ふんぞり返り
「なっなんでしょう! 黒いマントを羽織った男が二人、銀行の前に現れました! 若い男と老人のようです。お揃いの黒いウエットスーツのようなものを着て、サングラスに黒いマントといった、奇妙な格好をしています。若い男の胸に白抜きの文字で……○に正の字が書いてあります。老人の方は……○になんでしょうか……? ホです。カタカナのホの字が書いてあります。あれはなにを意味しているのでしょう。――――今入った情報によりますと、あの二人組みは、現在人質になっている支店長と女性の交換要員の刑事と思われます。それにしても、なぜあんなヘンな格好をしているのでしょうか?」
リポーターの喧しい声が聞こえた。
警察の黄色いロープの向こうでは、テレビカメラや報道カメラマンが、一斉に俺たちに注目している。数名のレポーターがマイクを持ちながら、見やすい場所に行こうと右往左往している。野次馬たちも、片手に持つ携帯電話を高くかかげ、ベストショットを逃すまいとワァーワァー喧しい。
なんと気持ちがいいのだ。俺の人生でこれほど大勢の人間から、それもカメラから注目されたことはあっただろうか? 恐らく卒業式で証書をもらうために、壇上に上がった時ぐらいだ。いや、それ以上に注目度は高い。
報道関係者と野次馬たちの騒ぎに比べ、警察関係者の皆さんはどの顔もあんぐりと口を開けて固まっている。その中で、頭を抱えて力なく首を振っている飛田の姿が、立ち並ぶ警官の隙間からチラチラと見え隠れしている。
『ジャックさん、聞こえるかな?』
耳につけた小型イヤホンから、飛田の声が聞こえる。返事をするために、ウエットの袖に隠した小型マイクに口を近づけた。
「ばっちり聞こえますよ。しっかし、こんな小さいのに良く聞こえるもんですね。俺の声もちゃんと聞こえてますか?」
『ちゃんと聞こえてます。なにかあったらすぐに連絡してください。検討を祈ってます』
「ラジャー」
「おっ! ラジャーなんて、ずいぶんかっちょいい言い方するじゃねえか、ジャック」
ジジイが晴々と目をキラキラさせる。
「あったりめえよ。俺たちゃヒーローだぜ。さあ、行くぜホール!」
「ブ、ラジャーなんつってな」
俺とジジイは同時にマントを投げると、ブワッと景気良く宙に舞った。
オォ~ッ!
ギャラリーが一斉に歓喜の声を上げる。
なんといい気分! これぞ正しくヒーローなのだ。
俺とジジイは大威張りでふんぞり返り、大きな歩幅でズンズンと銀行に近づいて行く。
銀行の正面玄関は、シャッターで閉じられている。玄関の前で立ち止まると、俺は大きな声を張り上げた。
「銀行強盗の諸君! 人質を解放するため、今ここに我ら二人の勇者が参上したぞ。さあ、扉を開けるがいい!」
オォ~ッ!
またまたギャラリーの歓声が上がった。俺たちはふんぞり返り過ぎて、後ろに倒れそうになりよろめいた。
『あまり犯人を刺激しないで……』
イヤホンから飛田の声が聞こえるが、そんなの知ったこっちゃない。無視だ。ヒーローは堂々としていなければいけないのだよ。
ギャイン……ギャイン……
銀行のシャッターが金属音と共に、ゆっくりと下から上へと巻き上げられた。
オヨヨヨッ、とギャラリーたちがどよめく。警官数名が、あっち行ったりこっち行ったりとせわしなく駆け回る。
やがて、下から五十センチほど開いたところでピタッと止まり、耳障りな金属音も消えた。ざわついていたギャラリーも、水を打ったように静まり返る。
固唾を呑んでシャッターを注目していると、隙間からぬーっと片手が現れた。二、三度内側に振っているので、こっちに来いと手招きをしているのだろう。
「ついに現れやがったな」
ジジイが舌なめずりして、ニヤリと笑う。
俺は無言でうなずき、一歩一歩踏みしめるように歩きだした。
『気を、カチ、つけて、カチ、ください。カチカチ』
飛田は緊張しているのか、マイクに出っ歯が当たる音が混じり聞き取りにくい。
俺とジジイはシャッターの前で見つめ合い、「うむ」とゴルゴばりに渋くうなずいた。隙間から中に入ろうと腰を屈めると、バキバキッとお互いの骨が鳴る。運動不足で体が堅いのだ。だが、そんなことは気にせず、狭い隙間からヒラリと体を中に踊りいれた。
がんばれよ~!
ギャラリーの声援が上がった。




