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魔術師と配達人  作者: 夕闇 夜桜
第二章、持ちかけバトル
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第二ー十五話:試合の結末と美波との別れ


(ぎん)!」

「先輩!」


 リヴァリーと(さくら)が立ち上がり、叫ぶ。アルカリートは厳しそうな表情でフィールドに目を向けていた。

 一方で、放った張本人であるルイナは、通常形態に戻した愛機を支えにしながら、膝を着いて、息を整えていた。


『ルイナさん、大丈夫ですか?』

『顔色がよくありません』


 覗き込むファイアとウォーティに、ルイナは本気で辛そうな顔をする。


「……とっも、じか、ん、は?」

『きっちり、二分です』

「そっか」


 ウォーティの言葉に、再び顔を伏せる。


「馬鹿か、魔力の使いすぎだ」


 近づいてそう言ってきたルカに、ルイナは小さく笑みを浮かべる。


「ん、少し反省してる」


 それを聞き、ルカは溜め息を吐くと、次に銀に向かって歩き出す。


「生きてる、よな……?」

「勝手に殺すな」


 そっと覗き込むルカに、何も感じないことに不思議に思いながらも目を少しずつ開き、銀は体を起こしながらそう返す。

 そして、やはり目の前に何もないことを確認しながら、ルカに尋ねる。


「何なんだ、あれは」

「俺に聞かれてもなぁ。ただ、魔力は大量に必要なものだというのと、あのルイナでも扱うのが大変だというのは理解した」


 ルカの返答に、銀はルイナに目を向ける。


「……そこに俺が生きてる、ってのも加えとけ」

「ふざけんな。お前が死んでたら、ツインの評価は今以上に下がるし、ルイナだって悲しむ。俺としてはそれは望まん」


 銀の言葉を却下すれば、くっくっと小さく笑う銀。


「評価はともかく、お前の妹はすぐに復活しそうだが?」

「お前、仮にもあいつと長いこといたくせに、もう忘れたのか?」


 『柊ルイナ』という少女は一言で説明することが出来ない。本人も言っていたが、彼女は根に持つタイプである。知り合いが亡くなったとしても、彼女は自分と近ければ近いほど忘れない。線引きは分からないが、銀が亡くなればルイナは涙を流すのではないか、とルカは思う。


「そう、だな」


 銀は小さくそう返す。

 ルイナとルカは、過去の出来事のせいであまり本音を言わない。

 もちろん、精霊たちも理解しているし、一緒に生活してきているため、何があったのかというのを話さずに済むというのはありがたいのだが。


 精霊たちはルイナとともにいる。


 ルカが契約できないわけではないのだが、ルカとしては自分より不安定なルイナのストッパーとして、ファイアたちを側にいさせることを選んだ。当初は(どちらかがルカに付くと)反論した二人だが、ルカが折れないため、二人は諦めてルイナに付いたのだ。


(まあ、最近は不安定ではないみたいだが……その二人がルイナに甘くないはずがない)


 それでも、不安なことはあるが、ルイナの隣にはルイシアや頼人たちがいるから大丈夫だろう。


   ☆★☆   


「なるほどね」

「どういうことだ?」


 見ていたルイシアが一人納得したかのように呟けば、玖蘭(くらん)が首を傾げて尋ねる。


「うん? 簡単に説明するならルイナが本気を出した、って言えばいいのかしら?」


 ルイシアはそう説明するが、三人は分からないのか、顔を顰める。

 それに苦笑しながらも、ルイシア自身もどう説明するべきか、と思案する。

 いくら内輪揉めとはいえ、普通にあの光の粒子を放っていた剣について、説明することはできない上、ルイナが手にした経緯も説明することを考えれば、ある程度の時間は確保する必要もある。


(まあ、この三人に話したとしても、大丈夫でしょうが)


