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女子高生のよう頬を膨らます

 俺はなんとか立ち直り、ジジイも痛みは引いたようだ。ゴルフボールのタンコブは健在で、右手も若干腫れているようだが、タフガイのジジイなら問題ないだろう。一つ問題なのは、ジジイが横目でチラチラと、恨みがましい目を俺に向けてくる。ねちっこく生きる、が心情でそれを目標に掲げている恐ろしいジジイなのだ。これからは油断できない。引き締めて生活していかなきゃならんな、と固く誓った。

「それで大鉢さん、俺に話ってなんですか? どうせ大した話じゃないんでしょ」

 期待を裏切られたので半ば不貞腐れて言うと、大鉢は少し考える仕草をしてから口を開いた。

「話と言うのは……。君の弱点を聞こうと思ってね」

「弱点? なんで今さらそんな事を聞くんです?」

「それはあれだよ。警察は君をサポートしなければならない。弱点を聞いておかないと君になにかあった時、速やかに対処できないからね。君もそう思うだろ」

 大鉢は指を組んだ両手をデスクに置くと、グッとでかい頭と体を乗り出した。先ほどとは打って変わって穏やかに微笑んでいる。なんだか気持が悪いが素直に答えた。

「一番の弱点は由美子です。ご存じのように、由美子が寝なければ無敵になれません。無敵じゃない普段の俺は、自慢じゃないですけど、へなちょっこですからね。だからもし万が一、由美子が……」

 そこまで言って、先の言葉に詰まった。言葉に出してしまうと、現実になりそうで怖い。

 何も言えずに黙っていると、大鉢が躊躇することなく聞いてきた。

「鳥井くんが死んでしまうとどうなります? やはり君は二度と無敵になることは出来ない。そうですか?」

 大鉢の顔は、まるで感情のない能面のようだ。表情を崩さず、メガネの奥の目はじっと探るように俺を見つめている。

 金魚鉢のような頭のでかさと、インテリ風な縁なしメガネに威圧され、俺は戸惑いながらも頷いた。

「ええ、そうでしょうね」

「ちげえよ」

 横に座るジジイが俺を睨みつけながら言う。ジジイのご機嫌が直るのはまだまだ先のようだな、と、どうでもいい事を思いながら首を捻った。

「違う? どうしてだ? 由美子が寝ることで無敵になれるんだぞ。由美子がいなくなれば、呪文の効力もなくなるよな」

「だから、ちげえよ」

 不貞腐れた態度のジジイは、いつものように鼻の穴に親指と人差し指を突っ込む。そして、いつものように鼻毛をむしると、案の定いつものように、飽きもせずにブッと鼻毛を吹き飛ばす。このジジイは勿体ぶると鼻毛をむしる癖がある。困った癖と言うより、汚らしい癖だ。

「だから、なにが違うんだよ。鼻毛を引っこ抜く暇があるなら早く言え」

 それでもジジイは鼻毛をむしるのを止めない。続いてもう片方の鼻の穴に指を突っ込むと、豪快にごっそりと鼻毛をむしり取る。その豪快ごっそり鼻毛を、ブッと俺の顔に向かって吹き飛ばした。

「汚ねえなジジイ!」

 慌てて顔についた鼻毛を手で叩き落とす。ジジイは口をひん曲げて小憎らしい顔でニヤリと笑った。

「ざまあみやがれ。これで少しだけ溜飲が下がったぜ。けっけっけっ~」

 ジジイがニワトリを絞殺したようなバカ笑いを続けていると、ピッチョンが厳しい口調でたしなめた。

「大神様、笑っている場合ではありません。ジャックさんと由美子さんにとって、とても大事なことですよ。ふざけてないで、ちゃんと説明してください」

 きつく言われたジジイは、女子高生のようにプッと頬を膨らます。いや例えが悪かった。腐ったホオズキのようにグチョと頬を膨らました。

「元はと言えば、ジャックが悪いんじゃねえか。けっ、まあいい、ジャックはどうでもいいが、由美ちゃんの問題でもあるしな。説明してやっから、耳の穴かっぽじって良く聞きやがれ」

 ジジイは憎々しい顔をして、俺たち一人一人を順番にねめつける。特に俺と目が合うと、更に厳しく睨みつけながらアゴをしゃくる。ジジイはなにかを要求しているようだ。だが、理解できないので首を捻ると、ジジイは俺の耳を指差す。一瞬、耳毛でも飛び出しているのかと思ったが、すぐに理解できた。本当に耳の穴をかっぽじれと命令しているのだ。

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