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黒のパンティー

 お次はジジイを起こさなくてはいけない。ピッチョンのように手荒な起こし方をしたら、失神どころか本当に死んでしまうかもしれない。

 起こすのに一番いい方法を思いついた。白目をむいてひっくり返るジジイの耳元で囁く。

「由美子が黒のパンティーあげるってよ」

 ジジイはパチッと目を見開くと、

「ほんとか!」

 白目むいて倒れていたとは信じられないほど、俊敏な動作で跳ね起きた。さすがは失神に慣れているタフガイである。 

「どこだ! どこにある!」

 目を輝かせてキョロキョロしているジジイなど放っておいて、俺は急いで歩き出した。

「パンティーなんてあるわけねえだろ。横島署に戻るぞ。タクシーを拾うから、早く来い」

「てめえだましやがったな。淡い期待を持っちまった、おいらの心はどうなんだよ。純真な心をもてあそぶんじゃねえ」

 ジジイは後ろから文句を垂れてついて来る。俺は振り返ると、キッと鋭くジジイを睨みつけた。

「パンティーが欲しけりゃ、由美子の形見分けの時にいくらでも持ってけ」

「縁起でもねえこと言うんじゃ……あっ、いかん! こんなとこでグズグズしてる場合じゃねぞ。急げジャック!」 

 何度もクソにまで蔑まれたジジイではあるが、そこはやはり腐っても鯛、無責任でも神なのであろう。今やるべきことに気づいたジジイは、猛烈な勢いで走り出すとマントをはためかせて俺を抜き去った。と同時に、弾丸ダッシュの凄まじいGについていけないお絹は、ジジイの頭からスコーンと飛ばされて宙を舞う。

 俺は目の前に落ちる、一時の気の迷いで人生を翻弄されてしまった気だるい人妻三十八歳、といった感じでクルクル舞い散るお絹を抱えると、急いでジジイのあとを追った。

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