登録の始まり
バレンタインデーが終わり五日が経ちました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
本命をもらえた方は爆発してください。
義理でももらえた方はその義理チョコを大切に食してください
義理ももらえなかった方、ドンマイです。
もらえなかったのは貴方だけではないと思って強く生きましょう。
むしろ自分で作っちゃった方、貴方は強い人です。そのままの貴方でいてください。
女性の方、本命チョコを上げる際に必要なのは何だと思いますか?
思い?
勇気?
ノリ?
蘇我深雪は久々にベッドの上で毛布にくるまり目を覚ました。
目を覚ました彼女は自分が奴隷として鉄の牢の中、その冷えた床の上で寝ていなかったことに気付き自分が元いた世界のクラスメイト、吉田義明に買われ救われたことを思い出した。
昨日まで身体に纏っていたボロ布は彼のおかげで元の学校のの制服になり、冷たく臭かった食事は温かく美味しいものへ変化した。
蘇我は自分が知らず涙を流していることに気がつく、義明の前では平気な素振りを見せていたが別段彼女はそのような生活に慣れていた訳ではない。
少しばかり家族間に問題はあったが、それは些細なもので普通の範疇から外れることはなく彼女はごく一般的な少女であったといえる。
彼女が平気であろうとしていられたのは、ひとえに彼女の心が強かった。ただそれだけのことである。
(…………?)
蘇我は部屋を見回して自分を助けてくれた少年の姿を探す、が見つからない。
ベッドの下、備え付けられた箪笥の中を全て探し、屋根に張り付いているのかと見上げても義明の姿はない。
既に起きて食堂にでも行っているのだろうかと思い、ベッドの横に知らず(少年がやってくれたのだろう)整えられた靴を穿いて部屋を出る。
「……いた」
食堂で少年の姿を見つける。
義明はこの宿の女将さんと話し、生徒手帳に何かを書きこんでいた。
何を書いているのだろうかと思いつつ蘇我は義明の座るテーブルへと歩いていく。
義明の下についても彼は蘇我に挨拶もせずに女将に聞き続ける。
どうやらテーブルに掛けられたメニューの事を聞いているようだ。
何て名前か、どのような料理か、いくらかなど義明は矢継ぎ早に質問していく。
義明の対面に座る女将と目があい蘇我は小さく頭を下げ義明の隣に腰を下ろして彼の話が終わるまで待つことにした。
10分ほど待っただろうか、ようやく義明が話を終えた。
女将に何度も頭を下げ感謝し、終わりに2人分の朝食を注文した。
どうやら蘇我の存在には気付いていたが女将との会話はそれ以上に優先すべきものであったようだ。
ただメニューを聞いていただけのようだが、何かしらの意味があるのだろう。蘇我はそう思うことにした。
「何、してたの?」
一応聞いてみた。
答えてくれるかはわからない。
蘇我は義明がどういう人間か知らないどころか、クラスの人間の名前もロクに覚えていない。
必要がなかったから。
とくに話す相手もなく、それをさびしいと感じる事もなかった彼女はクラスどころか学校全体でも名前を覚えている相手は極僅かである。
義明の名前も本人に直接「貴方誰?」と言って聞いた。
「こっちの世界の文字が分かんないから聞いてた」
義明は自分の質問に答え、その後でおはようと挨拶をしてきた。
「文字?」
義明が蘇我に先程まで書きこんでいた生徒手帳のページを見せると、そこにはこちらに来てからいたる所に書かれていたグニャグニャした文字とその横に平仮名や数字が書かれていた。
それを見る限りこちらの世界で用いられる文字は平仮名のように一文字に一音で成り立っているようだ。
ページの下に吉田義明と、自分の名前をこちらの世界の文字で書いてあった。
「昨日の晩飯の時にこっちの文字が読めないことが問題としてあがったろ?」
ちょうどウェイターによって運ばれた料理を受け取りながら義明が蘇我に説明をする。
文字の形体が違って自分たちに理解できないなら理解する努力をすればいい。
当たり前のことだろ?といって義明はパンを千切って口に運んだ。
(すごい)
蘇我は素直に感心していたが、内心で思うだけだった。
蘇我の顔はどうでもよさげな表情をし、ふーんと口から出ていた。
義明はその反応に特に思う事もないのか、気にした風もなく朝食を淡々と処理していく。
蘇我も木製のスプーンを手に取りスープへと向ける。
食事を終えた2人は早速グンへと向かった。
街の中央に位置する白い建物、大きな看板には確かにグンと書かれている。
義明の想像と少しばかり違っていたようで彼は建物を見て呆けていた。
蘇我がどんなものを想像していたか聞くと、「もっと酒場みたいな古めかしいのを想像してた」と返事が返ってきた。ゲームとかだとそういう場所であるものらしい。
確かにそういう想像をしていると驚くかもしれない。
目の前にある建物は想像とは逆な綺麗な建物で、酒場というよりは裁判所みたいだ。
いつまでも建物の前に突っ立っていてもしかたない、と蘇我は義明の背中を押して重厚なドアを押し開け中へと入って行った。
「うわぁ」
義明が内装に感嘆の声を上げる。
蘇我も声には出さなかったものの、建物の中には驚きを隠せなかった。
大理石のような白く美しい床、天井には豪華なシャンデリアのようなものがあった。
街全体でもここまで綺麗な場所はないのではなかろうか。
