに持って来ただけであり、ルイナに取りに来させたのは、銀自身が会いたかったというのもあるが、リーダー枠の部分に彼女の名前が入っていたからだ。
「とりあえず、渡したからな」
「はぁ……」
何とも微妙な返事をされ、ピクリと反応しつつも、銀は本部に戻るために歩き出すのだった。
「次会ったら、殴ろう」
一方、ルイナはルイナで、勝手に申請書を書いた人物に向けてなのか、何やら物騒なことを口にしていたのだが、それと同時に、嫌な予感が当たったか、と地味に落ち込むのだった。
☆★☆
ルイナによる『持ちかけバトル』が終了し、美波がツインから去って数日後。
ツインにある連絡掲示板の前には人集りが出来ていた。
もちろん、そこにはルイナたちもおり、目的も連絡掲示板の内容を見るためだ。
「日時、決まったんだね」
連絡掲示板を見てみれば、ルイシアがそう言う。
何の日時か。もちろん『魔術師バトル』の開催日時である。そして、『魔術師バトル』が行われるのが、協会祭の同日だということも、ルイナたちは知った。
「協会内、見て回れないじゃないですかーやだー」
ルイナの第一声がそれだった。
「それで、こっちは『魔術師バトル』の出場者申請方法と応募事項か」
申請方法と応募事項に目を向けていたルイシアの言葉に、ルイナは軽く肩を揺らし、顔を引きつらせる。
「って、あれ?」
念のために『魔術師バトル』の申請方法と応募事項を見たルイナは、ツインが表向きでは協会本部と一括りにされていることを知る。
「本部と一括りにされてる」
「世間体の問題じゃない?」
でも、何故ツインの連絡掲示板に、一括りとしていることを教えるために張り出されているのか気になったルイナは、ルイシアに尋ねる。
ルイナとしては、自分たちが出場することになっているため、それを知らせるための嫌みかと思っていたのだが、よく見てみると、本部からの出場者の人数不足が原因らしい。
銀はそのことについては何も言っていなかったが、出場者の人数不足は彼らが出ないことも原因なのではないのか。
確かに、『持ちかけバトル』の前に『魔術師バトル』に出るとは言ったがーー
(これは嫌味ですかねぇ? 銀先輩?)
顔を引きつらせつつ、ルイナはそう思いながら、銀の返答を待つ。
ツインの中でもあまり目立たない場所へ移動し、銀に確認の連絡を入れたのだが。
『上からの指示だ。ツイン側の『持ちかけバトル』で出て来てた四人を出場させろ、ってな。俺としてもギリギリまで粘って出場は避けてやりたかったんだが、上からの圧力がな』
(うわぁ……)
何というべきか、予想通りではあるのだが、頑張ってはくれたらしいが、いくら銀でも上からの圧力には逆らえなかったらしい。
というか、『出場申請書』に書かれていた名前から薄々感じていたが、その顔ぶれは『持ちかけバトル』が原因だった。
『別に、お前の誤魔化しが原因じゃないからな? バレていたら、上もあんなことは言わないだろ』
ルイナが黙ったために、『持ちかけバトル』の時のことを気にしていると思った銀がそう言う。
頼人の時の誤魔化しを、銀はやっぱり気づいていたらしい。それでも、まだ上が気づいてなかったのはありがたい。
「まあ、そうなんですが」
『あと、その様子だと、まだ話してないだろ』
「うっ……」
思わず目を逸らすルイナに、銀がジト目を向ける。
『魔術師バトル』の出場なんて、『持ちかけバトル』でも拒否反応を示していた玖蘭は拒否しそうな話である。ルイシアは話せば理解してくれそうだが、頼人は罪悪感で拒否してきそうだ。
「と、とりあえず、話は伝えておきます」
『あまり期待せずに待っといてやる』
通信が切れると、ややぐったりとしつつ、ルイナは教室へと戻るために歩き出すのだった。
☆★☆
「ねぇ、頼人」
自身のメンタルのためにも、ショックやダメージが少なさそうな頼人から当たってみよう、という理由から頼人の前に立つルイナ。
「ちょっと、いいかな?」
「ああ……」
微妙に様子のおかしいルイナに内心で首を傾げつつもついて行けば、『魔術師バトル』について記されたの掲示板の前でルイナが立ち止まるので、頼人も立ち止まる。
ルイナの様子を少し見ていればーー
「頼人、『持ちかけバトル』のリベンジをしよう。というか、したいよね? というわけでしようか」
「ちょ、ちょっと待て」
様子がおかしいルイナに、頼人は戸惑いながらも、ストップを掛ける。
「いきなりどうした。また何かあったのか?」
「な、何を言ってるのかな? べ、別に何も無いよ?」
(何かあったんだな)
ルイナの見事なる動揺っぷりに、そう判断する頼人。
「ルイシアたちにも言う必要があるんじゃないのか?」
「え? な、何でルイシアたちが出て来るのかなぁ?」
ちらちらと頼人を見たり、逸らしたり、と目線が定まらないルイナに、頼人は溜め息を吐く。
「お前、嘘吐くの上手いときと下手なときの差が激しいんだよ」
自分に関する嘘なら上手いが、仲間が関わると途端にその吐き方も下手になる。
このままでは埒が明かないので、頼人はルイシアたちを呼ぶことにした。
「頼人のことだから、呼ぶと思った」
頼人といる時以上に動揺っぷりが丸分かりなルイナに、呆れたような目を向けるルイシアと玖蘭。
「頼人、何だこれは」
「知るか。俺も聞きたい」
「場所と状況から判断するに、『魔術師バトル』関連じゃない?」
上から玖蘭、頼人、ルイシアである。
三人の視線を受け、ルイナはそっと一枚の紙を取り出す。
「何だこれ?」
「えっと、『魔術師バトル 出場申請書』? って、出場申請書!?」
頼人が声を上げる。
「いつの間にか、私たちの名前もあるんだけど?」
「上の指示らしいよ。銀先輩が出場しなくていいように粘ってくれたらしいけど、上からの圧力だって」
「マジか」
ルイナの言葉に、信じられなさそうな反応をする三人。
「字からして、名前を書いたのは、うちの兄さんだと思う」
「結局、先輩たちも上からの命には逆らえない、ってことね」
ルイシアがどこか感心したように言う。
「でもまあ、良いんじゃない?」
「は?」
「『持ちかけバトル』は本部とツインの問題だったけど、『魔術師バトル』は自分の実力を知ることも出来るし、良い機会じゃない」
ルイシアはそう言う。
「つまり、実力が分かるならラッキー、だと」
頼人が呆れたように言う。
「まあ、それもあるけど……参加人数は四人までだし、書いてあるし」
指を四本立て、申し訳無さそうにルイナは言う。
(物凄く、嫌な予感しかしねぇ)
頼人と玖蘭はそう思った。
「それで、出るの? 出ないの?」
二人に尋ねるルイシアに、玖蘭が呆れたように言う。
「お前……出るような口振りだな」
「ルイナが出るなら、私が出ないわけにもいかないでしょ」
当然、と言いたげにルイシアは言う。
頼人と玖蘭は互いにどうするんだよ、と視線を向ける。
そして、溜め息を一つ吐き、
「分かった。加わってやるよ」
こうして、参加人数は四人でいいということもあり、ルイナとルイシア、頼人と玖蘭の四人で出場することになった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
今話から第三章です
今回の相手は世界中から集まった魔術師と魔導師たち
次回、魔術師バトルの会場へ向かいます
それでは、また次回