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プーやんにだいちゃん

 シャッターを中腰でくぐっただけで、ゼェーゼェーと息が上り、ボタボタと汗も吹き出た。ジジイもヒィーヒィーと辛そうだ。自分で言うのもなんだが、運動不足の情けないヒーローだ。

 バキバキッと骨を鳴らしながら腰を伸ばす。両手を上げて伸びをすると、目の前にフグみたいなにいちゃんが猟銃を突きつけて立っている。さきほど手招きした奴だろう。

 丸いほっぺをおもいっきり両側から挟まれちゃったんだよ、ぼくチンかわいそうでしょ、的なフグにいちゃんは、ひょっとこみたいに唇を突き出している。顔もフグだが、体つきもフグが怒っている時みたいにズングリコロンとしている。それでも格好はいっちょ前で、迷彩色のツナギなんかを偉そうに着ている。それに、髪の毛もランボーを意識しているのか、ワカメが張り付いたような長髪に、赤いバンダナをこれまた偉そうに巻いている。

 フグにいちゃんはボタンを押してシャッターを閉めると、

「あっちに行けよ」

 銃口をクイッと動かし、俺たちに歩くようにうながす。

 ジジイは後ろからついて来るフグにいちゃんをチラッと見てから、ニヤついた顔を俺に近づけ小声で囁いた。

「ワカメに巻きつかれちまったフグみてえな奴だな。クククッ」

 窓口カウンターの前にソファーが四台並んでいる。その一つのソファーに、おっさんが苦しそうに胸を押さえて座っていた。この人は支店長だろう。その支店長の隣に、顔を歪めて足を摩っているおばさんがいる。二人は俺たちに気づき、「ほっ」とため息をついて安堵の表情を見せた。

「ごくろうだな、刑事さん」

 もっさりと間延びした声が聞こえた。もう一つのソファーに座っていた男が、これまたもっさりと立ち上がる。手足をプランプランさせながら歩いて来ると、俺たちの前で立ち止まった。

「わっ、でっけえな~」

 小柄なジジイが、真上を見上げ感心した。俺もジジイに負けず劣らず真上を見上げ、鼻の穴の大きさに「むむむっ」と唸る。

 二メートルを越えた大男が立ちはだかっているのだ。

 ひょろひょろとした体に泥棒ヒゲを蓄えた丸顔は、なんともアンバランスな男である。それに、フグにいちゃんとお揃いで迷彩色のツナギを着ているが、手足の裾が短いのでつんつるてんになっている。せっかく銀行強盗と言う大舞台なのだから、ちゃんとした格好をすればいいのに、非常に残念な人たちである。

「プーやん、じいちゃんの手足縛ってよ」

 でかい方がもっさり言うと、

「うんいいよ、だいちゃん」

 フグが元気に返事をする。

 和やかな雰囲気に包まれて、だいちゃんはジジイの手を掴み後ろに組むと、荷造り用のガムテープで縛り始めた。だが不思議なことに、ジジイの手よりも自分の手にガムテープが多くついてしまう。自分の手にベタベタついたガムテープを、フガフガ言いながら剥がす。そして再度ジジイの手をグルグル縛ろうとするが、また自分の手にベタベタつく。で、フガフガ剥がし、グルグル縛るが、ベタベタつく。またフガフガで、グルグル…………。

 指がモチモチしているせいよりも、不器用なのでなかなか上手く縛れないのだ。見ているとこっちがイライラしてきた。

「俺に貸せ」

 フグからガムテープをひったくり、ちゃっちゃっちゃとジジイの両手を縛る。そのリズムに乗って、ちょいちょいちょいと両足をビシッと縛り上げる。そのまま乱暴にゴロリと寝かす。ゴンといい音と共にジジイは床に頭を打ち付けたが、そんなのは無視。ジジイが睨むが無視。今までのお返しだ。

「ほ~っ、上手いもんだな。なあだいちゃん」

「うん、すごいね、プーやん」

 図画工作の授業で課題が上手く出来たのを、同じ班のクラスメートに感心されてるようだ。まったくもって緊張感が微塵もない。

「それで、次はどうすんだ? プーやんにだいちゃん」

 俺からあだ名を呼ばれて嬉しかったのか、プーやんもだいちゃんも満更ではない顔をして鼻を膨らませる。

「なんだよ、おまえいい奴だな。器用だしよ。おれ、おまえのこと気に入ったぜ」

 バン!

 大男のだいちゃんが、でっかい手で俺の肩を叩いた。無敵で痛くはないので良かったが、二メートルほどぶっ飛んだ。二回ほどコロコロと床を転がる。

「ぎゃははは、ダメだよだいちゃん。そんなに強く叩いたら。ぎゃははは」

 フグのプーやんが腹を抱えて大笑いしている。実に和やかな雰囲気である。

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