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奥井

ある日の朝、いつもどおりの時間に学校に行くと、下駄箱で同じクラスの曽我に会った。曽我はいつももっと遅い時間に登校するはずだから珍しい。曽我に「おはよう奥井ー」と挨拶されたので自分も「おはよう」と返した。曽我の足元にはスクールバッグとは別のカバンが置かれていたので「それは何?」と尋ねると「ごめん、秘密なんだ」と隠された。曽我は先に靴を履き替え、そのカバンとスクールバッグを持ったままそそくさと階段の方へ向かっていった。


自分も靴を履き替え階段を上がり自分のクラスの2年3組へ行くと生徒はまだ疎らで、何故か曽我もまだいなかった。


廊下側の一番後ろが自分の席なので、その机の通路側にスクールバッグをかけて、その中から小説を取り出して読み始めた。これが自分の朝の日課になっている。



朝のホームルームで担任の風間先生から隣の席の佐々木が欠席だと伝えられた。風間先生は「フーセン」とあだ名をつけられている。

風間先生→風先→フーセン  こういうことらしい。

ちなみに自分は風間先生と呼んでいる。




1時間目の古典、2時間目の体育、3時間目の英語も終わり、休み時間になった。4時間目は数学なので、教科書とノートを机の上に出しておく。授業開始まで何をしていようかと思っていたところ、前の席の越後が声をかけてきた。


「奥井、このサイコロすげぇんだよ。ちょっとトイレ行ってくるから、その間に何回か振ってみ」


サイコロを自分に手渡すと、そのまま越後はトイレに行ってしまった。


試しにサイコロを振ってみる。6が出た。

再び振ってみる。また6が出た。

もう一度振ってみる。またまた6が出た。

さらにもう一度振る。またしても6が出た。

サイコロを手に取って見てみたけれど、どう見ても普通のサイコロにしか見えない。どういう仕組みかはわからないけど、多分6しか出ないようになっているみたいだ。


隣の席の佐々木にサイコロを見せてみようと横を向いたら誰もいない。そうだ、佐々木は今日は欠席だった。すっかり忘れていた。丁度そこに唐川が通りかかったので呼び止める。


「ねぇ、このサイコロ6しか出ないんだよ。すごいよね」


またサイコロを振ってみたら、やはり6が出た。


「ほら」

「へぇー」


興味を持ってくれた唐川にサイコロを手渡し、

唐川がサイコロを振ると6が出た。

再び振るとまた6が出た。

もう一度振る。またもや6が出た。


「何このサイコロ?どういうカラクリなの?」


不思議に感じるのも当然だと思う。どう見ても普通のサイコロにしか見えない。


「お前ら何やってんだ?」


宮本が教室の後ろから入りながら聞いてきた。真島も一緒だ。この2人は隣の2組の生徒だけど、度々3組の教室に入ってくる。


「このサイコロ6しか出ないらしいんだ」

「貸して」


今度は宮本が唐川から手渡されサイコロを振る。6が出た。

立て続けにもう一度振るがまた6が出た。

今度は少し高い位置から振ったけれど、もはや当たり前かのように6が出た。


「おー、ホントに6しか出ねぇな」


宮本も少し驚いているようだ

そう、何度やっても6しか出ない。


宮本がサイコロを手に取って観察したまま「これ誰の?」と尋ねてきたので「さっき越後が渡してきた」と答えた。唐川もサイコロが気になるようで、その様子を見ている。真島は興味がないのか、教室に入ってきてから自分と佐々木の席の間でしゃがみ込んで下を向いたままだ。多分スマホでもいじっているのだろう。


宮本が教室をキョロキョロと見渡す。


「越後どこだ?あ、いた」


越後が教室に戻ってきた。


「なんだお前ら、また来てんのかよ」

「別にいいだろ。そんなことより、このサイコロお前のなんだよな?これどうなってんの?」

「ああ、奥井をからかおうと思ってさ」


…ん?


「は?なんだって?どういうこと?」


もう一度宮本が聞き返した。


「え?だから奥井をからかうために普通のサイコロ渡しただけだって」


え?普通のサイコロ?からかう?


