第2章:大広間の宴会
エメラルドは、重い扉を押し開けた。
(眩しっ・・・)
「む、エメラルド!やっと来たか?」
ジェアリー王国の王様、つまりエメラルドの父親、ガーネットが言った。
「まったくエメラルドったら遅いんだから・・・すみません、ペリドット王様。」
オパール女王がプレシャス王国の王様、ペリドットに謝った。
「いやいや、かまわんかまわん。初めまして、王女。」
ペリドット王は朗らかに笑いながらエメラルドに挨拶をした。
「はい、王様。私はエメラルド・アイと申します。初めまして。」
エメラルドはしゃがんで膝を立て、礼儀良く挨拶をした。
「ほう、エメラルド王女は礼儀がしっかりしておるの。」
「ありがとうございます。」
(穏やかな王様だわね・・・いっつも「王様」らしくしようとしてるうちのお父様とは大違い)
しかし、この二つの国はなぜか仲が良く、2人の王は何度か会っていたことがあったらしい。
大きな長いテーブルが部屋の中央に置かれている。
エメラルドはセーナの隣に座ろうとした。
すると、1人の青年が立ち上がった。
「初めまして、エメラルド王女。僕はプレシャス王国のダイアモンド・ライトと申します。」
エメラルドが顔を上げると、そこには一人の青年が立っていた。
「エメラルド、こちらはプレシャス王国のダイアモンド王子よ。とても礼儀正しい、気品のある方で、昔は武道や剣道、茶道なども・・・」
オパール女王は丁寧に説明するが、エメラルドの耳にはもうその言葉など入ってこなかった。
エメラルドは、はっと碧色の目を見開き、王子を見つめていた。
(なんて綺麗な王子なんだろう・・・)
銀色に輝く髪、透きとおるような青い眼、たくましそうな長身の体・・・。
二人とも、お互いを見つめ合っていた。
「エ・・・エメラルド?」
「ダイアモンド王子・・・?」
二人は同時にはっと気がつくと、我に返った。
エメラルドは慌てて、
「は、はい、ダイアモンド王子、私はエメラルド・アイと申します。こ、こちらこそよ、よろしくお願いさせていただきますっ!」
などと意味不明な言葉を口走ってしまった。
(バカ・・・)
「あ・・・」
エメラルドは真っ赤になって目をそらした。
「王女はおもしろい方ですね。」
ダイアモンド王子はにっこりと笑いながら言った。
(うあぁ・・・もう駄目だ・・・)
「と・・・とにかく宴会を始めるから、二人とも席につきたまえ。」
ペリドット王からそう言われ、エメラルドは慌てて席に着いた。
席に着くと、右隣にはオパール、左隣にはセーナがいた。そして、正面にはダイアモンドがいた。
(ええー!!なんで目の前に!?・・・もう、恥ずかしい・・・)
辺りが少しずつざわついてきた。
「エメラルド」
右隣から、オパールが小声で囁いた。
「何?お母様」
オパールは注意深く言った。
「せめてダイアモンド王子の前では、きちんとしとくのよ!いい!?」
「はいはい・・・」
「はいは一回でしょ!」
オパールは小声で怒鳴った。
(はぁ・・・)
エメラルドは心の中で溜息をついた。
御馳走は、とても豪華なものだった。
シーフードシチュー、サフランライス、ピラフ、ハンバーグ、ステーキ、スパゲティ、カルボナーラ、カレーライス、骨付きチキン、ウインナー、オムライス、ロールキャベツ、ミックスピザなど、たくさんの料理が運ばれた。
おまけに、いわゆる「ライスの上に変なもの(赤や白など色が様々)をのせたもの」や、「白い半月形の皮みたいなもので何かを包んでいるもの」がいくつも並べられていたり、「先端がとんがっているまんじゅう」など、奇妙なものもたくさん出てきた。
ある程度準備が整うと、ひとりひとりに皿やフォークやナイフ等が配られた。
目の前に料理が並べられても、ダイアモンド王子は反応一つ示さない。
それに引き換え、エメラルドはテーブルに手を出さないようにするのに必死だった。
料理が並べ終えられ、全員が席に着いた約10秒後、ガーネット王がやっと言った。
「それでは、宴会を始める!」
みんなの緊張が解け、フォークやナイフの音が辺りに響いた。
「エメラルド!」
オパール女王が小声で呼んだ。
「何?」
「あんまりガツガツ食べるんじゃないわよ、目の前に王子がいらっしゃるんだから!」
エメラルドは今まさに、チキンを「ガツガツ」食べようとしていたところだった。
「は・・・はい・・・」
向かい側のダイアモンド王子はシーフードシチューを食べていた。それも、「なんと上品な」食べ方で。
「ねぇ、セーナ。」
エメラルドは左隣でカルボナーラを食べていたセーナに声をかけた。
「あの変な食べ物・・・何?」
人差し指を向けた先には、先ほどの「ライスの上に変なものをのせたもの」があった。
「・・・なんか・・・色々のってるけど・・・あれ、食べ物?」
エメラルドはなんともいえない顔をした。無論、彼女はあんなものは見たことがなかったからだ。
「あぁ、あれはライスに酢を混ぜて、握ってその上に生の魚などを切ってのせた『スシ』というものですよ。」
「ラ・・・ライスに酢・・・?しかも魚を生って・・・何考えてんのかしら・・・」
「それは『日本』という国で作られたものよ。私は結構好きよ?」
右隣に座っていたオパールが説明する。
「へぇ・・・」
エメラルドは一つ「スシ」を食べてみた。上にのっているのは赤い・・・マグロ?である。
「何これ・・・変な・・・うっ!かっ、から!?」
エメラルドは思わず鼻に手を当て、立ち上がった。