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第十三話 ジェフリーの腹案

 ジェフリーは昼食を腹につめてから、またひとしきりタマラと遊んだ。よくもまあ飽きないものだと思いながら、アガサは一旦下に降りたが、昼下がりになる頃、そろそろかと思い様子を見に行った。ツリーハウスが完成してタマラも満足げなのを見て、彼に声をかけ一階で休憩を取ることにした。


「タマラと遊んでくれてありがとう。あんな弾けるような笑顔見たの久しぶりだった」

「僕こそ、今まで触れ合う時間が取れなかったから。正直懐いてくれるか心配したけどホッとしたよ。素直で伸び伸びしてて――アガサがまっすぐ育ててくれたお陰だ」

「そんな……私は仕事が忙しくて、あまり構ってあげられなかった」

「それでも、子供は親の背中を見てるんじゃないかな。たぶん……」


 アガサは、リビングでジェフリーにお茶を入れながら、不意に誉められて顔を赤くした。そんな風に思ってくれたなんて……と、カップを持つ手がわずかに震える。


「こないだ、お姉さんたちの前でも擁護してくれたじゃない? あの時も嬉しかった」

「擁護というより、本当のことを言ったまでで……」


 飾らない気配りができるところも十年前と変わらない。久しぶりに再会したジェフリーは、突然心変わりした形跡は見当たらなかった。


 それならなぜ……と、最近アガサはよく考える。闇魔法の影響で夢にうなされるほどの恐怖を覚えたのは本当だ。闇魔法を扱えるのはジェフリーただ一人。過去の記憶と矛盾する目の前の事実に、混乱させられてばかりいる。


「それより、タマラが学校に行きたがらない理由を教えてくれたよ」

「そうなの? 何て言ってた?」


 考え事にふけっていたところ、一気に現実に引き戻される。アガサには渋っていたのに、ジェフリーには簡単に打ち明けたのが意外だった。


「他愛もないことだったよ。四大魔法全て使える人間は他にいないから、どこに行っても珍しがられて居心地が悪いんだって。ソルベリージュにいた頃は純粋にすごいとしか言われなかったのに」


消し忘れ?→「他愛もないことだったよ。四大魔法全て使える人間は他にいないから、

どこに行っても珍しがられて居心地が悪いんだって」


 他愛もないこと――アガサはその言葉に少し引っかかりを感じた。確かに、解決策はどこかにあるかもしれない。でも、子供にとって「居場所がない」という感覚は、決して他愛もないことではない。


「それならどうすればいいの? タマラが他の子と違うのは直せないじゃない?」

「タマラは特別な生徒だから特別扱いをしろと言ってもいいけど、そうはしたくない。新しい環境に馴染んでもらうようするにはどうすればいいだろう?」


 ソルベリージュにいた頃は、ラドクリフ先生が全ての属性の子を見ていた。彼自身は水属性だが、基礎コースまでなら何とか全ての属性を教えることができる。タマラも、他の子達と同じように授業を受けたから、そこまで差異がはっきりしなかった。


 しかし、生徒数が多いエルドリッジ学園では、最初から属性ごとにクラスが分かれている。そこで、四大魔法全てを使えるタマラが、あちこちのクラスに顔を出したら、他の子から奇異な目で見られるのは必然だ。タマラのような子が安心していられる場所はないのだろうか?


「僕は飛び級して、年上の学生に囲まれて勉強をした。でも、その代わり、気の合う友人を作れなくて寂しい思いをした。タマラには同じ経験をさせたくないんだ。何とか、エルドリッジ学園に馴染んでほしい」

「そうね。同年代の友達を作って欲しい。魔法が使えるせいで孤独になるなんて嫌」


 とは言え、具体的にどうすればいいのだろう。それについては、ジェフリーに腹案があるようだった。


「ちょっと考えがあるんだけど、確実になるまでちょっと待ってほしい。後で説明するから。それまでは、無理に登校を促さなくていい。好きなだけ休ませてやりなよ」


 不安な気持ちは拭えないままだったが、アガサは彼の言う通りにするしかなかった。



 宣言通り、ジェフリーは何やら画策をしているようだった。朝早く出かけ、夜遅く帰る。それはいつものことだが、玄関先でカイルと交わす会話の断片に、アガサは耳をそばだてずにはいられなかった。


「そんな暇ありません」

「無理を言わないでください」

「本気ですか!?」


 一体、何をしようとしているのか。カイルの慌てぶりから、ジェフリーが無理難題を言ってるような気がするが、はっきりとは聞こえない。


 タマラは、できあがったツリーハウスの小屋で気ままに過ごすうちに、元の元気を取り戻していった。アガサは、ジェフリーに言われた通り、余計な介入をせずに自由にさせている。


 タマラは、父からやり方を教わったのか、異なる属性の魔法を組み合わせて新しい術を生み出している。まるで、遊びの延長のようだ。「退屈な時は魔法で遊べってパパが言ってた」とのことだが、ジェフリーも寂しい子供時代にこうやって遊んでいたのだろうか。


 二週間ほど経過したある日、アガサは、ジェフリーから驚きの報告を受けた。


「タマラの学校に行って出張授業をしてくるですって?」

「そう! 日程調整に時間がかかったけど、ようやく実現に漕ぎ着けたよ!」

「そうじゃなくて!」


 アガサはカップをソーサーに置いた。少し強すぎて、カチャンと音が鳴ってしまう。


「ジェフリー・ダウリングが小学校に出張授業? それがどれだけのことか、分かってるの? この国で一番忙しい魔法使いが、九歳の子供のために仕事を休むって言ってるのよ?」

「僕は、国で一番忙しい魔法使いの前にタマラの父親でもある。娘のために一肌脱ぐのは当然だろう?」

 

 まるで訳が分からない。アガサは、口をあんぐり開けたまま呆れ返ってしまった。


「出張授業って何するの?」

「光と闇の魔術を生徒たちに見せる」

「それって……秘術じゃなかったの?」

「別に? アガサにも見せたことがあっただろう? ごく簡単なものだけど。アガサ以外の人に見せるのは初めてだけど、もっと広く知られるべきだと前から考えていたんだ。せっかくだからいい機会かも」


 確かに、十年前に戯れにジェフリーが見せてくれたことがある。まるで、とっておきの手品を披露してもらったような気軽さで、とても貴重なものを見た感慨よりも、彼が自分だけに見せてくれたという事実の方が誇らしかった。


「それを見せて……どうしようっていうの?」

「他の生徒たちには、タマラの存在に親しみを持ってほしい。今のままでは、きっと、得体の知れない魔法を使う、怪しい存在のように思われてるだろうから」


 それはきっと、ジェフリーがかつてそんな目で見られたという意味だろう。おそらく、今も同じような偏見に晒されているのかもしれない。せめて、娘のタマラには同様の思いをさせたくないと考えているのだろうか。アガサはそう解釈した。


「そんな簡単にうまく行くかしら? これでタマラが学校に居場所を見つけてくれればいいけど……」


 娘を心配する一方で、自分だけに見せてくれたという優越感が消えてしまうのだという寂寥感も全くないと言ったら嘘になる。そんな己のエゴを心の中でそっと戒めた。

 

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― 新着の感想 ―
ジェフリー! 良いパパとして頑張ってくれてるけど、から回って常識外れなことをしないか心配です! あとカイルの心労が…笑 最後のアガサの気持ちもいいですね。残っていた純粋な恋心のようで!
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