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第三章二幕「敵」

内容確認のために、ちょっとばかし読んでみました。

…まったく記憶にございません。

クタンとかヒオウギとかなに?


 暗い闇が広がる。

 奥には茶色の石が祀られた祭壇。

 そこに、男はいた。

 神石が祀られている祭壇の五段ある階段の三段目に腰をおろし、愛しい者を見るときと同じ色を宿して親戚を見る。ここにはいない彼女を重ね合わせる。

「もうすぐ、もうすぐ迎えに行きますからね…愛しい愛しいヒオウギ。」

 彼の補足痩せた背中から黒い禍々しいものが煙のように立ち上り、そして洞窟の低い天井に当たり、見えなくなった。

「ああ、ヒオウギ、…ヒオウギはどこへ行ったんだい?」

「ああ、愛しのヒオウギ。帰っておいで、君の帰る場所はここだよ。」

「ああ、ヒオウギ。私のヒオウギ。」

 すでに彼には自分を認識する力さえも残ってはいなかった。

 彼女を求めて夢見るばかりに、彼女を求める強い心をその夢に喰われてしまったのだ。

 可哀想な、クタン。

 壁に背中を預けて寄りかかり、腕を組み傍観の体勢を崩さない青年がいた。「クタン様!」と彼にすがりつく浅黒い肌を持つダークエルフの中にあって、とても目立つ彼らとは逆の肌の色をしていた。白いダークエルフなどは存在するはずもない。

 彼はハイエルフだった。

 裏切り者。

 そう罵られるのも慣れたものだ。今となってはもっともリラックスできる音楽かもしれない。考えて、違うな、と思いなおす。これよりももっと優しくて、もっと少ない音を彼は知ってしまった。

「リーリエ…」

 自分にしか聞こえない音量で呟いた。

 この手で刺した、家族。

 彼女が最も信頼し、愛していた存在。

 羨ましかった。

 ゲームだか何だか知らないが、それで共に過ごしたからと無条件で愛されるリーリエが。

 妬ましかった。

 何もできないくせに、いつも彼女のそばにいられる特権を持っていること。

 不思議だった。

 あれほどリーリエのことが憎かったのに、それでも彼女とリーリエがふたりでいるところを見ると、とても心が安らいだ。

 自分はどうしたかったのだろう。何を望んでいたのだろう。

 最初は興味本位だった。

 医者の親子に助けてもらったことは事実だし、ダリアさんは怖い。アイリスは友達だ。

 深くあの家族にかかわる内に、僕には情が生まれてしまった。

 アイリスと遊んでいるのはとても楽しかった。

ダリアさんのもとで働くのは多くの発見と驚きと、そして恐怖との戦いでした。ダリアさんのおかげで、僕は受け身だけなら一人前です。

 それもなんだか切ない感覚が僕を襲う。目を細めて、暗いここでは見られなかった明るい、炎や太陽のように周りの人を照らしてくれる彼女たちを想った。

 ボクの周りには太陽のように分け隔てなく接してくれる人たちがあんなにもたくさんいた。

 ここが、ボクの家だと思っていた。育ててもらって、生かしてくれた。

 それに報いるのがボクの人生だと思っていたし、拾われた子供にはその道しか残されていないのだと理解していたはずだった。なのに今、それが怖くて仕方がない。

 彼女たちのもとへ帰りたい。

 “家”に。

 家族の待っているウチに帰りたい。

 心の底から願い、そして決めた。

すべての過去を捨てて、ここを出よう。そして、家族の待っている家に帰ろう!

