ヒーローインタビュー
俺は床に散乱した鼻毛を、コロコロで粘着させながら首を捻った。
「報告に来る奴がいる? 誰だよ。ジジイの知り合いの神様か? これ以上このウチに鼻毛を撒き散らす奴が来るのか? 勘弁してくれよ」
コロコロについた鼻毛を三本確認して顔をしかめると、ジジイは嬉しそうに笑った。
「神様は神様だけどな。来る奴は、死神だよ。かっかっかっ」
「しっ、死神!」
俺が素っ頓狂な声を上げたと同時に、
「お~っ! 昨日の事が映ってるぜ!」
ジジイがテレビを指差し叫んだ。
テレビのニュース番組に映っているのは、フラッシュを浴びながら俺とジジイが銀行から出てくるところだった。
爆発アフロヘアーにサングラスをかけ、穴だらけのウエットスーツ姿の俺。その後ろからおそろいのサングラスをかけた、貧相なサルジジイがヒョコヒョコついて来る。
俺たちを取り囲んだレポーター連中が、絶叫に近い声で矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「銀行内でなにがあったのですか!」
「凄まじい爆発音でしたが、ケガ人はいませんか!」
「あなたたちは何者ですか!」
「なぜそんな格好をしているのですか!」
俺は少し俯きながら中指でサングラスをクイッと持ち上げ、もったいつけてからゆっくり顔を上げる。その仕草を逃すまいと、一斉にフラッシュがたかれた。
バシャバシャバシャと、けたたましく鳴り止まぬシャッター音の中で、俺は口をひん曲げニヒルに笑った。そして声のトーンを落とし、渋く呟いた。
「俺の名はミラクルジャック。そして、こいつは相棒の……」
最後まで言わずにジジイに顔を向ける。ジジイは小さい体を精一杯ふんぞり返し、ついでにアゴもグイッと突き出す。テレビ画面いっぱいに鼻の穴を全開にさせたジジイが、晴れ晴れとのたまった。
「おいらはヒップホールマンだ。よろし――」
と、そこまで言いかけた時、
「はいはい、終わり終わり。詳しい事は署で記者会見を開くから」
デルデルデッパの飛田がしゃしゃり出たて来た。フラッシュの光で出っ歯を輝かし、俺たちとレポーターの間に両手を開いて割り込む。
「さあ、彼らを連れて行きたまえ」
飛田に指示された八人の警察官は、俺とジジイの両手両足を掴んで持ち上げた。
「あっ、待て。まだヒーローインタビューが終わってねえよ!」
「これからがおいらたちの見せ場じゃねえか!」
俺とジジイは悲痛な叫び声を上げ、手足をジタバタして抵抗するが、フラッシュの瞬く中を担ぎ上げられたまま強制的に連行されて行く。
その哀れな姿を映し出すテレビ画面をジッと見て、ジジイは寂しそうに辛そうに呟いた。
「なんだかみっともねえな……」
テレビに無様な姿を晒し、横島署に強制連行された俺たちは、飛田と大森署長に食ってかかった。のだが、
「黙れぬけ作とジジイ! あんたたちのお陰で、銀行がメチャクチャじゃないの。少しは反省しなさい!」
寝起きで機嫌が最悪な由美子のカミナリが落ちた。俺とジジイは何も言い返せなかった。ただただ、下唇を突き出しふくれっ面をしている他に、なんの反抗もできなかった。
署長は、俺の爆発アフロヘアーとボロボロになったウエット、それに、ジジイのヨレヨレ状態に気を使ったのだろう。
「病院に行って精密検査を受けてください。検査が終わりましたら、今日はお疲れでしょう、そのままご自宅に帰って結構です。報道陣もうるさいですから。ですが、明日は署に来て説明してください」
と言われ、俺たちは帰された。