表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/99

ヒーローボーズ

 小銭銀行で使った同型の小型マイクとイヤホンを急いで装着した。むさ苦しいおっさん警官たちが複雑な面持ちで俺を見つめている。

 準備が終わりそば屋を出ると、亀吉が深々と頭を下げた。

「ジャックさん、申し訳ない。警察の仕事は市民の安全を守るのが仕事です。なのに、ジャックさんを危険な任務に向かわせようとしている……警察官なら絶対にさせてはならない事を私はさせようとしている。私は恥ずべき警察官だ……」

 頭を下げ続ける亀吉の頭を、ジジイはゲンコツでパコンと殴った。

「つべこべ言ってんじゃねえよ。警察官だろうが一般の市民だろうが、署内にいる大量の人質はジャックしか救えねえんだ。命の重さは誰でもみんな同じだ。だがな、百人と一人では重さが百倍違うんだよ。一人を犠牲にして、百人が助かれば万々歳じゃねえか。おめえら人間は昔からそうしてきたじゃねえか。人身御供を神に捧げて、大勢の人間を助けてほしいと願っていただろ。まあ、今回はちょっと違うが、大勢の人間を救うことには変わりゃしねえよな。亀公、おめえは間違った選択はしてねえぞ。人間として正しい選択をしたまでだ。胸張っておいらたちを見送りゃいいんだよ」

 早口でまくしたてるジジイの説教を聞いて、亀吉は頭を摩りながら顔を上げた。

「そんな簡単に割り切ることは、私にはできませ――」

「うるせぇ! おめえのごたく聞いてる時間なんかねえ。簡単に割り切れなきゃ、ぶつ切りでも千切りでも桂剥きにでも、好きなように切りやがれ! それでもわかられえなら。こうだ!」

 ジジイは身軽にジャンプし、再び亀吉の頭上にゲンコツを振り下ろす。

 ゴン! と気持ちがいい音が辺りに響いた。厳めしいおっさんたちは目を丸くして驚いている。両手で頭を摩る亀吉は、母ちゃんに叱られたガキのようにすねた目をジジイに向けた。

 興奮しているジジイはフゴーッフゴーッと鼻息が荒い。先ほどの電話の怒りがまだ冷めていないようだ。かなり虫の居所が悪い。

 ジジイはサングラスをかけると、マントをなびかせ体の向きを変える。

「ジャック、時間がねえ。行こうか」

 仁王立ちして横島署の正面玄関を睨みつけた。頭上のお絹も耳をピンと立てて睨んでいる。

「そうだな。行こう」

 俺もサングラスをスチャッと装着すると、ジジイの隣に並んだ。

「僕も行きます」

 ピッチョンが隣に並ぼうとしたので、俺は片手で制した。

「ピッチョンさんは一緒に来ないほうがいい」

「しかし、僕もブッパナサレンジャーの一員です」

「ピッチョン、おめえはなにも正面から行かなくてもいい。おめえは瞬間移動ができるじゃねえか。ジャックに仕込んだマイクから状況を読みとって、いざとなったら来てくれや。それまで待機してろ」

 ジジイは横島署を見据えたまま言う。ジジイには珍しく真剣で、かなり気合が入っている。ピッチョンはジジイの気合いに飲み込まれ、素直に「はい」と頷いた。

「それでは早く行きましょう」

 飛田が横島署に向かってスタスタと歩いて行く。なぜか、長寿庵と染め抜かれた紫色の風呂敷を首に結んでいる。子供が風呂敷をマント代わりにしているような格好だ。

「飛田さん、送ってもらわなくていいですからここで待っててください」

 飛田は出っ歯とサングラスをキラリと光らせ、おまけに風呂敷をたなびかせ振り返る。

「なにを言っているのです。私もナマナマララゲを退治しに行きます。私も今日からブッパナサレンジャーの一員です。見てください、このサングラスとマントを」

 サングラスを人差し指でクイッと上げ、クルリと一回転して風呂敷をなびかせる。その仕草を見てジジイは呆れたように言った。

「まてまて、おめえが行ってもしょうがねえだろ。人質が一人増えるだけじゃねえか。よせよせ、ここで待ってろ」

「黙らっしゃい!」

 飛田の頭の先から出たような甲高い大声に、周りの人間は三十センチほどジャンプした。飛び過ぎたお絹はバランスを崩してジジイの頭に着地できない。なんとか肩に乗ったが上手く着地できずに、雪崩のようにジジイの体を滑り落ちると、雪だるまのように地面に転がった。

「私はこれでも警察官です。お二人だけを危険な目に晒すことはできません。横島署、いや日本の警察を代表して私もお供いたします。途中で銃弾に倒れようとも、爆死しようとも構いません。なぜなら、それが警察官としての本望だからです」

 飛田は俺たちに向かって親指と突き立てた。これは正しくヒーローボーズではないか。

 ジジイは感激したのか、目を潤ませて呆然としている。お絹は抱き上げてくれないので、ジジイの体をヨジヨジと懸命に登っている。やっと所定に位置の頭上に座ると、大きな赤い目をウルウルと潤ませバンバンと足を踏み鳴らした。

「いてえけどすごく嬉しいぜ飛田ちゃん。おめえは日本一の警察官だ。良し! おめえの心意気買った! ついて来やがれ!」

「はい!」

 お互いに見つめ合ったジジイと飛田は、飛ぶが如く横島署に向かって駆けてゆく。

「あっ、飛田くん待て……」

 警視総監の命令など全く無視して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