???


…いやいや、何回も連続で6が出たのに普通のサイコロのわけがない。


唐川が「意味がわからないんだけど…。奥井をからかうってどういうこと?」と越後に説明を求めた。自分もわけがわからない。


「えーと…」


越後はいったん自分の席に戻って、その間に宮本は欠席した佐々木の席に座った。真島はまだしゃがみ込んだままだ。相当スマホに夢中みたいだ。


「例えばサイコロって10回振ったら、どんな目の順番でもその順番になる確率は6の10乗分の1だろ?だから普通のサイコロでも何回も振ったらどんな順番だとしてもとんでもない確率になるわけだ。それはある意味すごくね?ていう感じでからかおうと思ったんだけど…」


「つまりこのサイコロは普通のサイコロってこと?」


唐川が確認した。


「だからそうだって言ってるだろ。…え、なに、なんでそんなこと確認するわけ?」

「だって7回連続で6が出たんだから普通のサイコロだとは思えないよ」

「俺は途中からだから最後の3回しか見てないけどな」

「いやいや、俺なんか11回連続で6が出たのを見たんだよ!とんでもない確率だよ!」

「え?11回も連続で6が出たのかよ…。確かにすげぇけど、どんな目の順番でも確率は同じなんだって。それに実際俺は見てないしなぁ…」


それぞれが自分の主観で主張してるけど、11回連続で6が出たのは紛れもない事実だ。なんでこんな日に限って佐々木が欠席なんだよ、と思ってしまったが、そんなことを考えていてもしょうがない。


「今誰が持ってんの?試しに振ってみ?」


越後が促すと、宮本が持っていたサイコロを転がす。

すると1が出た。


「えー、なんだよ…」


唐川が残念そうなリアクションをした。

「ほらな」と越後が言いつつ、サイコロを手に取り転がすと、再び1が出た。

続けて自分が転がす。また1が出た。

今度は唐川が転がす。またまた1が出た。

「え?」と唐川が思わず声を出したけど、宮本がすぐにもう一度転がすとまたしても1が出た。

「なんか怖いんだけど…」と唐川が言っても「たまたまだろ」と宮本が一蹴する。その直後チャイムが鳴った。


キーンコーンカーンコーン


教室にチャイムが鳴り響く中、宮本が真島の頭を叩き「戻るぞー」と促すと、2人はあっさり教室を出ていった。越後が唐川に「このサイコロいる?」と聞くと「いや、なんか怖いからいらない」と返し、唐川も自分の席へ戻っていく。その直後、越後の隣の席の千葉さんが戻ってくると、越後は躊躇なく「千葉さん、このサイコロいる?」と再び聞いた。千葉さんは「…うん、いる」と短く返すと、越後からサイコロを受け取った。なんで自分よりも先に千葉さんなんだよ、と思ってしまう。不思議なサイコロのように感じたので正直自分が欲しかったけど、千葉さんの手に渡ってしまったので、今更「自分が欲かった」などとは言えなくなってしまった。


「曽我、廊下を走るな!」


風間先生の怒号が廊下から聞こえた。


「走ってません、これは競歩です!」

「競歩も禁止だ馬鹿野郎!」


「ハハハ、あいつ馬鹿だなぁ。フーセンにそんな冗談通用しないっての」


越後が笑う。自分も笑ってしまった。千葉さんは肩を震わせて笑うのを堪えているようだった。


競歩もどきの歩き方をしながら曽我が教室の後ろから入って、自分の後ろを通り過ぎていく。動きが面白く、さらに笑いそうになったけど、授業が始まるのでなんとか堪えた。そういえばあのカバンは教室にはなかった。朝何処かに置いてきたのかもしれない。あれは一体何が入っていたんだろうか?


風間先生が前から教室に入り、前のドアを閉めるのと同じタイミングで自分が後ろのドアを閉めた。授業が始まる直前に後ろのドアを閉めるのがこの席の生徒の役割なのだけれど、毎回なのでこれが意外と面倒くさい。


4時間目の授業が始まる。




そういえば真島は何のために3組に来たのだろうか?

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