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半べそ

 よし来い。と思ったが、確認の義務を怠るのはいかん。由美子の状況をきっちり確認しなくちゃいかん。

「ちょっと待った!」

「なんだと」

「いいからちょっと待て」

 右手を突き出し、左手で耳につけたイヤホンを押さえた。

 が、ない! あっ、うんにょの時にウエットを脱いだので、どこかにいってしまったのだ。左手で素早く体をまさぐると、腰につけてある大元の機械はある。そこから線でイヤホンはつながれているはずだが。左手一丁で体をまさぐるが、どこにあるのか分からない。片手だけなどと、悠長なことなどしてられぬ。だいちゃんを制してしたことなど無視して、両手で一生懸命がんばって体中をまさぐった。

「どこだどこだ。ないない、ないぞ。こんちくしょうめ~」

 本日二度目の半べそ状態。

 しかし、薄っすら涙がこぼれた時、ウエットの首筋に引っかかっているイヤホンに手が触れた。

「おぉ~っ、あった。良かったよ~」

 だいちゃんは首を傾げて見ているが、そんなのは眼中にない。急いでイヤホンを引っ張り出し、グリグリと耳の穴に押し込んだ。

 恐らく飛田のことだ。由美子が起きたのならば、こちらが聞こえていようがいまいが何かを言ってくれるはずだ。期待を込めて耳を澄ました。

『しかし署長。グオー ジャックさんは偉いですね。グオーグオー 鳥井くんみたいな彼女と一緒に住むなんて。ギリッギリッ 私はね署長……彼のことを思うと……ギリッギギギッ 同情して、グスン、涙が……署長のズラ持ってこーい! 涙がとめどなく……ぶっ! こびょれへくるんへずにょ……』

 ありがとう……飛田さん……

 良し! これで由美子が寝ていることは分かった。無敵とわかりゃだいちゃんに突っ込んで、ギッタギタのボッコボコにするまでの話よ。

 キッとだいちゃんを睨みつけ、飛び掛ろうとした瞬間、

 バァン!

 だいちゃんの持つ猟銃が火を噴いた。

 俺は腹に衝撃を受け、後ろに吹っ飛ばされた。体は宙を飛び、数メートル後ろの壁に激突する。

 ドガッ! と叩きつけられた後、ストンと床に落下。

 一瞬のことで、なにがなんだか分からなかったが、焼け焦げた腹を見て悲鳴を上げた。

「なんじゃこりゃ!」

 と叫んでみたが、遠い昔、誰かが同じような言葉を叫んでいたな、となぜか冷静に分析できた。冷静にいられたのは、腹の焦げ目はウエットを焼いただけだし、もちろん痛みもないからであろう。二度高いところから落ちた体験は、無駄でも伊達ではなかったのだ。銃で撃たれても無敵だと証明された。いい加減なジジイだが、やるときはやると証明された。

 もう俺には、怖いものなどないのだ。

「ふっふふふふふふっ」

 俺はうつむいたまま肩を揺らし、余裕の含み笑いをかました。

 そして、もったいぶったように、右手左手と順番に床に置き、「ふふふっ」と含み笑いでゆっくり立ち上がった。

「なっなんだお前、生きてんのか?」

 だいちゃんのビックリした声が聞こえる。

「ふふふっ」

 うつむき加減で立つ俺は、余分な力など入れない。春風がそよそよと洗濯物を揺らすような、そんな自然体の立ち姿なのだ。実に粋な立ち姿なのである。自画自賛をしても、誰も文句のつけようのない姿なのである。

 前髪など片手で軽くファサとかき上げ、ずれたサングラスをチャッとかけ直し、ニヤリと余裕の笑みで顔を上げた。

「ふふふっ、そんなもんじゃ俺は殺せねえよ。そう、このミラクルジャックをな。グワッハハハハハ、グワッハハハハ~」

 両手を腰に当て、ズイッと胸を反らす。ここぞとばかりに、ふんぞり返るだけふんぞり返る。だがクラッと立ちくらみ、後ろに倒れそうになった。ヨロヨロと後ろにニ、三歩後退したが、なんとか踏ん張り立て直した

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