越後
4時間目の授業が始まった。数学なのでフーセンの授業だ。誰が言い始めたかは知らないが、俺もそう呼んでいる。もちろん怒られるので本人の前では使わない。真島は「バルーン」と呼ぶが、そんな呼び方は真島しかしていない。
授業が淡々と進む。
「じゃあ、次の問1と問2解いてみろ。わからないやつは先生か周りの人に聞けよ」
皆問題を解き始めるが、その途中後ろからスマホの着信音らしき音が大音量で鳴り響いた。
ティロリロリロリロティロリロリロリロ
思わず後ろを振り向いた。後ろということはおそらく奥井のスマホだ。だが、奥井がスマホをそんな設定にしているわけがない。着信音も以前聞いた音とは違う音なので明らかに妙だ。
数秒鳴った後、音が止んだ。
「誰のだ?」
フーセンが強い口調で問いただす。
「たぶん自分のです…」
奥井が席を立ち、手を上げた。フーセンが奥井の側まで来ると「スマホ出せ」と迫る。奥井は通路側に掛けてあるスクールバッグの中からスマホを取り出し渡そうとするが、なぜかフーセンはすぐにはスマホを受け取らない。
「誰からだ?一応確認しなさい」
「え?えぇと…真島からです」
「2組の真島禄斗か?」
「はい、そうですけど…」
電話をかけてきた相手が真島だと分かると、フーセンは奥井からスマホを取り上げ「各自そのまま問題解いてろ」と指示を出し、教室を出ていった。
教室内がほんの少しざわざわする。
「先生どこ行ったんだろ?」
「さぁ?」
「真島のとこじゃない?」
「答え見せてくれ」
「まだ解き終わってねぇよ。つーか自分でやれ」
「また真島だってさ」
クラスの何人かが小声で喋っているのが聞こえてくる。
「くそっ、真島のやつ、人のスマホの設定勝手に変更するなよ!ていうかどうやって俺のスマホのパスワード解除したんだよ」
奥井の怒りが真後ろから小声で伝わってくる。直後、隣の2組からもっと大きなざわざわした声が聞こえてきた。どうやら本当に真島のいる2組の教室に入っていったようだ。おそらく真島のスマホも没収しているのだろう。少しするとスマホを2つ持ったフーセンが戻ってきた。
「授業再開するぞ。問1は今日の日直、問2は奥井、前に出て解け。途中の式もしっかり書けよ」
「えぇ…」奥井は不満そうだ。奥井が席を立ち「これで合ってる?」と確認してきたので「たぶん合ってる」と返すと、前に出て黒板に途中の式と答えを書き始めた。
奥井は数学が苦手なので俺に答えを確認したのだろうが、俺も数学は得意というわけではない。おそらく、成績の良い佐々木が欠席の為、止むを得ず俺に確認したのだろう。日直の小牧が先に書き終えると、続けて奥井も書き終え、席に戻ってきた。
「問1は正解だな。問2は……んー?途中の式までは合ってるのに最後の答えだけ間違ってるぞ」
ん?答えが間違っていたようだ。どうやら奥井と全く同じミスをしてしまったらしい。
フーセンが答えを訂正しながら「こういう単純なミスはテストでしないように気を付けろよ、結構多いからな」と注意を促す。
「答え違うじゃん!」
「すまん、俺も同じミスしてたわ」
「くそぉ、なんで今日に限って佐々木いないんだよ…」
連続で恥をかいた奥井には正直申し訳ないが、自分が当てられた時ではなくて良かった、などと思ってしまった。それに俺ではなく数学が得意な千葉さんに答えを確認すれば良かっただろうとも思ったが、女子が苦手な奥井が千葉さんに話しかけるのは無理だろうから俺に確認したんだろうな、と脳内で勝手に納得する。
その後は何事もなく授業が進んだ。
キーンコーンカーンコーン
「しっかり予習復習しておくようにな」
4時間目の授業が終わった。しかしフーセンがこちらに近づいてくる。俺ではなく奥井に用があるようだ。
「奥井、昼食をとったら職員室に来なさい」
「先生、あれは真島に勝手にやられたんで自分は悪くないです」
「そういうのはあとで聴くから、まず昼食とりなさい」
「…わかりました」
「真島にも来るように言っておくから、2人で来なさい」
「…はい」
事情を知らないフーセンに、奥井は従うしかない。
フーセンは教室を出て2組の方へ向かった。
「はぁ…」と奥井がため息を吐いたので「完全に真島が悪いんだから、説明すれば大丈夫だって」と励ました。「手洗ってくる…」奥井はそう言うと、とぼとぼとした足取りで教室を出ていった。それにしてもなぜ昼飯を食べたあとなのか?いつも真島が職員室に呼び出されるのは昼飯を食べる前や放課後だったはずだ。
どうせ宮本と真島も来るだろうからと、自分と奥井と佐々木の机を並べて昼飯を食べる準備をする。千葉さんは毎回他の場所で食べているようなので、毎回椅子だけ借りている。もちろん許可は取ってある。唐川が自分の椅子を持ってこちらに来たが「トイレに行ってくる」と椅子と弁当を置いていった。普段は椅子が1つ足りないので空いている椅子を適当に拝借するのだが、今日は佐々木が欠席なのでその必要はない。腹が減ったので先に1人で食べ始めようかとも思ったが、待つことにした。
ピンポンパンポーン
「教頭先生、教頭先生、至急職員室まで来てください」
ピンポンパンポーン
少しすると真島と宮本が奥井と一緒に教室に入ってきた。




