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ポンコツ

 カーテンの隙間から、キラキラと朝日が差し込んでいる。時計を見ると、午前八時。

 実に目覚めの良い朝だ。

 いつもの朝なら、由美子の殺人的ないびき、歯ぎしり、寝言に屁のせいで、寝不足と疲労困憊でヘロヘロのはずなのだが、無敵になっているお蔭でまったく気にならなかった。

 無敵バンザイなのである。

 清々しい目覚めができ、尚且つ昨日のことを考えると、もう朝っぱらからルンルンモード全快なのである。

 非番の由美子は口を全開におっぴろげ、おまけに薄気味悪く薄目を開けて熟睡している。

 そんな薄らみっともない由美子の寝顔でも、

「今日もかわゆいよハニーたん。チュッ」

 などと機嫌良く、新婚さんいらっしゃいモードでデコにキスをすると、軽やかに俊敏にベッドから降りた。

 そして、踊るように寝室のドアを開けた。

 なんと、ジジイがリビングのソファーで短い足を組み、小指を立てながら優雅にコーヒーを飲んでテレビを観ている。

「グッモーニーン」

 コーヒーカップをかかげ、清々しい朝を台無しにするぐらいの小汚い笑顔を見せた。

「なっ、なんでジジイがウチにいんだよ」

 魅せられて、よりも、小汚い顔を見せつけられて愕然としてしまった。

 ジジイは愕然としている俺を無視するかのように、ズズズッとコーヒーを一口汚らしくすすり上げると、またしても小汚い顔を見せつける。

「なんでもヘチマもねえよ。おいらはしばらくここで暮らすことになったのよ」

「へっ? そんなこと俺は知らねえぞ。勝手に決めんじゃねえ」

「ふん、勝手になんか決めてねえよ。昨日、おめえが早く寝ちまってから、おいらは由美ちゃんと話したんだよ。悪党を退治するまで、ジャックと離れないほうがいいってな。そしたら由美ちゃんが、だったらウチで暮らせば、って言ってくれたんだ。一部屋空いてるから神様はそこで寝てね、ってかわいい顔で言ってくれたんだよ。どうだ、なんか文句があるか。ここは由美ちゃんのウチだろ。おめえが文句を言う筋合いじゃねえよな」

「ううっ……」

 確かに、このウチは由美子が借りたマンションだ。それに、バイトの俺は家賃の三分の一しか払っていない。悔しいかな、強く文句を言う権利はない。

 これからは神様なのに人間以前にサルよりも劣る、鼻毛しかむしることしか能のないポンコツジジイの介護をしながら暮らしていかなければいけないのか……。

 清々しい朝が、どんより曇った憎々しい朝になってしまった。

 だが待てよ。ジジイはしばらくと言っていた。悪党を退治するまでの短期間なのだ。

「ジジイ、悪党ってナマナマララゲのことだよな。他に何匹いんだ、奴らは?」

 俺は冷蔵庫に向かいアゴをしゃくった。ナマナマララゲはビニール袋に突っ込んだまま、冷凍庫に保存してある。

「ああ、その事ならおいらの知り合いが報告に来るから、その時にわかる。時機に来るんじゃねえかな。ズズズッ。プッ」

 ジジイはコーヒーをすすりながら、器用に鼻毛までむしって吹き飛ばす。このジジイの鼻毛はどれだけ伸びきってんだ? 

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