 だが、たとえこの三人に話したとしても、多分おそらくという仮定ではあるが、大丈夫であろう。


「でも、これで私たちの勝ちよね?」


 美波(みなみ)が確認するかのように尋ねる。


「さあ、それはどうなのかな?」


 今のを見て、分からないはずがないだろうが、二人ともフィールドには立っている(片や地に膝を着いているわけだが)。


「え、でも……」

「確かに高威力の技を放ったのはルイナだけど、先輩が立っている上に、負けを認めてもらえない限り、私たちの勝ちとは言えないかもね」


 いくら銀が最後の一発で勝負とは言ったとはいえ、これ以上の攻撃は体力的にも魔力的にも不可能だが、両者が立っている以上、勝敗を付けるか引き分けにするしかない。


「ルイナたちが引き分けだと、俺たちの試合も二対二で引き分けになるんだよな」

「そうね」


 頼人(よりと)の言葉に、ルイシアは頷く。

 あと忘れているのかいないのかは分からないが、このバトルの最初に、ルイナと銀が互い(本部とツイン)に対する条件を口にしていたが、条件の発動は片方の勝利により可能となる。引き分けだと条件の発動はどうなるのかは不明だが、おそらくは無効になるだろう。


(出来れば、そのほうが良いんだけど……)


 引き分けによる条件の相殺。


 自分たちツインはともかく、銀やルカ、茶髪の男を除く本部側の面々が望むとは思えない。


「……全ては、」


 その呟きに、頼人たちがルイシアに目を向ける。


「全ては、あの二人に掛かってる」


 引き分けとするのか、勝敗を決めるのか。

 全ての判断は、ルイナと銀に委ねられた。


   ☆★☆   


「……はぁ」


 ルイナは整えるように、息を吐く。ようやく調子が良くなってきた。

 相も変わらず心配そうな目を向けるファイアたちに、今度こそ大丈夫、と言って、ルイナは立ち上がる。


(次は本気(マジ)で気を付けないと。この程度でバテるとか、次使ったら確実に倒れる)


 確率は低くない。

 リミッターを解除して魔力解放という手を使っても良かったのだが、はっきり言うなら、顕現はしなくて正解だったのだろう。


(協会が黙ってないだろうしなぁ)


 そもそも、ルイナが手にし、所有しているということ自体が、顕現するしない以前の問題であるのだが、光の粒子を放っていたあの剣が何なのかは、ルイナとルイシア以外は知らないため、二人が口外しない限りは問題ないだろう。


(あー、それに一回話した方がいいよなぁ)


 脳裏に浮かぶのは自身に剣を与えた主。

 言いたいことはいろいろとあるが、それでも相手はふふ、と微笑みながら、『本気で無理だと感じたのなら、使うのをやめるか、魔力解放すれば良いんじゃないのですか? 私は貴女だから大丈夫だと思い、与えたのですから』と返されるのではないのか。

 以前も似たようなことがあり、そう言われたのだ。

 ルイナが光の粒子を放っていた剣を得たのは、本当に偶然だった。


『契約者って、そんなにいませんから、剣だけではなく、他にも使用許可を出しておきますね?』


 いや、そういう問題じゃねーよ、と当時のルイナは物凄く突っ込みたかったが、相手が相手だけに突っ込むのだけは止めておいた(それでも相手には微笑まれていたので、見透かされていたのかは不明である)。