建物の内部をあちこち見ながら進み、受付と思しきところに着く。
「あの」
義明が派手な服を着ている女性に話しかける。
あちこちに同じような服を着ている人がいるから多分ここの職員か何かだろう。
「はい?」
女性は何かの皮に羽ペンで何やら書き込んでいたが義明に話しかけられ顔を上げた。
眼鏡をかけた20代後半あたりの女性だ。
耳や鼻など一部普通の顔と違うからきっとこの人も自分たちとは同じ種族ではないんだなと蘇我は思った。そもそもここに自分たちと同じ「人間」がいるのかどうかも怪しいのだが、
「すいません、私たちグンになりに来たのですが登録はどこで行えばよろしいのでしょうか?」
蘇我が思考している間に義明は彼女に用件を伝える。
女性は眼鏡を上げて義明と蘇我を見て、2枚の小さな紙を渡した。
「そこに名前、年、種族、自分の使う獲物、どのような仕事がやりたいかを書いて向こうの2番窓口に持ってきな」
女性は羽ペンで彼女の斜め後方にあったデスクを示して、もう言うべき事はないとばかりに羊皮紙に視線を向け続きを書きはじめた。
義明はありがとうと一つ頭を下げて適当な机に向かった。
蘇我も彼の後に続いて机に向かい、彼の隣りに腰を下ろす。
「お前の分も俺が書くぞ」
蘇我はまだこの世界の文字を理解していない、彼女は義明の提案に頷いた。
義明は時折生徒手帳を覗き込みながら二枚の紙に記入を終えていく。
二枚の紙には、
「名前:ヨシアキ・ヨシダ、年:16歳、種族:人族、獲物:二本の剣、仕事:なんでも」
「名前:ミユキ・ソガ、年:16歳、種族:人族、獲物:銃、仕事:なんでも」
と書かれていた。
書き終った義明は紙を持って女性に教えられた、2と書かれた机に行った。
「グンの登録お願い、します」
義明は職員の姿に軽く驚きつつも、机に先程書いた紙を置いて席に着く。
蘇我も義明の隣に座る。
対面にいたのは蘇我と同じくらいの背丈をした少女(座っていたので正確ではないが)だった。
頭には鬼のような角があり、丸い両目の上に緑色の小さな石が埋め込まれている。
「はいはい、グンの登録ね~」
少女は紙を受け取り読んでいく。
「ふんふん、ヨシアキさんとミユキさんね。珍しい種族ですね~人族なんてどこの地方です?
ああいや別に言いたくないなら言わなくていいんですけど、ええはい全然かまいませんよ~グンはちゃんと働く方なら犯罪者だろうと王族だろうと大歓迎ですから~。
ちょっとお二方の使う武器を見してくださいます?あ、主力として使うものだけで結構です。ちょっと映像とらせていただきますね~。はい、ありがとうございます~。
では最後に、お二人がどの程度の実力を持っているのか知りたいのでそこの階段上がって行って3階の錬武室と書かれた部屋に向かってください。そこでどの程度の依頼を出せるか調べますんで~」
この木札を錬武室にいる人に出してね~と朗らかに話すと少女は下がっていった。
思いの外あっさりと進んでいくんだなと思いつつ2人は言われた錬武室へ足を向けた。
「はいはいランク調査ね~」
少女に言われた通り錬武室に来た2人が見たのは先程の少女だった。
「さっきの……」
唖然とした義明が小さく呟くと少女は人差し指を立て左右に振り、
「チッチッチィ、アレは妹だよ少年。私はアレの姉、目の上の石の色がアイツより少し明るい色だろ?」
「わかるかそんな小さな変化!」
色が違うんじゃなくて明度の差かよ、と義明が突っ込んだ。
蘇我も同意のようで義明の隣で頷く。
「まあまあ怒るな怒るな、要は私が一階のと同じでないってことがわかればいいんだよ。
最近建物に金掛けて職員切ってるんじゃないかって噂が出てるみたいなんだよね~。
ここで働いてる職員の多くが双子三つ子で顔似てるから職員の数が少ないって思われてるみたいなんよ~」
ここの別名、分身する職員の巣窟とか言われてるし~。と頭を押さえてもだえる少女に2人はどう反応を返せばいいのかわからず、とりあえず床に座って少女の言葉を聞く。
「最近なんかさぁ、他勤務の同僚だけじゃなくて上の人からも「職員を多く書いて予算多めに貰おうとしてるんだろ」とか言ってくるくらいだし~、もうなんか嫌になっちまいますよ。私らをここ勤務にしたのアンタだろ!て感じですよ。でも相手上司ですし、そんなこと言えるわけもなく黙っていたら先月の給料ちょっと減ってたんですよ!!あんまりじゃないですか!ねえ!!」
(なんかいつの間にか愚痴られてるぞ、試験てまさかこの愚痴聞いてりゃいいのか?)
(そうだったら楽)
「ちょっと!ちゃんと聞いてくださいよ!!」
最近の少年少女は礼儀がなってないよ、人の話はちゃんと聞くものだろー!!と今度は説教しだす少女。
情緒不安定なのだろうか?と思う義明だったがその事を口に出したりはしなかった。
下手に口出しすると余計面倒なことになるだろうと考え、少女が冷静になるのをひたすら待った。
「お姉ちゃ~ん。まだ終わんない~?って何やってんのお姉ちゃん!」
いつまでも降りてこない義明らの様子を見に来てくれた一階の少女(妹)が止めてくれるまで少女(姉)の暴走は止まることはなかった。
ようやく一息入れられそうなので更新をしてみる。
といってもまたすぐに忙しくなるっぽいのですが……
2月から4月まではどこも忙しいよね。
感想で怒られたので所々変えてみる。
既に読んでしまった方、ごめんなさい。