胸に希望が蘇えった時、脳裏にイメージが浮かぶ。

絶望を知ったあの日、リーリエを刺して彼女から逃げた日。

あの日よりひと月前から見続けて、見させられ続けた映像。

彼女の半身を、自分が刺し殺すイメージ。

そうだ、これがある限り、ボクはあのあたたかい家へは帰れない。帰ってはいけない存在となってしまったんだ。そして、その道を選びとったのはボク自身。誰を責められるはずがない。

帰りたいと願うのに、それがどれだけ大切で、得難い者か気付くのが遅すぎたばかりに帰れなくなった。愚かなボク。

ごめんね、リーリエ。

 涙が一筋、暗い闇の中で弾けた。


 *


星空を見上げながら、アズサは考えていた。

 バルコニーの手すりに背中から体を預け、空を見る。時々重力に従って頭から下に落ちそうになるが、その旅に運よく誰かが通りかかって助かっていた。先ほど明日の決戦に向けてアヤメたち城壁の者たちが到着したが、ちょうどこの下に来たところ私が落ちてリーダーに抱えられたのだ。お姫様だっこで。

 久しぶりにアヤメと会ったのだから、もっと話していたかったけれど、なぜかアヤメに避けられた。

 いつもなら飛びついてくるのに、目があっただけでさっさと踵を返しただけで行ってしまった。

 もしかして、リーリエが亡くなり、モンブランが裏切ったことを知ったのだろうか。アヤメはモンブランとともに城壁まで旅をしていた。その時に、何かあったのではないか。

だから、モンブランがあちらに戻ってしまった原因である私を避けているのでは?

「うわっと!」

「梓!」

 考え事をしている内にまた落ちそうになってしまった。

 今回は刀馬に助けられた。

「ありがと、トーマ。」

「おう!ゆあーうふぇるかむ!」

「あはは!すっごい日本語英語!」

 私の笑い声が夜空に響き、それが逆に家を包み込む静寂を際立たせた。寂しさが、笑い声をたてさせた。静かな空気が怖くて、私は笑った。そうすることで、身を守るのだと信じていたのだ。

体を前のめりに曲げて笑う私を、刀馬は優しい眼差しで見つめているなんて気がつかなかった。。熱のこもった瞳に、私は気付けない。

 目じりに溜まっていた涙を拭って、私は静かな幼馴染を見た。そこでようやく彼のまなざしを知る。

「…やだ、なにマジな目してるの?らしくないよ。」

「…なあ、梓。俺らしいってなにかな?」

「…え?」

「俺らしいって、何?どんなのが俺だと思うの?」

 問いかけられた言葉に、私は咄嗟に応えられなかった。言葉が何も出ない。

そんなこと言われても、いつもの明るくて馬鹿騒ぎしている刀馬とは違う様子だったから、不思議に思って「いつもと違うね」と声をかけただけだ。他に意味なんてなかった。

そう伝えると、刀馬はそっか、と言っていつものようにニカッと笑った。

「明日だな、いよいよ。」

「怖い?」

 大規模な戦闘は初めてだと言う刀馬に、先輩風を吹かせてみる。思えば、私はゲームの【ワンダーランド】でも、幼馴染のなかでもっともやりこんでいるのだ。

 もっとリラックスさせてあげよう。

 親切心でそう思い、ふざけた笑みで刀馬を見た。瞬間だった、見なければよかった、とそう思った。

刀馬はとても真剣な表情で、でもいつ泣きだしてもおかしくはないほど目に涙をためて、歯を食いしばって流れないように耐えているようだった。真剣に涙をこらえている様は、悪いが笑いそうになる。けれど同時に、抱きしめて「泣いてもいいんだよ」と言ってあげたくもなる。

これが世に言う母性本能だろうか?

「俺、今まで小さな戦闘はして来たよ。地球でも俺結構いろんなやつに因縁付けられて絡まれたり、リンチっぽい奴とかもされかけたことあるし。だけど、ここってゲームとか、不良の喧嘩レベルじゃないんだよな、現実に天使とか悪魔が剣持って攻撃してくるんだ、両方とも俺たち殺す気でさ。んで怪我したら痛いし、死ぬほどの怪我負ったらほんとに死んじゃったらいなくなっちゃうんだよな。」

 ついに涙から綺麗な雫がとめどなく流れ落ちて来て、そしてあっという間に雫は滝になった。

 刀馬の見せてくれた滝がとても綺麗だったから、私は思わずもっと見ていたいはずなのに刀馬の頭を引き寄せて、胸に当てた。滝の涙で胸元が濡れる。服が涙を吸い込んでぺたりと張り付く感覚が気持ち悪かった。

