ひ弱
おばさんは肉付きが良いのでかなり重い。シャッターが開くのを待ってるだけでも、腰が痛いし汗がボタボタと滝のように流れ落ちる。無敵になると力はつくのだが、持続力は普段と変わりはないようだ。
こんなに一生懸命がんばっているのに、プーやんは思いやりがない。来た時の同じように、シャッターを五十センチしか開けないのだ。
「もう少し開けろよ」
「うん」
プーやんは素直にシャッターのボタンを押すが、一メートル開いたところでストップさせた。
「まだ低い。もっと開けろよ」
「ダメだよ。これ以上開けるなって、頭の中の人が言ってるんだから、もうダメだ。あと、これ外にいる刑事さんに渡して」
プーやんが二つ折りの紙を差し出した。
「ちっ」
大げさに舌打ちし、不満タラタラと紙を受け取った。
腰を屈め、よっこらしょとシャッターをくぐる。ただでさえひ弱なのに、今ので残り少ない体力を使い果たした。
おばさんを背負ってヘロヘロしながら表に出ると、
ウオォ~ッ!
ギャラリーの地響きのような歓声が上がった。
ヘロヘロのふらふらだが、この声援に応えなければいかん。大股を広げて足を踏ん張り、ビシッと胸を反らせて威張ってみせる。サングラス越しに辺りを見渡し、口をひん曲げニヤリと不適な笑いをかます。
血相を変えた飛田と数名の警官、それに救急隊員がタンカを押して走って来る。
「大丈夫ですか!」
飛田がおばさんの肩に毛布をかけると、救急隊員がテキパキとタンカに乗せて走り去った。
「ジャックさんも大丈夫ですか」
飛田が俺の肩に手を置いた。
「はい、大丈夫です」
「仕込んであるイヤホンとマイクは、気づかれてませんか?」
飛田が心配そうに聞くのでおかしくなった。
「へへへっ、まったく心配無用です。あんな大マヌケな強盗、お目にかかろうと思っても会えるもんじゃありません」
「そう、それならいいですが。ホールさんはどうしますか?」
「奴は芋虫のように転がってます。あれが本来の姿だと思わせるくらいに、バッチリさまになってますよ。――そうだ、これ犯人から」
プーやんから渡された紙を差し出す。
「なんでしょう?」
飛田は紙を受け取り、広げて見ると首を捻った。
「おにぎりの具、シャケ、おかか、昆布、それぞれ六個。ポテチ、柿の種、バターピー、あとは適当に。ビールいっぱい。これは犯人の要求ですか?」
「腹が減ったから食わせろ、ってことでしょうね」
俺と飛田は呆れながら銀行を見た。シャッターの隙間から、唇を突き出したプーやんが覗いている。目が合うと、はっとした顔をしてすぐに引っ込んだ。ガキのかくれんぼじゃあるまいし。すっとぼけやがって。
「まあいい、用意します。あとは支店長ですが……」
飛田は思案顔で呟くと、俺を見て困ったように眉をしかめた。
「ジャックさんのマイクから聞こえましたよ。犯人はダイナマイトを持ってるようですね」
「ええ、体にグルグル巻きつけてますよ。二人ともですからかなりの量です。四十本以上はあるかもしれない。下手に突入して引火したら、ビルごと吹っ飛ぶかも知れませんね」
「困ったな……」
「しばらく犯人の様子を見て、いい案を考えましょうよ」