第三章一幕「獣」
問題のクライマックスが近づいてきました。
三章の二幕が二つあるってなに!?
四国のちょうど中央、北と東から広がる谷間の終着点に一軒家を一から作った。馬と牛がケン地区が得意だと言うから任せてみたら、落ちていたごみも同じ道具からこれだけの物をよくぞ作った!と褒めてみたいほどのこぎれいな三階建ての家が仕上がった。場所からするとすべての国の境界線を踏んでいるので…どこ所属なんだろうか。
これからは各地で起こる戦闘に介入していくため、行動範囲は広がる一方だ、その対策として機動力を手に入れる。そのだめに私たち六人プラス居候一人は東の国に戻って、比較的広く残っている森の中に来ていた。
けれど大変なのはここから。
「ね?妖獣ってどうやって獲るの?」
「え、アズサ知ってるから来たんじゃないの?」
「うんん。フォリア知ってるかな?って思ってた。」
「私知らないわよ~…」
女性陣はまともな会話に見えて実はまともなんかじゃなく、男性陣はもっと酷かった。
「あ、猫じゃらしみっけ!」
「お~い、なートーマ、ガキん頃草相撲ってしなかった?」
「あ、したしたー」
「オレ、チャンピオンだぜ!」
「む、負けないぞ!」
「こい小童!」
「平和だな。」
「そうだね、兄ぃ。」
子供のように遊ぶ青年に日向ぼっこをしてまどろむ半獣。
このだれきったやり取りに喝を入れたのは残った一人だけだった。
「いい加減になさいませ!あなた方はまず普段の態度から改めるべきです。」
そう言うと、エンクはまず男性陣の前へ。
一人ひとりをじっくり上は頭から下はつま先まで見ると、どこから取り出したのか突っ込みアイテム・ハリセンを手に注意個所をビシッと、バシッと叩いて行く。
「最後にその思考回路!あなたは一体何年生きているんですか?そろそろ子供を卒業して大人になりなさい!」
一人につき四つから六つの注意事項があった男性陣。
それに比べ、私とフォリアの女性陣はと言うと…。
「何かお困りのことはございませんか?」
「え、…え~と…」
「突然言われても…。」
ハリセンがまたいつの間にやらティーセットに変わり、膝の上にハンカチを置いて即席テーブルを作ると、またしてもどこから取り出しののかわからないクッキーやらが配られた。
横から見ていた男性陣は当然怒るが、エンクの流し眼気味の一睨みですごすごと退散して行った。情けない。
「あ、どんなことでもいいんですか?」
「はい、それから私に丁寧な言葉を使おうとなさらずともよろしいんですよ?」
トーマに聞いたんだけど、私の問いに答えた彼女の顔は、それはもう美しく輝いていたそうです。
「妖獣って、どうやって捕まえるの?」
「それなら簡単ですわ。私にお任せになってください。」
胸に拳を当てて軽く請け負ったエンクだが、私は正直心配だった。彼女は美しく聡明だが、なにより細いのだ。私たちと旅するまでほとんど食事を摂っていなかったそうだ。あんな細く、女の私でも力いっぱい握ったら折れてしまいそうなあの腕で、一体どうするつもりなのだろうか。
「明日になったら庭へ出てみてください。」
気になって仕方がないのだが、明日のことと同時にこうも言われていた。
「どうか、今夜は決して外へ出ないでください。もしも出ていたら…」
言葉の続きが気になるが、濁したということはつまりそう言うことなのだろう。
日本には古くから恩返しストーリーが浸透しているので、ある意味馴染み深いものだ。
「絶対に見ないでください。」と言われて気になってしまって、きっと今私たちのために頑張ってくれているだろうエンクに申し訳がない。ここは是隊に見に行かない!
心に決めて横になると、案外疲れていたのかすぐに睡魔がやってきた。
翌朝目が覚めると、庭に何か赤いものがいるのが見えた。
クリスマスプレゼントに心躍らせる子供のように弾みながら二階にある自室から下へ。
庭に下りて来たのは私が最初だったようで柔らかい砂に足跡はひとつもない。
カラフルな色の正体たちは、鎖に繋がれて不機嫌そうにぐるぐる同じところを回っていた。
「うわ、これって妖獣?」
「はい、そうでございます。アズサ様。」
突然かかった声に驚いて振り向くとそこにはエンク。赤みが勝った黒髪が朝日に当たって輝いている。
にこにこと微笑みが文字通り輝く。
「アズサ様、あちらの紅い虎が、あなたの妖獣です。」
エンクの指差した方向を見ると、そこには美しい紅の虎。地球では珍しい色の動物に興味がわく。
撫でてみようと近づくと、エンクに腕を抱えられて止められた。
「あれは妖獣の中でも気性が荒く、とても危険なものですので、十分にお気を付けください。」と言って手を放した。え、エンクって本当は私のこと嫌いだった?殺気名指しでこの紅いの指名されたんだけど…。
「ど、どーも。」
「ぐるるるる…」
「え、返してくれてる?ソレ返事?」
唸っているだけの虎に、返事を期待するとは、私も疲れているのだろうか。
「ガフッ…」
「……。」
「……。」
応えてくれるかも?と楽しい妄想に夢中な私。今度は見つめ合ってみた。
「……。」
「……プイッ」
勝った。
ただの虎を相手に何をしているんだと思うが、それでも止められない。この子可愛すぎる。可愛さにはまって遊び続けた私は、疲れて出会ったばかりのこの子を枕にフォリアに起こされるまで熟睡してしまうのだった。
そしてこれが、それから永久の時を一緒に駆けることとなる相棒・リーと私の出会いだった。
深夜テンション、まだまだ続くぜ★
……そして明日つらくなるんだぜ…