「ねえ、刀馬。ゲームにはパートナーって私たちプレイヤーの絶対的存在がいたよね。でも、ここではいない。」

「…ああ、俺にもお前が作ってくれたよな。『デザインするのが好きだから~』とか言って。でもごめんな、あの時俺大会近くてお前が行方不明になってから一年くらい経った頃から通い出したんだよ。それからははまったよ。毎日竜宮城ってお前の通ってたゲーセンに行ってさ。最初はお前を探す手掛かりでもないかって行ったのに、いつの間にかお前よりもゲームに夢中だった。

 正直で嘘が嫌いな刀馬。

 正直でいたいと思うけど、気が付けば嘘を重ねている私。

「それって、秘密を暴露?」

「そー、本人に向かって暴露したんだぜ、とっときだろ。」

刀馬はきっと、明日が不安なんだ。

安心させれば、多分この壁乗り越えられる。

「んじゃ、私もとっておきの秘密を言いますよ。」

「マジ?」

「うん。そりゃあもう!」

 興味津々といった表情の刀馬が顔を寄せてくる。

 これで少しはいつもの刀馬に戻るだろうか。

「あのね、」

思わせぶりに刀馬の顔に唇を寄せる。

「お、オウ!」なんて動揺している刀馬が可愛かった。

「実は、私、…刀馬が初恋。」

「え…!」

 その後の刀馬の動揺っプリは面白かった。

 数秒間固まったかと思うと、動き出してバルコニーを走り回り、ついには星空に向かって「やったぁぁぁ!」と叫ぶ始末。

 その奇行に首をかしげていると、私の前で叫んでいた刀馬は突然クルリと体の向きを変えて私の方を見ると、両手で私の両手を握り、真剣な表情で言った。

「絶対に幸せにするから!だから、この戦争が終わったら、結婚してください!」

 正直に言うと、なぜそこまで話が飛ぶのか理解ができなかった。

 声が小さかったのかと反省していると、刀馬はさらに私の背中と膝に腕を入れて抱き上げた。所謂世の中の乙女が一度は夢見るお姫様だっこだ。

 梓、女の子ってこういうの好きだろ?なんてのんびり聞いてくる刀馬に、「将来誰かにするための練習かしら?」と思うことにした。これ以上疲れるのは嫌だし、今せっかくここまで整ってきた刀馬の精神状態をわざわざ粉々に砕かなくてもいいと思ったのだ。実戦を見たわけではないので、一年を経て馬がどれほどの者になったのか、その馬を師匠と仰ぎ教えを乞うた刀馬の腕じゃ使えるレベルなのか。

 刀馬が万全の状態で挑んでもらいたかった。

 喜び、歩きまわる刀馬に、階下からオフィリスの「うるっせーよ!ガキはいい加減に寝ろ!」と怒声が響いてきた。やはりこの静かな空間で騒ぐ刀馬はかなり目立っていたようだ。

「とにかく、明日は朝も早いわ。今日はもう寝ましょう。」

 おやすみなさい。と声をかけて、応える声を聞かぬまま、私は自室と定めた奥の部屋へ向かった。それからは朝、朝食の席で刀馬を見かけるまで見かけていないし、もちろん会ってもいない。

 あれからおかしいのは、刀馬がまったく話しかけてこないということだ。

「おはよう、刀馬!」

声をかけても

「おー…」

 としか言わない。

 いったい、刀馬に何があったと言うのか。

 唯一知っていそうな人物を当たった。

「どういうことなんでしょう?トーマ、今日は全然私に話しかけてこないですし。目が合うだけですぐにそしちゃうし…オフィリス、トーマなにかあったの?っていうか何かやったの?」

