1:多重人格と共に異世界転生
《大丈夫。僕が君の手助けになろう。》
幼い時、彼らは僕を助けてくれた。
僕は名前を持たない彼らに名前を与えた。
そして僕は、気づけば異世界に転生していたのだった。
「ここは……一体……」
石造りのトンネルの中で僕は目を覚ました。
馬の上に揺られ、手綱を握っていた。
日本ではない、しかしこの世界については生まれた時から居たというような錯覚が僕の中をぐるぐるまわる。
「主様。どうかされたのですか?」
7歳ほどのメイド姿の少女が僕に話しかけてくる。
「ほらヒューズ。今日はお前頼みごとを聞いてやる日だろう?」
彼は僕の父だ。
なぜ?何故そうだと言い切れるんだ?
それにヒューズ。ヒューズとはどういうことなんだ?僕は楓雅だ。
僕は一度考えを整理し、こんな結論を出した。
僕は前世、頭の中の何かが砕けるような音と一緒に意識を失った。そして目を覚ますとここ。これを考えるに転生したと考えるのが正しいんじゃないかな。
そしてこの体の記憶を思い返して色々とわかった。僕の名前はヒューズ・アルバート。
そしてこの父はこの世界の父であり、貴族。
これだけ押さえておけば今は問題ないかな。
「いや、何でもないよ。」
《ようやく起きたか。今まで面倒だったんだぞ。》
《けど楽しかったですよぉ。》
《頑張れよ。》
《あとでこの世界について僕たちが教えてあげる。基礎情報はもう渡してる。あとは自由にしていいよ。》
彼らは僕の人格たちだ。
サクッと言ってしまうと一人目が鎌三じいちゃん。二人目が莉奈さん。三人目がレン。そして四人目が僕の相棒の楓吾だ。
「ごめん。ぼーっとしてて。何をするんだっけ。」
「今日は貴方が初めて外の世界を見ることができる日じゃないですか!」
「ここが……外の世界………!」
トンネルを抜けると大草原が広がっていた。
流れる風がまるで僕を祝福するようだった。
「すごいな……」
辺りを見渡すとまるで中世ヨーロッパのようだった。
鎧を着た騎士、高くそびえたつ石壁が鎮座していた。
僕の腰にも刃渡り50センチほどの剣があった。
鍔や鞘に凝った装飾が施されていた。
まるで伝統工芸品のようだ。
触る事すらためらいそうだ。
「少しこの自然を味わいたいな。」
馬から僕は降りると、その風を体いっぱいに浴びた。
すると隣から弾丸のようにメイドの言葉が聞こえてきた。
「それでは魔物退治に行きましょう!主様!」
「カーシャ……まさか、本当に……!?」
僕の言葉に彼女は無邪気に、笑顔で言った。
「はいっ!今から行きましょうよ、主様っ!きっと楽しいです!」
カーシャは僕の手をガッチリと掴み、
「えっ、ちょっ──待っ!?」
すると僕はカーシャに手を引っ張られ、ぽかんとしていた大人たちをあっという間に振り切ってしまったのだった。