表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/95

木偶の坊

 すぐ二メートルくらい前にだいちゃんがいる。こりゃいいわい。目線がだいちゃんと一緒だと、背が高くなったようで気持ち良い。

「やっと出てきやがったな」

 だいちゃんは相変わらず険しい表情だ。そんなことに臆することもなく、俺も相変わらずズイッと胸を反らす。

「待たせたな。ほら、返してやるぜ。何度でも爆破させるがいい。ブゥワハハハハ~」

 先ほど火を消したダイナマイトを、だいちゃんの足下に投げつけた。だいちゃんは怪訝な顔で拾い上げると、首を傾げて俺を見つめた。

「なんでお前は銃で撃たれても、ダイナマイトの爆発でも平気でいられんだ? 人間じゃねえのか?」

「俺か? 俺は無敵だからよ。お前たちを成敗するために、無敵になったのよ」

 じっと俺を睨んでいただいちゃんは、はっとした顔をする。だが、すぐに険しい顔になった。

「お前、俺の正体を知ってるな」

「しらいでかい! 俺は正義と真実、おまけに愛の人、ミラクルジャックたぁ俺の事よ。だいちゃんのどたまから、ナマコのおめえを引きずり出してやるから、覚悟しやがれ!」

「なんでお前が知ってんだ! あっ、まさかお前、天上界の……」

 だいちゃんが初めて見せる驚愕の表情。三白眼の目が、ビックリ眼になって今にもこぼれ落ちそうだ。とその時、

「くわぁかっかっか、くわっかっかっかっかっかっ」

 ニワトリを絞め殺したような笑い声が、けたたましく辺りに響き渡った。

 だいちゃんは何事かと、辺りをキョロキョロ見回す。後ろを振り向くと、笑いの主を見て首を捻った。

「なんだ?」

「おいらが教えたのよ。かっかっかっ」

 だいちゃんの後ろ数メートル後方のカウンターの上に、ジジイがふうぞり返りながら高らかに笑っている。ふんぞり返ると言うより、農家のじい様が野良仕事を終え、「今日はちかれたな~」と腰を伸ばし、空を見上げてホゲ~ッとしているような、ちかれたび~の姿なのだ。

 そんなちかれたび~のジジイが、なおも続ける。

「やい木偶の坊、耳の穴かっぽじって良く聞きやがれよ。か弱きおじいさんは仮の姿、謎のじいさんと人は呼ぶ。しかし! その実体は、世の若いお嬢さんを虜にする、ヒップホールマンたぁおいらのことよ。でもな、もう一つ真実の姿があんのよ。ここからが最も大事なところだ。かっぽじった耳を、もっと奥までかっぽじってよく聞きやがれ!」

 ジジイはゆっくりと大げさに腕組みすると、大股開いて爪先立ちになる。大きく見せようとがんばっているが、いかんせんご老体。爪先立ちでフラフラしている。あっちフラフラ、こっちフラフラ、落ち着きのないジジイだ。それでもフラフラを止めようとしない。

「いいか良く聞けよ。全世界の創世者、大神様たぁ~おいらのことよ。かっかっかっかっ」

 よせばいいのに、爪先立ちでふんぞり返る。

「ありゃ……」

 ドン! ガンガラガン!

 ほら、言わんこっちゃない。けたたましい音と共に、後ろに引っくり返り、カウンターの向こうに消えてしまった。向こう側に落ちたので、ジジイがどんな格好でコケまくったかは定かではない。だが、あのコケかたでは、さぞかし痛かろう。

 成り行きを見守っていると、向こう側からプルプル震えた片手が現れた。

 プルプル震えながら、ガッチリとカウンターの上を掴む。かなり力を入れているのか、掴んだ手がプルプルからガクガクと、切ないくらいに踏ん張っている。フワフワした白髪がゆっくりと見えてくると、遂に苦悶した表情のジジイの顔が現れた。両手をカウンターにつけ、ズルズル這いながらよじ登ってくる。ナメクジのようにヌメヌメとよじ登り、右足、左足と順番に上げ、死力を尽くしてカウンターの上までたどり着いた。一旦、うつ伏せで休憩。ゴロンと仰向けになると、ヨレヨレと右手を上げる。

「ジャック……あとは……任せたぜ……」

 グッと親指を立てたのを最後に、ガクッと力尽きてしまった。

 まったく忙しいジジイだ。笑ってほざいて落っこちて。一体なんのために出てきたのやら。おとりの役目もへったくれもねえだろそれじゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