「…なんで俺?というよりも何かあったはともかく、何かやったってなに?」

 隣を歩いていたフォリアがプッと吹き出した。

 笑う妹を横目で睨み、オフィリスはアズサを見た。

「お前、なんの心当たりもないのか?」

「うん。」

「即答だな、おい。」

 おもしろそうだった顔が、ちょっと真剣さを帯びる。

「だってわからないもん。」

「可愛く言い方変えてもダメだ、自分で考えたのかよ。」

「うん。」

「もっとしっかり考えろ。」

 真剣になったオフィリスの顔に、私もふざけてはいけない空気を感じとる。オフィリスと歩いていたフォリアもまたなにかただならぬ空気を感じ取ったのか、心配そうに私たちを見比べた。

 オフィリスの顔を見ながら、私なりに全力で真剣に刀馬となにがあったのかを真剣に考える。

 やっぱりわからない。

「オフィリス~」

「情けない声出すな!お前これからの戦闘大丈夫なのかよ?」

「オフィリスが教えてくれればそれで大丈夫。」

「…いや、ダメだ!教えるかよ。」

「いじめっ子は長生きするぞ。」

「…なんだそれ、褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ…」

 戦闘が開始されたと合図が来た!エンクが知らせに来た。

 よし、行こう!と私を先頭に走りだす。


 *


 最後の決戦の場、世界の中央に据えられた戦場に着くと、そこはまさしく地獄絵図。

 奥には世界の精霊を祀る祭壇。

 前にどこかで見たエジプトの神殿のような造りの建物が小さく見えた。

 茶色だったはずなのに一面が赤く染まり、立っている者は剣を手に持ち、振り上げ、同じく立っている敵に突き刺す。とそうしているはずだった。

 現実には天使も悪魔も、エルフもダークエルフも誰彼構わず切り倒し、笑っていた。

 地獄の笑い声が木霊する異様な空間。

「何、これ…」

「地獄絵図」

 軽く答えたオフィリス。

 しかしその目は怒りと、戸惑いと悲しみが滲んでいる。

 こんなの、おかしいよ。

 敵とか仲間とか、全部関係なく、ただ殺すことを楽しんでいる?

「止めさせる!」

「おい、アズサ!」

 オフィリスの止める声を背中に受けて、私は走り出した。もうこれ以上無益な殺し合いをさせるわけにはいかないのだ。

 弓を取り出し、イメージ。一瞬で放った。太い炎の筋となった矢は意思を持つかのように戦う者たちの間を縫って進み、一時的に戦闘を中断させた。

 やったかと思ってホッと息を吐くが、一瞬動きが止まっただけでそれが過ぎると変わらずに再び戦い出した。

 どうすればいいんだ。

 この光景を見ているだけで、怖くなる。

「止めて!」

 考えて、力づくがダメなら直接語りかけるしかないと大声を張り上げる。

 せっかく話し合いで世界を平和にしようとしていたのに、見事に失敗してしまった。

 いったい何があったのか。

「やめて!止めてよ!自分が何と戦っているのか、わからないの?」

「無駄だ。こいつらには何も聞こえちゃいない。」

「…そんな、せっかくみんなで歩いて生きてくる未来を見つけたと思ったのに…」

「……あれ、やるつもりだったのか?」

「…あれしかなかったんです。」

「それでも、お前が犠牲になってそれで済むとは思ってないよな。」

「……。」

「お前は俺たちの家族だ。勝手に死ぬなんて緩さねーからな!」

 オフィリスはそう言って駆けだした。でもすぐに立ち止まって、こちらを向いて何かを投げた。オフィリスに投げられたソレは赤い光の筋を残して私の差し出した手の中へ入った。

 手の中を見ると、赤い見覚えのある石。

「忘れてた!昨日作ってやってたのに五月蠅くしてた馬鹿どもがいたから、集中してできなくて遅くなっちまった!」

確かに渡したからな!