 何気なくルイナが銀たちの方へ目を向ければ、すでに二人ともルイナを見ていた。


「……何ですか」

「顔色が悪いのは一緒だが、相変わらず回復だけは早いな」


 ルイナの言葉に、ルカがそう返す。


「……兄さん、後で少しばかり顔を貸してください」

「拒否する」

「今のに拒否権はありません」


 話がある、と告げたのに拒否され、ルイナは拒否できるような話じゃないから、と視線にも込めれば、ルカは分かった、と溜め息を吐く。


「ルイシアも、ね」

「?」


 ルイナに振り向かれ、言われたルイシアは首を傾げる。

 とはいえさっきの今で十中八九、光の粒子を放っていた剣に関することなのだろうが。

 小さく息を吐き、ルイナは銀に目を向ける。


「私は先輩を恨むつもりはありません。先輩がツインに送ってくれなければ、ツインにいるみんなと友人にはなれませんでしたから」

「何だいきなり……たとえそんな事言っても、勝負に負けたとは言うつもりはないぞ?」


 ルイナの言葉に、銀はそう返す。

 負けず嫌いな所は何年経っても変わらないらしい。

 そのことに安心しながらも、ルイナは続ける。


「分かってます。でも、先輩。これは、あくまでも『持ちかけバトル』なんですよ」


 これは『魔術師バトル』ではないのだが、気づけば二人してムキになり、戦っていた。


「ただ私は、協会の協会(ツイン)にいる人たちのーーいえ、自分の実力を知ってもらいたかっただけなのかもしれません」

「……」


 売り言葉に買い言葉。

 先程銀が負けず嫌いとは言ったが、自分も相当な負けず嫌いではないのかと思いつつ、苦笑いしながらそう言うルイナを見た銀は溜め息を吐く。


「……俺の負けでいい」

「はい?」


 呟くように告げた銀に、思わず幻聴? とルイナは首を傾げる。


「言っておくが、幻聴じゃないからな?」

「え、あの、それはもちろん、ちゃんと聞こえましたけど……」


 驚きながらも動揺していたルイナに、ルカは肩を竦める。


(こいつ)が負けを認めることなんて滅多に無いんだから、勝利を貰えるなら貰っとけ」


 そう言うルカに、審判がそんなこと言っても良いの? と思うルイナ。思わずファイアたちやルイシアたちに確認すれば、困ったような笑みを返される。


(私にどうしろと!?)


 確かに敗北よりは勝利の方が嬉しいが、銀から勝利を譲られると、どうにも裏がありそうな気がして、不安になる。

 それを感じ取ったのか否か、銀はルイナを不機嫌そうに睨みつける。


「……では、ありがたく受け取らせていただきます」


 結局、銀の方を向いたルイナが折れ、条件は守ってもらう、と付け加えて銀に言えば、分かってると返され、そのままフィールドから降りていった。


「何だろう、凄く嫌な予感がする」


 ただ、そんなルイナの呟きは銀へは届かなかった。


   ☆★☆   


 ルイナの一言から始まった『持ちかけバトル』も終わり、ツイン側の条件として、美波が本部に戻ることになった。


「ありがとうね」

「それはこっちの台詞。最初は貴女を利用して無理強いしたみたいになったけど、古月さんが協力してくれたおかげで結果としては良い結果になったからね」


 美波から礼を言われ、ルイナはそう返す。

 自覚あったんだ、と言いたそうな面々から向けられた視線に、ルイナは無視して、ニコニコと微笑む。


「あと、伝言についてだけど、伝えられることは伝えるつもり」


 約束とはいえ、相手が相手だから、今すぐにとは行かないだろうけど、と付け加えて美波はルイナたちとそう約束する。


「ん、伝えてくれるなら、何日何ヶ月何年経ってもかまわないから」


 何年はさすがに、と苦笑いする美波に、ルイナはふふっ、と笑みを浮かべる。


「全く、少ししか話したことないのに、貴女たちと離れるのが寂しいと感じるなんて予想してなかったわよ」

「嬉しいこと言ってくれるわね。私もよ」


 ところで、と美波は尋ねる。


「柊さんたちは、ツインにまだ居るのよね?」

「うん、そうだけど……?」


 ルイナは首を傾げる。

 というか、ツインの内情からいくと、当分の間は戻れないだろうし、戻るつもりもない。


「私が貴女たちに言うのも変だけどーー理不尽な理由で飛ばされてきた人たちをお願いね?」


 美波の言葉に、ルイナは目を見開く。

 そのまま固まるルイナを余所に、元気で、という言葉で美波を見送るルイシアたちに気づいたルイナもツインを出て行く美波の背に向けて手を振る。


(理不尽な理由で飛ばされてきた人たちを、か)


 ギィィ、という音を立てながら、ツインと本部の間の扉がバタンと閉まる。

 それを確認すると、ルイナは息を吐く。


「それじゃあ、部屋に戻りますか」


 そう言うと、うんやああ、という同意の声を聞きながら、一行は戻るのだった。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



本日は『魔術師と配達人』を投稿してから、ちょうど一年経ちました



今回で第二章は終わりです


次回から第三章に入ります



それでは、また次回



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