死神の仕事
突然の予期せぬ告白に、シ~ンと静まりかえる署長室。
だが、真実を知らせれて驚いているのではなさそうだ。どの顔も目が点になり、口を半開きのまま固まっている。くだらな過ぎて呆れ返っているのだ。
「いい加減にしないか」
我に返った大鉢が、不服そうに声を荒げた。
「あなたたちはなにを言ってるんだ。私は冗談に付き合っているほど暇じゃないんだ。おふざけはもういいから、ちゃんと説明したまえ」
大鉢の怒りを含んだ声に、他の連中も呆れ返った呪縛から解かれたようだ。大鉢の意見に、うんうんと渋い顔で相槌を打った。
仲良しの署長からも、
「ホールさん、ふざけないでください。こちらは真面目に質問しているのですよ」
厳しい表情で釘を刺される。
真っ赤になって照れていたジジイも表情が一転した。唇を突き出してふて腐れた顔をすると、隣にいるピッチョンに耳打ちする。黙って聞いていたピッチョンは、「わかりました」と頷いた。
ジジイはなにか企んでいるような顔で小憎ったらしく口をひん曲げると、卑しい感じでニヤリと笑う。
「どうやらおめえたちは、大神のおいらを怒らせちまったようだな。上等じゃねえか。ピッチョンが死神だって、ちゃんとした証拠をみせてやるよ」
ジジイは横島カルテットの面々を、一人一人じっくりと見回すと、
「おめえら覚悟しろよ……。行けやピッチョン!」
天井に向かって人差し指を突き立てる。と同時に、ピッチョンがパッと煙のように消えた。
「あっ」
これには俺もおったまげた。ピッチョンが座っていた所がぽっかり空いている。
横島カルテットも、目ん玉が飛び出るほどビックリしている。
「どうでえ驚いたか。でもな、まだまだ驚くのはこれからだ。さっきも言ったように、ピッチョンは死神だ。ジャック、死神の仕事はなんだか知ってっか」
ジジイは嬉しそうな顔で聞いてくる。
「死神の仕事? 死神っていえば、人間にとり憑いて殺すんじゃないのか?」
「そうよ。それが死神だ。今ピッチョンは、自分の仕事をしに行ったのよ。それも、すぐ近くにな。けっけっけっ~」
ジジイは気色の悪い笑い声を上げ、ソファーの上で胡坐をかいた。牢名主のように胡坐に両肘をつき、グッと上半身を前に倒す。更に、ガラの悪そうなサル顔を前面にグググッと押し出すと、横島カルテットの面々は怯えた表情で体を後ろに反らした。
「おい、おめえら!」
いきなりジジイが大声を出したので、横島カルテットは、「ひっ」と叫んで体を硬直させた。
「ピッチョンが仕事しに来るのはこの署長室よ。おめえらの中の一人にとり憑くためにな。署長、おめえかも知れねえぞ。それとも、大鉢のタコかもな。飛田と長内も油断すんじゃねえぞ。さぁ~、誰かね~。おめえか、おめえか、おめえか」
ジジイはニタニタしながら、一人一人の顔をビシビシと指を差す。指された当人は、ビクビクと体が震えている。
「まっまさか……そんなバカな……」
でかい頭をプルプル震わせた大鉢は、ずり落ちたメガネを直すゆとりがない。それは署長のズラも同じことだった。
「さて、そろそろピッチョンが来る頃だな。けっけっけっ」
ジジイの鳥を絞め殺したような笑い声が終わると同時に、
「迎えに来ました」
ピッチョンの声が聞こえた。
『げっ』
喉を詰まらせたような、小さな叫び声を同時に上げた横島カルテットの面々は、あたふたと辺りを見回す。だが、ピッチョンの姿はない。
「おっ、来たなピッチョン。はええとこ、連れて行く奴の肩を叩いちまいな。けっけっけっ」
『ヒィ~ッ!』
横島カルテットの恐怖は最高潮に達した。頭を抱え、ガタガタと震えている。
「ギィーヤァーッ!」
突然、大音響の悲鳴を上げた大鉢は、白目をむくと口から泡を吹いてぶっ倒れた。傍らに、ピッチョンが気の毒そうな顔で突っ立ってる。
「ざまあみやがれ。いい気味だ。かっかっかっ~」
ジジイの大音響のバカ笑いが、部屋中に響き渡った。