そう言って走る先には戦場。

 他のみんなも戦場に行ってくれた。

 その中で、ひときわ目立つ大太刀の使い手。

「大丈夫。刀馬なら、本当に刀馬を見て、幸せにしてくれる人が現れるよ。」

 もう大丈夫。

「ね、リーリエ。」

 応えるようにきらりと輝いたルビー。

 ようやく、半身が戻ってきた。

「行こう。」

戦場を駆け抜けて、私は祭壇へ。

駆け抜けている最中に、これまで会ってきた仲間を見かけた。

フォリアに、北の城壁の仲間たち。リーダー、馬、牛、アヤメ、そして刀馬を見た。みんなに微笑んで、私は走った。これほど楽しく走ったのは生まれて初めてだ。

私、世界を救いにいってきます!


 *


白い乙女。

男は戦場となっている祭殿の前で剣に両手を乗せて持ち立っていた。

彼は待っていた。

世界に選ばれし異端の少女。

彼の目的を妨げる、不愉快な少女。

会ったことはないが、彼の目的を邪魔する者は許さない。

さあ、来るといい、白き乙女。

彼女に愛される者は私だけで十分なのだから。どちらかが消える定め。

 ならばお前こそが消えるべきなのだ。

 さあ、来い!

 男の声に応えるように、弓で彼の忠実なる部下たちを薙ぎ払う白い少女が近づいてきた。

「待っていた。この時を。」

「精霊王がこうして世界が混沌に呑まれようとしているときに現れるのは、その中の一人が白き乙女だからだ。必ず一人は、消える。」

「彼女だった。なぜと、どうして、泣き叫んでも神獣は応えてくれなかった。」

「だから、精霊王は巡るから。待っていたんだね、アヤメを。」

「彼女は彼女だ。アヤメであろうと関係ない。私は彼女とともに生きたかった。それだけなのだ。」

祭壇へ続く百段あまりの階段の上と下で話す。

「早くしないと、アヤメの命も危なくなるよ。」

「もう遅い。」

 この人、今空気が変わった。

「すべてがもう、遅いのだ。この世界は滅びるべきなのだ。」

 ヴィジュアル系の美形だったのに、そう言ったのをきっかけに徐々に崩れて行く。

「妬み、悲しみ、憎しみ、苦しみ、怒り、それら負の感情が私を生み出し、そして神獣の力を凌ぐほどの力wお手に入れた。」

「神獣は?」

「暴れている。すぐに地震が起きるぞ。神獣の暴れた影響でな。」

「はやく、解放しないと大変なことになる!」

 エンクから、南の女神から聞いた。

 彼女が私の言うことだけはとてもよく聞いていたのは私が炎の精霊王で、エンクが炎の神だから。

 同じように刀馬は水の精霊王、東の神が水の神。

 アヤメが地の精霊王で、目の前にいる彼が地の神だ。

 彼らは何代か前の精霊王として生まれたアヤメと恋をした。

 けれどアヤメは今の私と同じようにこの世界を支える神獣に捧げる生贄だったから、北の神の声を聞くことなく、アヤメは神獣に捧げられた。

「この世界には、負の感情が溢れている。おかげで成長することができたが、皮肉なものだな。」

 彼はそれを何千年も抱いてきたのだ。

 つらかっただろうに、苦しかっただろうに。

 たった一人のことを想って、彼はそれに耐えた。

けれど、その純粋な愛情を逆手に取る者が現れた。

それが、今彼の体を乗っ取っている邪神、その凶悪さ故に名さえも忘れ去られた存在。

神獣召喚を阻止しようとしている神。

この神を退け、世界平和、安寧のためには神獣を召喚するしか方法はない。

そのためには、こいつをどうしかしなきゃ!

方法を考えているところへ「梓!」と私を呼ぶ声。

振り向くと、再会してからずっと避けられていると思っていたアヤメがいた。

アヤメの姿を見ると、邪神の宿った北の神の瞳が輝きを取り戻したかに見えた。

「梓、あの人…」

「知ってるの?」

 クタン!

 アヤメが呼ぶと、北の神、クタンが反応を示す。苦しいのだろう、つらいのだろう、唸りながらではあるがアヤメを見て、そして「ああ……あ、やめ?」

「クタン!」

「…アヤメ!」

「こんなあっさり?」

 愛は世界を救うってやつですか!



愛は世界を救うんだぜ!って、一回言ってみたかったんだよね。

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