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煩悩の塊

「へぇ~、おめえさんは警視総監なのかい。その焼きおむすびみてえなツラを見る限りは、警帽かぶるより捩じり鉢巻きが似合いそうなツラ構えしてるけどな。かかかっ」

 相変わらずジジイは、言いたいことをキッチリハッキリ言う男である。

 頭上でウサギを飼ってるジジイに言われたくないと思うが、おむすび棟梁はニコニコ笑っている。

「よく言われます。デスクワークをしているより、マグロ漁船に乗っているほうが似合っている顔だと。はははっ」

「ちげえねえ。そのツラの焼き具合は、潮風に晒されて天日干ししたみてえな焼き色だわな。警視総監は片手間で、本職はマグロ漁船の船長じゃねえのか。かっかっかっ」

「いやいや、大神様も人のことは言えませんぞ。ウサギを頭に乗せているおサル顔が神様だと知ったら、世界中の人間は驚いて腰を抜かすかもしれませんな。わっははは」

「亀公、おめえも言ってくれるじゃねえか。かっかっかっ~」

「大神様ほどではないですよ。わっはっはは~」

 意気投合したおむすびとおサルは、朗らかに大笑いしている。サルカニ合戦のお話は、おむすびが発端であった。サルとおむすびは昔から相性がいいのかもしれない。

 朗らかサルじいさんは、鼻の穴が丸見えになるほどひっくり返ってバカ笑いしていたが、突然真顔になると首を捻った。

「うん? なあ亀公、なんでおめえはおいらが大神だと知ってんだ?」

 確かにそうだ。ジジイが大神様だということは、内輪だけの秘密にしておこうと決めたはずだ。第一、言ったところでこの貧相なジジイが神様などと、簡単に信じる奴はいないだろう。だが、警視総監でもある常識人が、ジジイのことを大神様だと知っていた。

 大工の棟梁からマグロ船の船長までこなす警視総監の亀吉は、浅黒い顔に深い皺を刻みながら微笑んだ。

「私の弟から聞きました。大神様とジャックさんの事。それに、ナマナマララゲの件も全て聞きました」

「弟から聞いた? 誰だそりゃ」

 ジジイも負けじと眉間に皺を刻んで聞き返す。

「横島署の大森署長です。大森鶴夫は私の弟です」

「へっ」

 突然の告白に、ジジイと俺は目を丸くして見つめ合う。頭に乗るお絹の目も、心なしか若干飛び出したようだ。決して署長の名が、見たまんまの鶴夫だから驚いた訳ではない。あくまでも兄弟の告白に驚いたのだ。しかし、ジジイは「ツル、ツル」とごにゅごにゅ呟いているので、その件でも少しは驚いているようだ。

 ジジイは亀吉の顔をまじまじと見つめながら頷く。

「そうか。ツルリンはおめえの弟かい。そういやぁ亀公の名字も同じ大森だったな。亀公がおいらの正体もナマナマララゲの事も知ってるんじゃ話がはええや。なあジャック」

「うん」

 頷いてはみたが、果たして本当にジジイが大神様だと信じているのか、いささか疑問である。俺ですらこんなにジジイと四六時中一緒にいても、まさかこんな煩悩の塊のジジイが神様だとは未だに半信半疑なのだ。亀吉はジジイの名前が大神だと思っているだけかもしれない。

「警視総監さん、本人の前で言うのもなんですが、このしょぼくれたジジイが本当に神だと信じられますか? 自分勝手な上に根性もひん曲がってる、こんなに薄汚いジジイが大神ですよ」

 ジジイは俺をギッと睨みつける。お絹はうんうんと頷いたように見えた。

「がっはははは」亀吉がいきなり大きな笑い声を上げた。

「私はこの方が大神様だと信じますよ。何事も優れていて崇高なお方より、この様な人間臭い大神様で私は嬉しく思います。神様が本当にいるなら、上からの目線で見守られるより、私たち人間と同じ目線で見守ってほしい。そう常々思っていました。鶴夫に話を聞いた時は正直驚きましたが、すぐに信用することができました。弟は嘘をつけない正直な男なんです。あっ、ズラ以外ですが……」

「そうです! ズラのことさえなければ、大森署長は正直で正義漢溢れる、警察官の鏡のようなお方なんです。時には横柄な態度と言動はあります。それに飲みに行っても、一円までキッチリ割り勘にします。ですが、それも正直さ故、几帳面で生真面目な方であるからです。素晴らしく、いろんなところが輝いた警察官には変わりはありません。署長に髪さえあれば、パーフェクトな警察官です。ズラも愛嬌だと思って許してやって下さい」

 飛田が歯を剥きだして熱く語る。しかし、熱く語れば語るほど署長をバカにしているようにも聞こえる。それに、許すも許さないもないと思うのだが。これは上司に対する部下の、目に見えない鬱憤があるからだろう、か?

「飛田ちゃん、そう剥きになるな。剥くのは出っ歯だけにしておけや。そうかい、亀公はおいらみたいな神様で嬉しいのかい。ぐふふふ。まあな、おいらはおめえの言うとおりに、キッチリ人間の目線で見守っているからよ。おめえは良くわかってるな。さすがは警視総監にまで登りつめた賢い男であるわな。やっぱり賢い奴は違うね~。ジャックも見習えよ」

 ジジイがご満悦にほざいた。

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