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ブッパナサレンジャー

「ずいぶんと賑やかであるな。あれあるか、お祭りの予行練習でもしてたであるか?」

 コントの中国人はこの喋り方、とお墨付きがつくアクセントで男は言ってのけた。その小柄な男のエプロンに、ペットショップ珍竹林と書いてある。自分の店の前であれだけの騒ぎがあったのに、これほど能天気にほざく奴はいないであろう。どんな人物かまじまじ観察すると、年はジジイと同じくらいで、顔の血色が良く赤ら顔で切れ長の目に細い髭を生やしている。これも正しくコントの中国人そのものだ。それに、背丈が俺の肩までしかない。なるほど、だからチンチクリンなのか。妙に納得してウムウムと頷いていると、ジジイがひょっこり店から出てきた。

「なんでえ二人とも、ヨレヨレじゃねえか。竜巻にでも巻き込まれたのか?」

 ふざけた言い草にムカッときたが、ジジイの頭の上を見て目が点になった。

「なんだそれ? 頭になにか乗ってんぞ」

 ジジイの頭の上で、白い小動物が鼻をヒクヒクさせている。ジジイは目線を上に向け、ニンマリと嬉しそうに笑った。

「どうでえ、可愛いだろ。オスかメスかわからねえけど、名前はお絹ちゃんだ。真っ白な毛並みが絹みたいだろ。おいらが名付けたんだ。まだ生まれて二ヶ月も経ってねえんだぞ。なあ、珍さん」

 珍竹林の珍さんは切れ長の目を波目に変えて、人懐っこそうに微笑んだ。

「そうあるよ。まだ生後四十日しか経ってないね。だから私も、オスかメスかわからないあるよ。でもあれあるよ、このウサギは凄くあんたに懐いているね。ゲージから出したら、すぐにあんたの頭に飛び乗ったあるよね。これは珍しいことよ。このウサギは人に懐かないから、どうしようと思っていたあるよ。ほんと、珍しことあるよ」

 珍さんは波目を見開いて丸くすると、感心したように何度も頷いた。

「そうあるか、そうあるか」

 ジジイは嬉しそうに笑う。

 オスだかメスだかまだ判別もできないのに、古風な女の名前を付けられたウサギのお絹は、絶妙なバランスでジジイの頭に乗っている。ジジイが頭を前後左右に動かしても、張り付いたように微動だにしない。署長のズラよりジャストフィットしている。

「このお絹ちゃんを連れてパトロールするんだ。あんな偉そうな鉢頭野郎より先に、おいらたちがナマナマララゲを見つけるぞ。なあ、お絹ちゃん」

 ジジイの呼びかけに、お絹は鼻をヒクヒクさせて応える。顔の表情に変化がないのでなんとも言えないが、懐いているのは確かなようだ。

「おいジャック、お絹ちゃんの代金千円を珍さんに払ってくれや」

「なんで? ジジイのペットだろ。自分で払えよ」

「か~っ、やっぱりおめえは細けえしケチくさい男だな。よく聞けよ。お絹ちゃんはペットなんて、そんな簡単なウサギじゃねえ。ナマナマララゲから地球を守る、ブッパナサレンジャーの一員なんだぞ。だから――」

「ちょ、ちょっと待て。なんだその、ブッパナサレンジャーって言うのは?」

「ブッパナサレンジャーは、おいらたちのチーム名よ。ナマナマララゲを地球の外にぶっ放すんだという心意気と、由美ちゃんが強力な屁をぶっ放してできたチームだから、それにかけたのよ。ブッパナサレンジャーは総勢五名だ。無敵のミラクルジャックを筆頭に、恐怖の眼光スリーププリンセス、それに――」

「待て。誰だスリーププリンセスって」

「いちいちうるせえ男だな。眠り姫は由美ちゃんに決まってんだろ。黙って最後まで聞いてろ。それにだ、死神のピッチョン――」

「え~っ、僕もですか?」

「うるせーっ! 黙って聞いてろって言ってんだよ。えっと、どこまで言ったっけ?……あっそうそう、ピッチョンが終わって次は、キュチィーラビットのお絹ちゃんな。最後においら、天上界から舞い降りた愛と正義の人、その名もヒップホールマン様よ。どうだ、そのブッパナサレンジャーのお絹ちゃんは一員なんだぞ。リーダーのジャックが支払うのはあたりめえじゃねえか。そうだろ」

 ジジイはアゴを突き出し、文句ありますかフンフン的な偉そうな顔をする。頭の上のお絹も、心なしか鼻のピクピクが偉そうである。

「ブッパナサレンジャーって……なんかもっとカッコいいネーミングはなかったのかよ。ぶっ放されるってあんた……」

 さすがの俺も、あまりに間抜けすぎるネーミングなので次の言葉が出ない。

「商談成立ね。支払いの方、よろしいあるか」

 珍さんが手もみをしながら俺に聞いてくる。

 まあ良い。ナマナマララゲを見つけるために買うのだ。今は立て替えておくが、必要経費として横島署に請求してやる。

 俺は右足のスニーカーを脱ぐと、中から裸の千円札一枚を取り出した。ピッチョンが不思議そうな顔で見ている。

「面白いところにお金を入れてますね」

「うん、ウエットにはポケットがないから」

 と、言ってはみたがそれだけではない。学生の頃にカツアゲをされないために使っていた手だが、この年になってもその癖がぬけないだけなのだ。ウエットではない普段着でも、ちょくちょく利用している。

「はい、千円。領収書の宛名は横島警察署でお願いします」

 千円札を差し出すと、珍さんは苦笑いをして受け取った。

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