彼女に起こる変化の始まり
今回はちょっと短めです。
明日早いんでさっさと寝なくちゃ……
とある屋敷にて――――
「ふふ、ホントこの子いいわぁ~昨日からずっとやってても壊れないんですもの。
珍しい種族だったから買ってみたけど、いい買い物だったわ。
もういいわ。リョキ、ナキ」
「「ハッ」」
キンキン声の女が2人の男に命令して3人は出ていった。
扉が閉まり薄暗くなった部屋に微かに息遣いが聞こえる。
「グッ!フッ、フゥ、つ~……いってぇ、いてぇよぉ」
ゆうに大人三人は横になれる程の幅をもつベッドにうつ伏せになる人影が一つあった。
影のいる場所は部屋というより牢に近い、
窓はなく、扉は外側から鍵が掛けられるようになっている。
家具も影が今横になっているベッド以外トイレの役割をもつ壺が一つあるだけだ。
人影は首輪以外何も身につけていなかった。
唯一付けている首輪からこの影が奴隷という立場にいる事がわかる。
「なんで、だよ……ち、っくしょう……」
奥歯を噛みしめ悔し涙を流す影。
影の体は酷いものだった。
上半身にいくつもの蚯蚓腫れがあり、腰には赤い蝋が点々と落ちておりさらに下には一筋の血が流れていた。
「よ、しあき……なんでだよ……」
影は涙を流し小さく呟く。
「なんで……助けてくんなかったんだ……義明ぃ……」
影の呟きを聞くものはいない
一方そのころグンの錬武室、
「次、5体いくよ!!」
様子を見に来た少女(妹)の手によって少女(姉)の暴走は落ち着き、ようやくではあるがランク付けの試験が行われていた。
少女(姉)の足元から黒い人影が5つ、2次元から3次元になって吉田義明へと向かっていく。
影は剣や槍、弓など様々な武器を持って義明に襲い掛かる。
1体から始まり、倒すごとに一体づつ増えていた。
「フッ」
義明は小さく息を吐いて向かってくる影に疾走する。
一番手前にいた影が剣を振るう。
義明はそれをすれすれに避け、影が剣を振り切るより先に影の手首を切り飛ばし剣を落とす。
はるか後方にいた蘇我深雪がその影に向けて銃を撃つ、
が、さすがに距離が離れすぎていて手首を失った影に当たらず弾は義明の背中に迫る。
「あ」
ぶない、と蘇我が言うより先に義明は身体を真横に向けるかのようにして後方から来た球を回避しついでとばかりに手首をなくした影の頭を飛ばし、近くにいたもう一体の影の胴を斬り払う。
弾丸は義明が回避する前に位置が重なっていた影の頭部に当たる。
「わぁ」
様子を見ていた少女(妹)は感嘆の声を上げる。
あっという間に3体の影が消えてしまった。
姉の作る影は単体でもそこらの兵士よりは強いはず、それなのに彼らは軽々と倒していく。
少年、ヨシアキ・ヨシダは味方の放つ魔弾をいともたやすく回避し、しかもそれを他の敵に上手くぶつけることすらやってのけている。
驚いているうちに4体目がやられ、ヨシアキが弓を構える影に迫る。
ビュッ
「シッ」
影が矢を放った、だが矢はヨシアキの一閃で見当違いの方に飛ばされる。
影が後ろに下がりながら再度弓を引こうとするが、それより先に義明が両手に持つ剣で影を4つに切り分けてしまった。
「早い」
多分1分経ってない。
パートナー、ミユキ・ソガの戦闘能力は低いがそれを補える程の力をヨシアキはもっている。
総合すると中級ランクくらいかな、少女(姉)はそう採点した。
(ヨシアキ一人だけなら上級でも大丈夫かな)
だが彼らは二人で試験を受けた。
二人で受けたのだから二人の力として採点しなくてはいけない。
(ちょっと惜しいな)
折角の逸材に上ランクの仕事を任せられないなんて……
内心で呟きながら少女(姉)は二人に試験の終了を告げた。
「家の改装の手伝い、害虫や害獣の始末に山賊等の討伐、一個だけ護衛の依頼があるな」
義明が中級ランク用の依頼が貼られた掲示板を見ながら一つ一つ読み上げていく。
蘇我が文字を読めない事を考慮したのだろう。
義明の話す内容に耳を傾けつつ、蘇我は自身の内部に起きた変化に戸惑っていた。
変化が起きたのは試験の途中だった。
『黒影兵士が使用可能になりました』
頭の中にファンファーレと共に誰かの声が聞こえた次の瞬間、蘇我は声の言った内容が魔法である事を理解し、それが自分にも扱えるようになったことが感覚的に理解した。
だが蘇我は試験でそれを使うのを躊躇った。
自分が試験管である少女が使う魔法と同じものが出来る事を義明は知らない。
彼が知っているのは自分が持つ銃から何度も弾を撃てることだけ、予想外なことをすれば相手は驚くかもしれない。
でも義明も驚いて動きが鈍るかもしれない。
最悪、試験管は驚かず、義明の動きを鈍らせるだけかもしれない。
そう考え、蘇我は後方から銃による援護に専念した。
義明には後で言えば済むことだし、別に言わなくてもいいことだとも思う。
ギュッ
知らず手に力が入る。
「こんなかで何やりたい?俺は正直何でもいいから、貰える額の高いやつを候補として出すけど」
「!なんでも、いい……」
いつの間にか思考の海に溺れていた。
注意しなければ、そう思いながら依頼を受けにいく義明の背中を追う。
自分に起こる変化に蘇我は怯えていた。
それは彼女も自覚できない程の、小さなものだったが確実に彼女の心に植えつけられていた。
彼が出てきました(笑)。
奴隷から始まる英雄譚とか結構好きなんだ。
下剋上的な話の展開とか胸が熱くなりません?