成敗
そんなかっちょ悪い状況をだいちゃんに悟られてはならん。急いで右手を大きく振りかぶり腕を振り下ろすと、人差し指をだいちゃんにビシッと突きつけた。
「貴様を成敗いたす!」
とっさに出た言葉が、時代劇のようになってしまった。言っちまったものはしょうがない。言い直すのもこっぱずかしい。このまま突き進めるほかないのだ。
「極悪非道の限りを尽くし、世の民を恐怖に貶めるたぁ、不届き千万。お天道様が許しても、おいらは許しちゃおけねえ。このミラクルジャックが成敗いたす! 覚悟しやがれ!」
決まった。のか? だいちゃんは銃を構えたまま、目をパチクリさせている。
むむっ……勢いだとはいえ、なんか恥ずかしい。顔どころか耳まで赤くなった感じだ。顔がポッポポッポ火照ってしまう。
「そ、そんな感じだから覚悟しろよ。ヤーッ……」
今さらウルトラマンのファイテングポーズなど、遅いかも知れんな。今回の失敗は失敗として十分反省し、今後の課題にしよう……。
「なにを訳のわからねえこと言ってんだ! 死ねバカヤロウ!」
バン! バァン! だいちゃんが立て続けに銃をぶっ放した。
「おっ、ごっ」
肩と胸に当たり、衝撃はあるが痛くない。それに今回は慣れたもんだ。よろめいただけで、両足で踏ん張った。ニヒルに髪をかき上げ、その手でサングラスのフレームを摘み、ゆっくり横ちょにずらしながら外した。
「効かねえよ、そんなもんは。へへへっ」
だいちゃんは動揺しているようだ。猟銃のあちらこちらを、舐め回すように確認している。一通り確認し顔を上げると、眉間に皺を寄せて首を捻った。
「な、なんでだ?」
俺は目を細めてだいちゃんを見ると、口をひん曲げて笑ってみせる。
「へへっ、今度はこっちから行くぜ。とりゃ!」
サングラスを横に放り投げると、疾風の如くだいちゃんに突進した。
だいちゃんはいきなりの行動に、はっとして立ちすくんでいる。チャンス到来とばかりに、だいちゃんの一歩手前で華麗にジャンプ。空中を飛び跳ねたまま、二メートルの高さにある頭めがけて右手を伸ばす。
「いただき!」
叫んだと同時だった。俺の横っ面を、だいちゃんが猟銃の柄でぶっ飛ばした。横にすっ飛ばされ、洗面台のカガミに頭から激突。
ガシャン!
なんのなんの、痛くも痒くもないやい。すぐに体勢を立て直し、再びだいちゃんの頭に飛びついた。だがヒラリとかわされ、二度目の横っ面ボンバーを見事に食らう。今度は床にビタンと派手に叩きつけられた。とっさにフンガッと起き上がり、低い体勢でだいちゃんの腹にタックルをお見舞いする。が、後頭部にゲンコツをお見舞い返しされた。床に這いつくばっていた体を、四つん這いにした途端、だいちゃんのつま先が目前に迫った。眉間に突き刺さり、サッカーボールよろしく、簡単に弾き飛ばされる。仰向け状態で宙を飛び、便所の外まですっ飛ばされた。
なんというバカ力。でも痛くないもん。平気な顔で立ち上がると、だいちゃんの怒りが爆発した。
「てぇんめーっ! いったい何者なんだてめえは! もう頭きた」
だいちゃんは体につけたダイナマイトを一本むしり取った。ポケットから百円ライターを取り出すと、導火線にすかさず着火。バチバチ火の点いた導火線を見て、だいちゃんはニヤリと笑った。
「ヒヒヒッ、これで終わりよ。ほれ」
ポンとダイナマイトを投げると、便所の壁に素早く隠れる。宙を舞っていたダイナマイトが、バチバチ音をたて俺の足下に転がった。
むむむ……これは初体験。気持ちのいい初体験でないことは、見ただけですぐに分かる。とりあえず逃げておこう。背を向けた瞬間、
ドッガァーン! 眩い閃光と共に、爆風で体がぶっ飛ばされた。
「ウッホ~」
今日は実によく飛ぶ日だ。
飛行距離も十分で、走り幅跳びなら世界新を出していただろう。爆風の勢いで着地が上手くいかず、床に倒れるとゴロゴロと転がった。飛んで倒れて転がって、気がつけば窓口カウンターまでたどり着いていた。




