正露丸
署長は鼻息荒く宣言したが、大鉢も正露丸を一粒舐めたくらいの表情で聞いた。
「しかし署長、そんな重大な隠し事をして、後で問題になりませんか?」
「心配などしなくてもいい。全て私が責任を持つ。本庁どころか、マスコミの前で土下座してもいい。この事件の解決と世界の人たちが幸せに暮らせるなら、私の警察官人生を全て失っても構わない!」
署長は興奮して声を張り上げた。
土下座をするということは、ズラがポロリと落ちるのを署長もわかっているはずだ。公衆の面前でその覚悟があるのだから、相当な決意をしているのだ。ひた隠しにしていたズラの事実を公表する心構えがあるとは、実にあっぱれなズラ署長であるな、などと素直に感心してもいいのか……?
大鉢がさも感心したように大きく頷いた。
「さすがは署長。そこまでのお覚悟なら、なにも異論はありません。署長の英断なのですから、私は従うしかありません。その方向で進めましょう」
署長のズラポロリの覚悟など眼中になく、責任逃れができてヤレヤレの顔をしている。
臭い物に蓋をする、謝罪にはズラポロリ、そこまで地に落ちた天上界のジジイとピッチョンは顔を見合わせて薄ら笑いを浮かべると、背中を丸めて深くため息をついた。
「残る問題は、警官にウサギを持たす事の理由付けですが、署長なにかいい案はありますか?」
大鉢がヤレヤレ顔から正露丸一粒顔に戻って聞くと、署長も正露丸一粒半ほどの顔になった。
「理由か……。飛田くん、長内くん、鳥井くん、君たちなにかいい案はないかね」
話題をふられた三人はブルブルと首を振った。
横島署五人衆が思案にふけり、署長室が水を打ったように静まり返るなか、ピッチョンがまたもや名誉挽回とばかりにスパッと手を挙げた。
「こんなのはどうでしょうか。狂犬病のように、感染すると凶暴になる新種のウイルスが発見され、そのウイルスはなぜかウサギを嫌い、感染された人間が見ると顔つきが変わる。と言うのはどうですか?」
ピッチョンの説明を聞いて、大鉢は大きい頭を揺らすと顔をほころばせた。
「いいじゃないですか。ウイルスだとはパニックが起こりかねないので世間には公表できないが、警察内部だけの極秘事項として進めれば問題ない。本庁にも上手く説明できそうだ。ピッチョンさん、助かりました」
「いえいえ、大したことは言ってませんから」
ピッチョンは謙遜しているが、名誉挽回ができて嬉しいのか白い歯をキラキラさせて笑っている。それとは逆に、ジジイの顔は正露丸の粒どころか、瓶の中身を丸ごと口に詰め込まれたような面構えをしている。
「けっ、死神のくせに人間に懐きやがって」
なんとも小憎らしいジジイの嫌味な発言。
ピッチョンは申し訳なさそうに俯いてしまった。由美子はその姿を見てかわいそうに思ったのか、ギョッとするほど鋭い視線でジジイを睨みつける。ジジイはアワアワと震えると、ソファーでタヌキ寝入りを決め込んだ。それでもまだアワアワと震えている。
大鉢はそんなアワアワなど無視して声を弾ませた。
「問題は解決しました。これから忙しくなりますね、署長」
「そうだ。横島署の底力を本庁に見せてやろうではないか、大鉢さん」
二人はガッチリ握手を交わし、やる気満々の顔で見つめ合った。




