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余裕の笑み

 プッパナスレンジャーの三人衆は驚きのあまり口をパッカリ開け、唖然と立ち竦んでいると、必死に逃げる四、五人のおばさまたちがイノシシのように突っ込んで来た。

「どきなさいよ!」

 おばさまたちの怒鳴り声と同時に体当たりされ、三人は一瞬にして後ろにすっ飛ばされた。ブッパナサレンジャーではなくスットバサレンジャーになり、気持ちよく三メートルほど宙を舞う。仲良く一緒に尻から着陸すると、練習期間は一ヶ月でしたが息の合った演技ができるようになりました、と宣言しても恥ずかしくない後ろでんぐり返りを、三人揃って軽やかに華やかに決めた。おまけに、お絹もジジイの頭から振り落とされず、こちらはしなやかに力強くしがみついていた。

「イタタタタッ、いてえなちくしょう。尾骨で着地しちまった。イッテ~」

 ジジイはケツを両手で押さえ、地面をのたうち回る。それでもお絹は頭にしがみついている。ジジイの頭はニンジンの香りがするのかもしれない。

 主婦たちは全員無事に逃げ延びて、男の周りには誰もいない。数十メートル離れた場所で遠巻きに見ている野次馬たちは、固唾を飲んで静まり返っている。近くにいるのはブッパナサレンジャーだけだ。男から少し離れた場所で仲良く並んで尻餅をついている。

 男は右手の包丁を突き出して構えているが、体は酔っ払いのようにフラフラと前後左右に揺れていた。そして、獲物を探しているか、キョロキョロと忙しなく辺りを見回している。だが、男の動きがピタッと止まった。ジト~ッといった感じで、俺たちブッパナサレンジャーを凝視している。

 悶絶から解放されたジジイは不安そうに、

「おい、ここにいたら奴に刺さレンジャーねえのか?」

 などと刃物にビビってあっさり改名してしまうと、

「今ならまだ、逃げレンジャーないですか?」

 ピッチョンが改名の改名をしてしまう。

 俺は弱気な二人を励ますつもりで、ドンと胸を叩いた。

「二人とも心配するな。俺にかかれば奴なんか、簡単にぶっ放さレンジャーねえかよ。だから、このジャック様に任せておけ」

 何度も改名の危機はあったが、機転の利いた俺の軌道修正でその危機は乗り越えたのだ。ついでに、怖気づいている二人に向かい、フフフッなどと余裕の笑みまで見せてやる。

「ずいぶんと余裕じゃねえかジャック。おめえ今、無敵なのか? だったらはええとこ野郎をぶっ放してこい」

 ジジイが期待を込めた目で言うと、ピッチョンはヤレヤレと肩をなで下ろした。

「良かった。ジャックさんが無敵なら安心ですね。大事にならないうちに、すぐ男を捕まえたほうがいいですよ」

「あっ……」

 気づいてしまった。人に言われて気づくこともある。特にお調子者の俺は、そのようなことが多々ある。ヒーローの衣装を着ているので、調子のいい錯覚をしてしまったのだ。今の俺が無敵のわけがない。由美子が昼寝でもしているのならまだしも、あんなに張り切っていたのだ、今頃はバリバリ仕事をしているだろう。

 大見得切ったことを訂正しようと、頭をかいて照れ笑いを浮かべながら、

「アハハ、あのさ、実はさ――」

 とそこまで言いかけたが、ジジイにあっさり遮られた。

「おい、ぐずぐずしねえでとっとと、とっ捕まえろよ。なんだかあの野郎の目つきが変わってきたぞ」

「あっ、本当ですね。険しい顔で僕たちのほうを睨みつけてますよ。ジャックさん、早くお願いします」

 ピッチョンからも真顔で催促された。これは早いとこ真実を知らせなくてはいけない。どうもこんなに期待されていると、なんだか言いだし難い。

 だが、今ならまだ間に合うかもしれない。由美子に連絡をして、非常事態だから寝てくれと頼めばいいのだ。由美子なら二、三分もあればコロッと寝てしまうだろう。

「まあ二人とも、そう焦りなさんな。今連絡するから」

「連絡? 誰によ?」

 ジジイが怪訝な顔で聞くが、そんなのは無視して左ふくらはぎの辺りをまさぐった。家を出ると時、お金は靴の中に、携帯電話はウエットの裾からふくらはぎに捻じ込んである。ウエットはピッチリしているから落ちないのだ。

「誰によ?」

 しつこく聞いてくるジジイなど完全に無視して、ピチピチの裾から携帯電話を取り出した。だが、二つ折りの携帯電話を開いた瞬間、思わず「げげげっ」と声を出してしまった。

 ボロッと壊れているのだ。二つ折りの携帯ではなく、二つ離れ離れの携帯になってしまっているのだ。これは大鉢に無敵だと披露するために、何度も屋上から飛び降りた時に壊れたに違いない。

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