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芋虫

 数分して、一人の警官がコンビニの袋を両手に抱えてやって来た。

「買って参りました」

 警官がパンパンになった三つのコンビニ袋を差し出した。

 俺は袋を受け取るが、ウエットスーツを着てコンビニの袋を持つ姿はまるで、浜辺でバカンスを楽しむための買出しみたいだ。

 シャッターの隙間から、またプーやんの顔が見えた。顔を右半分だけ出して覗いてる。人差し指をクイクイさせているから、戻って来いと言っているのだろう。

「じゃあ戻ります」

「気をつけて。作戦が決まったら連絡します。それまでは、くれぐれも無茶はしないで」

「フフフッ、それはどうかな。ヒーローには無茶が付き物ですからね。フフフッ」

 ニヒルに含み笑いを決めて、シュパッと飛田に背を向ける。そして、右手の拳を空に向かって突き上げた。見よ、これがヒーローポーズじゃ!

 オォ~ッ!

 大歓声の中、両手にコンビニの袋を抱えると、フグのプーやんが待つ玄関へと駆け出した。


 支店長を解放してからは、さらに緊張感がなくなった。

 ソファーに座り和やかに談笑などしながら、ビールとつまみをかっ喰らっている。

 だが、この宴会に参加していないのが一人いる。ジジイが芋虫状態のまま、いびきをかいて寝ているのだ。夜の夜中に突然来て、一睡もしないでビールを飲んでいたから無理はない。おばさんを外に連れて行き戻った時には、すでに気持ち良さそうに寝ていた。

 俺もだらしない格好でソファーに寝そべり、眠い目を擦りながらビールを飲んでいる始末だ。

「で、おまえらこれからどうすんだ? 車とかヘリコプターを要求して、最終目的は海外にでも高飛びか?」

 俺の質問にプーやんは力の限り全力で首を振り、ほっぺもぷるぷる振るわせる。

「そんなそんなそんな、そんなとこ行かないよ。俺もだいちゃんも、外国語しゃべれないもん。行くわけないじゃん。脅かすなよ」

「じゃあどうすんだよ。ここに居続けるわけにもいかないだろ?」

「そうだけど……う~ん……」

 プーやんは腕組すると、下唇を突き出して首を捻る。上目遣いで天井をキョロキョロ見て、足りない頭で一生懸命考えているようだ。 

「ヒィ~ヒヒヒッ」

 だいちゃんがいきなり甲高い声で笑い出した。背中を丸めてうつむいているので表情は分からないが、肩を小刻みに上下に揺らしヒクヒクと笑っている。

 薄気味悪い笑い声なので、プーやんは驚いた顔をしている。

「だいちゃんどうした、酔っ払ったのか?」

 顔を上げただいちゃんの人相は、別人のように変わっていた。

 だいちゃんは目を三白眼にし、薄ら笑いを浮かべゆっくり辺りを見渡す。その顔は、先程までのボケ顔とは比べ物にならない。丸っこかった顔もシャープになり、泥棒ヒゲも極悪人の無精ヒゲに変化している。鋭く卑しくふてぶてしく、正にこれぞ悪役だ、と宣言している顔だ。

「怖いよ、だいちゃん……」

 怯えるプーやんに向かって、だいちゃんは歯を剥き出してニヤリと笑った。

「みんなぶっ殺してやるのよ」

「だっ、ダメだよそんなことしちゃ。お金取るだけ――」

 ゴォン!

 だいちゃんはプーやんの後頭部を、おもいっきりゲンコツでぶっ叩いた。ソファーに座るプーやんは前に吹っ飛び、ジジイの寝ているとこまで飛んで行く。

 ゴン!

 今度はプーやんの頭とジジイの頭が激突した。

「ぐあっ!」

 芋虫ジジイが飛び起きた。しかし寝ぼけているのか反応が鈍い。痛そうな顔になったり、タコみたいな顔になったりと、体が対処に困っているようだ。それに縛られているので、痛い頭を摩れない。体をクネクネさせて、涙目で悶えている。

「あっあっ、いてて、いてて、頭がいてて。なっなんだ、いててよ、いてて」

 哀れジジイのデコが、ぷっくりと腫れ上がる。コブ取りじいさんではなく、コブ作りじいさんになってしまった。床にうつ伏せに倒れるプーやんの後頭部も、だいちゃんに殴られた箇所が見る見るうちに膨らんだ。あっと言う間に大きなタンコブになったが、それでもぴくりとも動かない。

「おいおい、かわいそうなことすんなよ。プーやん気絶しちまったじゃねえか」

 だいちゃんは三白眼の目を俺に向けた。

「これで相棒が起きる」

「ジャック、手を解いてくれよ~。頭がいてえよ~」

 ジジイが芋虫状態で、俺のそばまで這って来た。デコにでっかいタンコブをこしらえて、情けない顔で摺りよって来ちゃしょうがない。後ろ手に縛っていたガムテープを、ペリペリと剥がしてやった。ジジイは急いでデコを摩る。

「あ~いてえ。うわっ! でっけえコブができてんじゃねえか。どうしてまったんだ? うん……? なんかおめえ、顔つきが変わったな」

 ジジイはだいちゃんを見て首を捻った。だいちゃんはソファーの背もたれに両手を広げ、ふんぞり返るように体を預けた。

「情けねえこいつらじゃ、らちがあかねえからな。もうこいつらはお役目ごめんだ。これからは俺たちが仕切るぜ。ヒヒヒ」

 卑しい笑い声が合図のように、気絶していたプーやんがむっくり起き上がった。

 プーやんの顔も、もうただのフグではなくなっていた。眉毛がキリリと吊り上がり、口がひょっとこみたいになっている。キリリ眉毛のタンコブフグになっている。だいちゃんに比べるとあまり変化はないが、それはご愛嬌だろう。

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