不思議カルテット
会議室の大きなテーブルには、横島署カルテットと俺たち不思議カルテットが向かい合って座った。
席に着くなり、大鉢は両手をテーブルにつけ、でかい頭をグッと俺たちに近づけた。あまりのでかさに、不思議カルテットの面々はグッと体が仰け反る。俺たちの顔を一人一人舐めるように睨め付けると、ゆっくりと背もたれに体を預ける。
「昨日のことは、今日、署長から報告を受けた。私は昨日まで、ニューヨーク市警の視察で留守だったのでね。私がいれば、あんな大きな事件にならなかったのに。君たちは大変な騒ぎを起こしてくれたもんだよ。署長、あなたもあなたです。こんな得体の知れない民間人に事件の解決を任すなんて、どうかしています。近日中に、査問委員会を開きますからね。覚悟してください」
でか頭がズラ頭を睨みつけ、ビシッと言い放つ。ズラ頭はズラが滑り落ちそうなほどこうべを垂れた。
「すみません……しかし、説明したように彼らには特殊な能力がありまして……そのお蔭で事件の早期解決ができたような次第で……」
「特殊能力? ふん、そんなのは何かのトリックに決まってるじゃありませんか。そんなことを信じるなんて、署長の頭はどうかしてます」
頭と言われ反応したのか、署長は咄嗟にズラをピチッと直す。
ジジイが、「チッ」と大げさに舌打ちをした。
「おめえはグダグダとうるせえ男だな。証拠見せてやりゃいいんだろ。おいジャック、やったれや。ズバッとドカンと屋上から落っこちてやれや」
おう、と俺は元気に返事をしようとしたが、由美子が間髪入れずに返事をした。
「わかったわ! すぐに寝ちゃう」
由美子は急いでテーブルにうっ伏した。
全員「あっ」と同時に声を発し、急いで立ち上がった。だが、若干一名は突然の行動にキョトンとしている。
「皆さん、どうかしました?」
何も知らないピッチョンが首を捻る。
「ちょうどいい。ピッチョン、おめえはここで由美ちゃんがちゃんと寝ているか確認のために残れ」
ジジイが早口でまくし立てると、
ウゴ~ッ、ウゴ~ッ
早くも由美子のいびきが始まった。
「もう寝たか。ピッチョンさん、俺の携帯を置いていきます。あとで由美子が寝ているか、確認の電話をしますからお願いします」
俺が慌てて携帯電話を差し出すと、ピッチョンはますます首を捻って受け取った。
ギリッ、ギリッ、ギギギギッ
「き、危険だぞ。すでに歯ぎしりに突入してしまった。みんな、急げ!」
署長の合図と共に、我先とドアに向かって駆け出した。
狭いドアに、脱出をしようとオヤジたちが群がる。ドアの隙間は団子状態のふんづまり状態になり、オヤジたちの怒号が飛び交う。
床に倒れる飛田はジジイの脛に噛み付き、ジジイは悲鳴を上げながら署長のズラをむしり取り、署長は半泣きで大鉢のでか頭をヘッドロックで決め、その隙に脱出しようとする長内のケツを大鉢が蹴り飛ばす。さながら、阿鼻叫喚の地獄絵図といった感じだ。
それでも、一人また一人と、なんとかポンポンと外に弾き出された。由美子の屁など効かない無敵の俺が最後に出て、余裕綽々とドアをキッチリ閉める。ズタボロ状態のオヤジたちは安堵のため息をついた。
過酷な世界にピッチョン一人を置き去りにして、後ろ髪引かれながらも俺たちは署長室をあとにした。
ブッ! 遠くから悲しみの破裂音が聞こえた。




