ゆら、ゆら
電灯の紐が、揺れている。
風もないのにゆらゆら、ゆらゆらと。
自分が動いた時にぶつかったのだろう、と最初は気にも止めずに放置していた。
だが、本を読んでいる時、食事をしている時、パソコンをいじっている時ーーーつまり、うつむき加減に何かをしている時、目の端を何かがすうっとよぎって顔をあげると、視線の先で電灯の紐が揺れているのだ。
じっと見ているとそのうち止まるので、気にしないようにしていた。
そんなことが続いたある日。
部屋に遊びにきた恋人とワインを楽しんでいる時、テーブルに何かの影が落ちた。
え?と顔をあげると、目に入ったのは電灯の紐をつまむ抜けるように白い華奢な手。
手首から先の、細い細い指をした、女性の、手!
あまりのことに息を呑み、目を逸らすこともできずにいると、その手は紐を軽く持ち上げるそぶりをし…一瞬離したかと思うと突然紐をぐっとにぎり、思い切り下に引っ張った。
明かりが消えるのとほぼ同時に、ガシャン!と大きな音をさせ、何かーー恐らく電灯だーーが、テーブルの上に落ちた。
暗闇に、恋人の悲鳴が響き渡った。
超ショートホラーストーリー9本目です。
諸事情により、8本目からものすごく時間が空いてしまいましたが、そろそろ再開できそうです。
感想などいただけると、とても嬉しいです。